★  第1回  ★ 

 ファーストコーナー
頭の中にはイメージができても、それが文章にできないのでいらいらする。久しぶりに原稿を書こうとしたものの、なかなかワープロを打つ手が動かない。文章を書くのは難しいと改めて思った。その上、編集後記に7月からまた連載が始まると書かれてしまったこともプレッシャーになってしまい手が動かなくなる原因のひとつになっていた。
今年の冬は例年に増してスキーに熱中してしまって、本格的にバイクに乗ったのは4月の筑波サーキットの練習が初めてだった。その上、今年はサーキットばかり走っていて、ツーリングにも行っていないしオフロードにも行かなくなってしまった。バイクに乗るのが嫌になったわけではないのだが、以前ほどバイクに対して熱中できない感じがしている。そんな事情があって何回か連載を休んでいたのでした。
さて、今晩あたり気分転換もかねてバイクで散歩に行ってみようかな。

■レース日記 第1回
去年は、走るたびに自信をなくしてしまうという最悪の状態だった。そこで今年は心機一転、セッティングを一昨年5位入賞した時と同じ状態にして走ってみることにした。
今シーズンが始まる前にキャブの取り付けの再加工とセッティング等の作業をいつもの月木レーシングさんにお願いした。今年最初の練習の前日、バイクを取りに行くとメカの田中さんからマフラーにヒビが入っていると言われた。去年の後半、エンジンの調子が悪い原因をキャブのせいにしていたが、マフラーにヒビが入っているのではキャブをいくらいじっても解決するわけがない。走った後はきちっと整備をしなくてはいけないということを改めて認識させられた。

■4月14日 筑波練習走行
今年の初走行。筑波サーキットは今年の3月に路面の全面改修を行っている。舗装してから間もないせいかタイヤがぬるぬる滑るような感じで恐い。しかも久しぶりの走行で体もカチカチ。今日は慣らしに徹した。

■4月28日、30日 筑波練習走行
会社が28日から連休になったので、2日間走り込むことにした。サスのセッティングを調子のよかったときの状態に戻したらとても乗りやすくなった。その結果、最終コーナでもアクセルを開けられるようになってきたが、相変わらずタイムは悪いのでがっかりする。キャブのセッティングはエンジン回転8千〜1万の全開域は問題ないが、アクセルの開け始めでエンジン回転がスムーズに上がっていかない。ジェットニードルの位置を変えてガソリンを薄くしたら多少良くなったがまだ完璧ではない。慣れないキャブのセッティング作業に手間取ってしまい納得のいくようにセッティングできなかった。

■5月10日 トランス・エコー HUGE−2クラス
今回はのレースは参加台数が28台と少ないので予選落ちの心配はない。調子の悪い自分にとってはありがたいが、「不景気の影響かな」と少し心配になる。
予選が始まる前、ピットロードで待機していると、FZ750に跨った大柄な人に「サイドカバーははずした方が、キャブに空気がたくさん入るよ。」と話しかけてきた。その人はミクニというキャブの会社の岡田さんだった。僕のゼファーについているキャブはミクニのライバル会社のケイヒンのキャブなのにわざわざ教えてくれるなんて。でも、予選開始直前だったので予選はそのままで走ることにした。予選はペースをつかめずに12位。今回は会社の後輩の井出君も同じクラスに参加しているが、買ったばかりのバイクに慣れていない彼は「予選は大澤さんについていってタイムを出す」と言っていたが、僕についてこれずタイムが出ずに不満そうだった。
決勝のスタートは可もなく不可もなくといった感じ。「スタートは得意だったんだけどなぁ」と思いながら1コーナをクリアすると、"黒いゼファー"が何台か前を走っている。去年のように巻き込まれたくないので早く抜きたいが直線がやたら速い。「早く抜かないと...」と思っていると、最終コーナのブレーキングで直前を走る#7のゼファーが"黒いゼファー」を抜いていったので僕も強引にインから抜いた。目の前を走るのは同じゼファー。「同じバイクには負けたくない」と思い、#7の後ろを追いかけた。岡田さんの助言でサイドカバーをはずしているせいか、少しエンジンの吹けもいいようだ。次の周に最終コーナでミスした#7の隙をついて抜くことができた。アクセルを早く開けられるようになってきて「調子が出てきたぞ」と思い気持ちよく走っていた。と、1コーナの立ち上がりで、フルバンクのままでアクセルを開け始めた時にリアが横に大きく滑ってしまった。その瞬間、転んだ自分の姿が頭に浮ぶが、なんとかバランスを保ち転倒は免れた。その後は転倒しかけたという恐怖心ですっかりビビってしまって、タイヤをかばう走りになりペースは落ちてしまった。そうしているうちに、背後から聞きなれた音がする。TRXに乗るオジサンに追いつかれてしまったらしい。何とか押さえようと思ったのも束の間、あっさり抜かれてしまう。そしてあっという間にオジサンの背中は小さくなってしまった。これで去年から3連敗だ。がっかりしながらゴールする。結果は10位だった。レース中には久しぶりに8秒台が出ていたのでうれしかったが、転倒しかかった後は一気に10秒台までタイムは落ちていた。タイヤは新品だから1回滑った位では問題ないのにあまりにも落ちすぎている。恐怖心から体が硬くなってしまったとはいうものの情けない。
一方、後輩の井出君はスタート大失敗したという。でも、彼は僕より後でゴールしたのにも関わらず、ベストラップでは彼がコンマ数秒上回っていた。それを聞いたとき、とても悔しかった。

