北海道一人旅

パソコンで格安航空券入手  12月4日、パソコンで航空券を予約した。本当にできるのだろうか。2時間後、蕨駅の窓口で申し出る。「伊藤様、2月9日、741便釧路行きですね。」 すごい、感激。さっき入力したばかりなのにもう買える。どうなってるんだろう。すごい。しかも34000円が14500円。  2/9・10と11日10時までは厳冬の北海道初めての一人旅。ほぼ75%の不安を抱えての決断。

チーフパーサーのご挨拶  決断したものの、30%の不安を残したまま出発。  一度使ってみたかった「スーパーシート」。釧路まで3200円。奮発して購入。広いシートに腰を降ろす。ふむふむ…、いい感じ、と、「どうぞ」の声。スチュワーデスの手にはおしぼりが。後ろの方のシートはまだ荷物整理のざわめきがする。シートベルトのアナウンスが終わると、私の前にかしずく一人の女性がいる。「チーフパーサーの白井です。ごゆっくりお過ごしください。」と。快晴の空、東北の背骨の上を飛ぶ。「あれは、中善寺湖です。」「磐梯山がとてもきれいに光っていますね。」と解説してくれる。8席あるスーパーシートの利用客は、私一人。降りるとき、もう一度後ろを振り返った。大勢の人が狭い座席にひしめくように座っていた。不安、10%減。  荷物の引き渡し所。ベルトで一番最初に運ばれてきた荷物は私のだった。ぽつんと一つだけ。

成仏を、エゾシカさん レンタカーを借りていざ出発。数キロ走って「どうも違う」。反対方向を走ってしまったようだ。私はものすごい方向音痴。一泊目の鶴居村に向け直して、再出発。釧路展望台まで来るとようやく北の大地にいる実感が湧いてくる。平野さんに電話。福田君には不通。  昼飯を食い、明日の朝の食料を買い込み、釧路湿原の農道をコッタロ湿原に向けて出発(明日早朝からのコースの下見)。快晴に恵まれ、湿原の雪が輝く。カラスの不穏な動きが気になる。ふと、開けた白い左斜面地を見ると、真ん中にぽつんと黒い物が。止めて双眼鏡でのぞく。シカの遺体。骨が見えている。熊に食われたのか、足跡はキツネのようだ。恐る恐る斜面地を登ってみる。頭部と足4本、あばら骨だけが残されたエゾシカ。後での話だが、1月末までの狩猟期間に撃たれ衰弱し、食われたのだろうと言う。

♪なごりおし〜いは、おたがいさん♪  道の端に、釧路川の支流が音もたてずに流れている。川面の色は黒。所々太陽に照らし出されて光る。 白の雪原と黒い川面そして光る色。きれいだ。気に入った所で止め、眺め、気楽な一人旅。もう不安は ―10%。第一の目的地。シラルトロコの近くにいる(であろう)エゾフクロウに会いに行く。が、滅多に会えないらしい。H氏は、7回来てまだ一度も会っていないという。例によって何度も道を間違えて、ようやく目的に場所を見つける。福田氏の説明よろしきを得て目的の「木」もすぐに発見。そして目を凝らすと……、いた、いた。木のほこらの中にちょこんと鎮座ましましている。酔水新聞先月号に紹介されたあのエゾフクロウが目の前に。  道路脇に座して、じっくりご対面。知ってか知らずか、私と同じ細い目をしてまったく身動きもせずにこちらを向いている。声をかけたが知らん顔。だが、人っ子一人通らないこの場所、私は彼(彼女)とコーヒーで乾杯。小一時間、語らいを続けたがおいとまの時間。なぜか親父がよく口ずさんでいた歌が出る。♪♪・・なごりおしい〜は おたがいさん〜・・♪♪(春日八郎、しってるかなあ?)

朝、西の空はだめ  つるいグリンパークが2泊の宿。広い部屋、ツインベッドを独り占め。きれいで食事もうまい。そして安い(一泊夕食付きで5100円?お薦めします)。食堂に通され夕食。不安はマイナスになったが、 一人での食事は旅愁を誘う。寂しさは「マンウオッチング」で紛らわす。明日の出発は午前4時半、準備を整えて床につく。  4時起床。雪がちらついている。が、コーヒーを湧かし、パンを食べ準備する。何度と無く部屋の窓から空を覗く。雪はやんだが星は見えず。曇りでは「コッタロ湿原の日の出」はかなえられない。5時、恨めしい気持ちでロビーへ出かけ玄関から空を見たら星がまたたいている。月も。あれーっ!! あわてて部屋に戻り出発の用意。そうか! 窓から見えたのは西の空だったんだ。そして学んだ。さっき降っていてもすぐ晴れになる事も。

