田中雅美選手の泳ぎ その1

冬に行われた短水路世界選手権で平泳ぎ3種目(50m、100m、200m)で優勝し、200mでは短水路とはいえ世界記録を樹立。日本のトップスイマーから世界のトップスイマーに仲間入りした田中雅美選手の泳ぎについて考えていきましょう。
1,長所

最大の長所はテンポです。他の選手よりもテンポよく泳ぎ、そのテンポはレースの最後まで衰えることはありません。
次に目に付くのはプルの後のリカバリー動作への移行の速さ、それにともなう重心の移動キックのタイミングのよさでしょう。
最も抵抗の大きく、推進力のない「プルのリカバリー動作」をすばやく終えることにより、「無駄」を少なくしています。

2,短所

彼女の泳ぎはプルでの加速がありません
平泳ぎの1ストロ−クの中で最もスピードが上がるのはプルを終えたときです。しかし彼女はそこでのスピード感が見られません。
プルで加速が得られないだけでなく、1ストロークで進む距離も非常に短かくなっています。


3,結果
平泳ぎで最もスピードが上がるのは手をかききったときです。しかしながら彼女の泳ぎはプルによる最大速度が低いためスプリントスピードが欠如しています。
それを練習に裏付けられた持久力の強さ、スピードの欠如を補うピッチでカバーしているのです。

したがって泳ぎのもつスピードでレースを引っ張るというパターンはなく、レースの終盤でグイグイと先行集団を追いつめるというレースもありません。
スピードある選手が大きく、速く泳いでいるあいだに1ストロークごとに引き離され、レースの終盤にバテた選手をジリジリと詰めながらも、最後のスピードを持つ選手には離されて終わるパターンが多く見られます。
これは彼女の泳ぎは低速ながらもそれをキープする泳ぎだからでしょう。
泳ぎの印象もシャカシャカ、シャカシャカと肩が上下動するのですが、動きの激しさほどには肩が前には進みません。
またその肩の描く軌跡もプルの加速が高い、他の選手とは異なっています

プルの上手な選手の肩は、肩を斜め上から引っ張られるように、上に上がりながらも滑らかに「前に」進みます。そして最も高いところ(頂点)に達した後には「前に」進みながら、グライダーが滑空するように降りていきます
田中選手は水面から真上に一気に上がり、頂点に達した後にはすぐに真下に落ち始めます。彼女の長所である速いリカバリー動作と重心移動によりかろうじて前に進み始めますが滑るように前には進みません。

先日行われたパンパシフィック選手権の200m平泳ぎで世界記録を出して優勝したPヘインズは最初の50mを18ストロークで、2位のKコワルが16ストロークで泳いでいるのに対し田中選手は何と24ストロークも要しているます。
このことからも1ストロークが短く、それをピッチでカバーしていることが良く分かるでしょう。
その差は数にすれば6から8の差に過ぎませんが、実に50%の差になっています。
田中選手は1.5倍の労力を必要としているのです。

次回はその原因について考えていきましょう。


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