■5月12日 筑波練習走行
調子が出てきたレース直後の練習。しかしタイムは悪い。タイムを出そうと焦るばかり。体が硬くなってしまって走りもギクシャクしてしまっている。速く走るのは難しい。

■5月22日 筑波練習走行
5月の終わりになってくると気温が高くなってくる。そうなると、キャブのセッティングを変える必要が生じる。まだ、キャブのセッティングの要領が分からないので、思うようにセッティングが進まない。その上、土曜日のサーキットは混雑していて思うように走れない。VF友杉さんは最近の練習で好タイムを出していて調子もよさそうだ。次週29日のレースがとても不安になる。

■5月29日 テイスト・オブ・フリーランス
このイベントはとても人気があるのでエントリーが50台を超える。ということは予選落ちもありえるということになり、久々に緊張が高まる。その上、キャブのセッティングが完璧でないまま予選を走るのはとても不安になる。
予選が始まると不安は的中した。走っても走っても、前との間隔がなかなか詰まらない。おまけに"直線は速いがコーナが遅い"バイクにひっかかってしまって思うように走れない。そんなことをしているうちに予選は終了してしまった。「まぁ、9秒台が出ていればいいだろう」と楽観していた。予選が終わった後にパドックで同じゼファーの櫻井君に「僕たち予選ぎりぎりですよ、知ってました?」と言われた。慌てて予選結果を見て冷や汗がでた。なんと予選28位。櫻井君は30位だ。今回は天気もいい上に路面改修のおかげでみんないいタイムを出しているようだ。
ところで、前にかぶっていたヘルメットは自分で考えた色で塗ってもらった世界でただ一つのヘルメットだった。しかし今かぶっているのはGPライダーのレプリカモデルなので、自分のものという実感がない。今回のレースに筆で文字を書いてくれる"ペティー・ペインターズ・パラダイス"の鈴木さんが店をだしていたので、早速頼んだ。何色で書いてもらうか悩んだ末に、名前はマゼンダでゼッケンは黒で書いてもらった。これでやっと自分のものになった感じがして、とてもうれしかった。
キャブのセッティングは、あと少しでなんとか上手くいけそうな感じだ。全体的に少しガソリンが濃いようなので、メインジェットを絞ってみることにする。「キャブのセッティングに失敗しても予選28位だから勝負は関係ないさ。」と開き直ってレースに望むことにした。スタート前のウォームアップが始まった。走りながらアクセルを開け閉めしてキャブのセッティングを確かめてみた。すると見事にエンジンが素早く反応する。セッティングが上手くいったようだ。ところが気負いすぎたのかスタートは大失敗。後にいた櫻井君にも抜かれてしまった。今回から、彼のゼファーは排気量が大きくなっているので加速がいい。何とか置いていかれないようにとアクセルを開けるが、目の前を走るニンジャを抜くことができない。コーナの入り口では並ぶことができても、立ち上がりであっという間に置いていかれてしまう。へアピンでインに入ろうとしたがかぶせられてしまい抜けなかった。次の周、今度は強引にインに割り込んでニンジャを抜いた。強引にニンジャを抜けたことで気持ちが吹っ切れたのか、僕のペースは上がった。今回のレースはレベルが接近しているために皆団子状態で走っている。いつの間にか櫻井君が目の前を走っている。彼はコーナの進入が上手くいかない様子だったので、得意の1コーナの進入で櫻井君を抜く。その後も、先行するバイクを次々と抜いていくことができる。こんな気持ちレースは久しぶりだ。そうしているうちに、予選で10台以上前にいるはずのVF友杉さんの背中が見えた。「なんとか追いつきたい。」と思うが2秒くらい離れている。「でも無理かなぁ。」と思っていると意外にも2周もしないうちに追いついてしまった。彼は他の1台とバトルをしているようだったが、バトルをしているとタイムは落ちる。友杉さんとバトルをしているバイクが2ヘアピンの立ち上がりでリアを滑らせてしまった。すでに先行している友杉さんを逃がすまいと、僕はインからそのバイクを抜いた。裏のストレートで友杉さんの後ろにぴったりついた。おそらくレースもこれで最終ラップのはずだ。友杉さんの後ろで走りながら「気づかれているとまずいな」と思った。なぜなら、最終コーナの進入で抑えられてしまったら彼を抜くチャンスはもうない。そして、いよいよ最終コーナ。ブレーキを少し遅らせて友杉さんのインに入る。友杉さんは、僕がいるとは思っていなかったようで、びっくりしてこっちを見ているように思えた。見事、友杉さんを抜いたがブレーキを少し遅らせたのでラインを外してしまう。友杉さんもそれを見逃さずにインをついてくる。何とか押え込んでそのまま最終コーナを立ち上がる。と、目の前にはチェッカーフラッグが振られている。「やった。勝った!」まるで優勝したような気分だった。

最終コーナで抜かれたことが友杉さんはとても悔しかったようで、レースが終わった後に僕と話していても悔しいを連発していた。櫻井君と話をしていたときも「友杉さん、抜かれたことをとても悔しがっていましたよ」と言っていた。今回のレースは順位はどうでもよかった。レース中に8台も抜いたことは失いかけていた自信を取り戻すことができたし、そしてなによりも楽しく走れたことがとてもうれしかった。

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