最高、コッタロ展望台からの日の出  5時15分、漆黒から濃紺に変わり始めた空の色を気にしながら車を飛ばす。昨夜の積雪10センチ。。コッタロへの道は農道なので、除雪が心配だったが、運良く左車線だけ取り除いてあった。感謝、感謝の気持ち。空の色は、刻々と変化し山際がブルーからスカイブルーへ、そしてピンクがかってくる。本当はもう現地でスタンバイしている予定だったのだが。空の色が気になる。雪道も無理できない。  はやる気持ちを抑えつつも急ぐ。6時ちょっと前、到着。リュックを背負って階段を上る。息が切れる。転ぶ。足下がふらつく。息が切れる……。が、展望台は独り占め。眼下に釧路湿原が広がる。澄み切った空、遮蔽物いっさいなしの空間、モノトーンの湿原、薄黒い山姿、その際はピンク色、山の上にはうすい雲が光る。雲の上はスカイブルー、そこにまだうす青白い三日月様がいらっしゃる。  やがて空の色は、ピンクからオレンジにそして赤色に……。下から雲を照らしていた太陽が派手な自己主張をし終わると今度は湿原を照らす。モノトーンの湿原が見る見るうちにその色を身にまとう。日の出と共に鳥のさえずりが聞こえてくる。 ……贅沢だ、もったいない一人では……。遠くからかすかに車の音がする。除雪車が反対側を掃いている。「ありがとう」と一枚記念写真をぱちり。あんパンとコーヒーで朝食。約1時間半、サンライズショーは幕を閉じる。

恐怖、白い暗闇  道に並行する川縁に降り、のんびりと散歩する。まだ9時前だが無風で暖かさを感じる。気温はマイナス8度。時間に余裕ができ、雪の摩周湖へと足を延ばす。コッタロより標茶まで約30分。風が徐々に出てくる。道の左右につまれた昨夜の雪が舞い始める。また30分、弟子屈への道は強風にあおられるような「雪あらし」。道の上を雪が走っている。車のスピードよりも速く。空は曇天と化す。  「摩周湖まで右折10キロ」の標識が見える。道に勾配が出てくる。もうすぐ摩周だが…。道の上を走っていた雪は、空に舞い上がり始める。その瞬間、目の前は真っ白。スピードを落として進むが白いカーテンは何度も揺れ、進むごとにその回数は増える。行き交う車も少なくなる。が、行ってみたい気持ちが車を進める。うわあっ! カーテンは揺れず、白い暗闇の世界ができる。目の前、上下・左右・前後すべて全く区切りのない一次元の世界。数秒で視界が効くようになるが、もうアカーン!!

「これから、行きます」  恐怖から逃れ、「摩周温泉道の駅」駐車場で昼食とする。名ばかりの「駅」でトイレがあるだけ。風は強まり停車中の車が揺れる。雪は舞う。仕方なく(機会があれば一度はやってみたいと思っていたのだが)助手席フロアーにガスコンロを設置。湯を沸かし、カップラーメンとチョコパン・ソーセージの丸かじりで空腹を癒す。自由っていいな、と思いつつもこの天気多少不安がぶり返す。と、そこへ天使のささやき。携帯電話が鳴り福田君の声。天の見方は我にあり。期待もしていなかった「合流」ができるとのこと。エゾフクロウのあの木下で!  先についた私、また枯れ(彼女?)ほこらに鎮座ましましている。(平地は穏やかな小春日和) 「やっ、こんにちは。今日も来たよ」軽い挨拶を交わす。今日は落ち着きが無く顔を左右に振っている。飛び入りのお客さんが来た。アカゲラだ。初めてみるアカゲラに感動。カラスも4,5羽その木の周りを飛び交っている。それにしてもうるさい。カラスも「ホーホケキョ」と鳴けばみんなに愛されるのに。やがて、車の排気音が近づく。福田・立川さんと合流。異境の地での再会は感動的な物である。  「明日もいるかなあ、平野さんたちがくるのに…」 談笑を交わし、夜の宴会を約して別れる。

「けあらし」  本場北海道沖でとれたシシャモでの宴会の翌朝午前5時。今回の目的の一つ「けあらし」を見に雪裡川の音羽橋に向かう。人の顔が判別しにくい暗さ。橋の上にはもう50台以上のカメラが据え付けられている。ここは、タンチョウのねぐらになっている。しかも、気温がマイナス15度以下になると「けあらし」(川面から水蒸気が上がりすぐに凍り湯気のように白くたなびく。それに日の出が重なると白がピンクや赤紫に変化していく)が発生する。この時の気温はマイナス22度。防寒着をまとった体は顔しか寒さを感じない。暗さがとれるに従って川面が見えてくる。けあらしは、期待通りに現れてくれた。 川の両岸の木立は、水蒸気が凍り付き神秘的な「霧氷」の姿を見せてくれた。目の前は水墨画の世界、いや、幽玄の世界。すばらしい自然現象である。  今回の目的で、ダイヤモンドダスト以外はすべて見ることができた。なんて俺は引きがいいのだろう。自分で感心する(後で何度も人からも言われる)。

   2月11日。午前8時。音羽橋を発つ。満足感に浸りながら釧路空港へと車を走らせる。もううすぐ、臼井・宮嶋・平野さんたちが釧路空港に降り立つ。一人旅の余韻を胸に、牛乳を一本飲みほす。

 【つづく】 合流以降の「旅行記」は、専門のライター宮嶋智浩氏「おじさんたちの道東旅日記」へ。


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