★  第5回  ★ 

 タンデム・ライディング
バイクの後ろに乗ったことがある人は、どれくらいいるのだろう?僕は以前、高校時代の先輩の後ろに乗せてもらったことがあったが、最悪の思い出しか残っていない。なぜなら、コーナリング時のその先輩のライディングのあまりの下手さに、恐怖感を感じてしまったからだった。そのせいで、タンデム(2人乗り)の快適なBMWに乗っていても緊急時以外のタンデムはしたことがなかった。
初めての後に人を乗せてのタンデムツーリングも、いい思い出は残っていない。その当時の彼女と秩父までタンデムで走りに行ったのだったが、走っている途中で彼女は何度も居眠りをしてしまった。「こっちも疲れているのに」と思う僕は怒り出してしまい、後味の悪いタンデムになってしまった。
10月の某日曜日、最近付き合い始めた彼女を恐る恐るタンデムに誘った。すると、彼女は「風に吹かれるのが好き」ということで即OKとなった。走り始めてしばらくは、僕も慣れないタンデムに緊張していたせいか、信号で止まったり交差点を曲がったりする時はふらふらして危なかった。しかし、帰り道の峠を走っている頃から、バイクがとてもスムーズに走るようになってきた。どうやら、僕はタンデムの重さと重心の変化に慣れ、彼女はタンデムシートで"荷物"に徹することに慣れたようだった。すっかりタンデムを楽しめる余裕がでてきた2人は、信号で止まっている時におしゃべりしたりして、疲れてしまうはずの帰り道も退屈することはなかった。
自動車と違い、バイクはタンデムすると運動性能が大きく変化してしまう。しかし、今回タンデムに使ったBMWは低重心でバランスを取り易い。その上、タンデムでも荷物が積めるようにパニアケースが装着できる。ヨーロッパでは、タンデムで泊りがけのツーリングに出かける人がとても多いからである。その上、タンデムで高速走行テストをしているのはBMWだけという話も聞いたことがある。
手放そうかと思っていたBMWだったが、少し気が変わった。今度は、もっと遠くへタンデムで行ってみたいと思う。

◆スーパーバイク世界選手権観戦記
昨年、ドゥカティ996でランキング4位となったP=F=キリ(伊)は、フォガティの前で何度もフィニッシュすることができたライダーの1人だった。その彼は今年スズキに移籍し、フューエルインジェクションとなった新型のGSX−R750の開発を行いながら戦った。第1戦・第2戦共に、マシンが仕上がらずいい成績が残せなかったが、第3戦ドニントンパークの予選一位を皮切りに、キリは確実に上位でフィニッシュできるようになっていった。
そして迎えた第10戦オーストリアのA1リンクで、キリは大活躍を演じる。第1ヒートは、コース上はウエットとドライが存在する難しいコンディション。その中をウエットが得意なキリは後続に10秒近いリードを築き、トップを独走する。「これで今季初優勝か」と思った時、グラベルの上に横たわるキリのGSX−RがTVに映し出された。第1ヒートは転倒リタイアで、今季初優勝はなくなってしまった。強い雨の中行われた第2ヒート、キリは再び独走態勢に入った。彼はそのままトップを守り今季初優勝を達成した。その後、第12戦ドイツのホッケンハイムで、ドライコンデイションの中で今季2勝目を達成し、マシンの速さとキリの実力を証明したのだった。後は最終戦SUGOを残すのみとなった。
今年もキリを応援する為に仙台郊外にあるSUGOサーキットに行った。毎年SUGOでは冴えない成績のキリではあるが、シーズン終盤の2勝で勢いに乗ったところで、今年こそ彼らしい走りを見せてくれるのではと期待していた。
第1ヒートのスタート前に恒例のピットウォークが行われた。これはファンサービスの為に行われているもので、ファンはお気に入りのライダーのサインをもらったりすることができる。僕もキリに会って話しがしたかったので、彼のピットの前に行ったが彼の姿が見えない。イタリア国旗を持ってずっと待っていると、日本人のスタッフが気が付いてくれて「もう少しで来るから待ってて」と言う。ファンサービスのいいはずのキリが出てこないのはおかしいと思い、キリの様子を聞いてみた。すると、「キリは日本に来てから体調を崩してしまい、注射を打ちながら走っている。それに、ここは日本人が速いからねぇ。」ということだった。フリー走行後もヘルメット被ったまま、スタッフと話し込むキリの姿を思い出した。着替えてでてきたキリだったが、相変わらずスタッフと話し込んでいる。さっきの人が気遣ってくれて、キリにファンが待っているということを伝えてくれた。すると、ようやくピットから出てきたキリは笑顔でファンにサインを始めた。ピットでは深刻な表情であったのに、さすがプロである。持っていったイタリア国旗にサインをしてもらったあと、「話をしたいのだが時間はあるか?」と聞くと、「う〜ん、レースの後だったらいいよ。」ということになった。
第1ヒート・第2ヒート共に、レースは各ポジションで接近戦が繰り広げられた。キリは今回はスタート直後から積極的に前に出て行き、接近戦を繰り広げる。結果は地元日本人ライダーが大挙してエントリーする中で両ヒート共に7位。WSBのパーマネントライダー中では3位という好成績だった。体調さえ完全だったら表彰台も獲得も夢ではない走りをみせてくれた。キリの活躍を初めて目の前で見れたことは、とてもうれしかった。

P=F=キリ 独占(?)インタビュー
レース終了後、キリのピットに行き彼が出てくるのを待つ。長い時間待ったあと、ツナギからチームウェアに着替えて控え室から出てきた彼は、手招きをして呼んでくれた。彼は僕の緊張を和らげるように「今日は大変なレースだったけど、結果には満足している」と笑顔で言った。

【大澤】 「何故、今年ドゥカティからスズキに移ったのか?」
【キリ】 「自分が必要とするものがドゥカティにはなかった。ちょうど、スズキがいいライダーを必要としていたのでスズキに移ったんだ。それに、これはチャレンジでもあるしね。走るたびにバイクはどんどん良くなっていったし、2勝することができた。」
【大澤】「オーストリアの1ヒート目は何故転倒してしまったのか?」
【キリ】 「あのレースは、ドライとウェットの路面が交互に現れる難しいコンディションだった。タイヤを滑らせてしまい転倒してしまった。あれは完全に自分のミス。転倒したことは信じられない。転倒しなかったら、あそこは両ヒート共勝てたはずだったし、勝っていたら今年は3勝だったのにね。」
【大澤】「今年の初優勝は雨のレースだったが、雨は得意なのか?(注)」
【キリ】 「雨のレースは嫌い。でも速いのは、きっと自分の乗り方が雨にあっているからだと思う。」 (注:キリは現役スーパーバイクライダーの中で、雨のレースはほとんど無敵である。GP時代も、雨の中では好成績を残している。)
もっと聞きたいことはあったが、僕の英語能力ではこれが限界だった。そして、87年と92年の彼の写真にサインをしてもらった。キリは92年の写真がとても懐かしかったらしく、奥さんを呼んで一緒に見ていた。 何も話せなかった去年に比べて、今年はほんの少しだけだったがキリと話しができたのでとてもうれしかった。その上、キリが息の詰まる接近戦を展開してSUGOにおける彼の自己最高位を獲得したので、レース観戦もとても盛り上がった。キリ自身、今回のSUGOの結果に満足していたことは、レース前とはうって変わった笑顔をレース後に見せてくれたことでわかった。来年は、イタリア国旗を持って表彰台に上がるキリを見てみたいと思うのだった。

■レース日記 第5回

今年から、MFJのレギュレーションの変更があり一部クラスのバイクには、エンジンオイルを路面にこぼさないようにするアンダーカウルの装着が義務づけられた。しかし、これがどれだけ効果があるかは疑わしい。フルカウルのバイクならいざ知らず、自分が乗っているエンジン丸出しのゼファーに装着してもあまり効果があるとは思えない。しかも、地方選手権のレーサには装着が義務づけられていないという。話を聞くと、「不景気の今、そんなことをしたらエントリー台数が減ってしまうから」らしい。安全の為に追加になったレギュレーションのはずなのに、なんともいい加減な話である。

■10月8日 筑波練習走行
11月のグランド・スラム4に出場する為には、前述のようにアンダーカウルの装着が必要になる。その話を前からしておいた月木レーシングさんにアンダーカウルの装着をお願いした。チェーンも摩耗が激しくなっていたので、交換をお願いした。アンダーカウル装着とチェーンが新品になったおかげで、僕のゼファーはとてもカッコよく見えるようになった。
気温22℃ではあったが湿度80%と高かったので、キャブのセッティングはそのままで走ったが、やはり、低速域のガソリンが薄いようだ。コーナの立上りも切れがない。コースは空いていたが、要所要所で遅いバイクにラインを塞がれてしまい思うように走れなかった。

■10月22日 筑波練習走行
ようやく秋らしくなってきた。気温も20℃前半で快適だ。前回、問題になっていたキャブのセッティングを変更する。1回目の走行は、中・高速域を濃い目に変更したが低速が今一つだった。そこで、2回目の走行は低速域を濃くしたが、今度は濃くしすぎてしまって、アクセルの開け始めバイクが安定しない。しかし、そんな状態でタイムアタックを試みたところ、自己最高タイムに近い1分8秒0を出すことができた。タイヤは3時間半使ってぼろぼろに近い状態。あまりいい状態ではない中での好タイムだったので驚いた。その後、ペースアップを図ったが、遅いバイクに引っかかってしまってからリズムが狂ってしまって一気に10秒台に落ちてしまった。いいタイムを出そうとすると体が力んでしまって上手くいかない、ということを改めて実感した。
帰宅後、バイクの清掃を行った。ホイールとブレーキ周りを重点的に行ったのだが、最近購入したエアガンがとても便利。ブレーキのすす汚れなどは、エアガンがあれば一気に汚れを吹き飛ばすことができるし、乾かすのも簡単にできる。その結果、ホイールはピカピカになるし、ブレーキの清掃の結果ホイールは軽く回るし、とても気持ちが良くなった。こうやってこまめに清掃していれば、トラブルを未然に防ぐことができる。清掃はメンテナンスの基本なのである。


バイク乗りの独り言 インデックスへ酔水新聞トップページへ

ご意見ご感想はこちらまで