●特集「俺たちはJリーグで6番目に強いチームじゃない」(3)
(文:オヤジ 2008/2/4)
2008年は裏切り者の登場で幕を開け、そして真価を問われる一年となる
私はこの特集「俺たちはJリーグで6番目に強いチームじゃない」の第3回目として鈴木監督のチーム作りと采配について書く予定であった。しかし、浦和についての提言をまとめている最中に思わぬ事態に遭遇した。坂本將貴の裏切りである。遅きに失した感はあるが、私なりに坂本將貴移籍について論じ、その上で今後のチーム編成等についても私見を述べたい。
真の裏切り者は坂本將貴だった
私は前回、坂本の成長こそがアルビレックスのサイドを巡る葛藤を解決するということを
本特集(2)にて書いたが、早くもその目論見は崩れてしまった。昨年末からスポーツ新聞で「ジェフ、坂本にオファー」を目にする事はあったが、それを目にし、「馬鹿も大概にせい。戻るわけが無かろう」と高を括っていた。私だけでなく、大抵のサポーターはそう思っていただろう。なぜならば、坂本は入団会見のときから「(アルビ加入が)最後の移籍」「このチームで何かを成し遂げたい」などと事あるごとに発言していたからだ。このような発言をしている人間がまさかアルビレックスに対して忠誠心を実は持っていないなどという事は到底考えられなかった。
さらに思い出されるのは坂本が新潟に加入した経緯だ。坂本は2006年のオフにジェフのフロントに「若手を使う」と半ば切り捨てられるようにして新潟へ移籍してきたのだ。それは坂本だけに限らず、中西永輔もかつて同様の手口で切り捨てられた。ベテランを大切にしない印象のあるジェフにいまさら戻ることなど通常では考えられない。
年が明け、「坂本、千葉移籍濃厚」の報を目にし、これは最早避けられない事態なのだと感じたとき、私は沸々と怒りがこみ上げてきた。我々は馬鹿にされていたのか。我々は彼の言葉を、態度を信じていたからこそ、坂本に「一緒に掴もう 俺たちと未来を」と歌ってきたのではないか。我々が一年間信じ続けてきたものは一体、何だったのだろう。
オフィシャルサイトにて「坂本 將貴 選手 ジェフユナイテッド千葉へ移籍のお知らせ」という文字を見たときは怒りを通り越し、坂本將貴の頭の悪さに心底呆れてしまった。私は坂本の末路を予言したい。また数年後ジェフに若手が出てきたとき、彼は何事もなかったかのようにバッサリ切り捨てられるだろう。二度ある事は三度ある。彼はそのことを冷静に考えるべきだった。そしてこの移籍によって坂本將貴という人間の価値そのものが堕ちるということも。
坂本將貴は大言壮語をいくら吐こうとも所詮は口だけの男だったのだ。自他共に認めるリーダーとして振舞うのならば、自らの言動と生き方に責任を持つべきである。坂本の行動は一見、千葉への恩義を果たしているように見えるが、それがために新潟に不義を働いている。千葉への復帰を坂本は
リスクと表現しているが、ただ単純に「居心地のいい場所」に戻りたかっただけではないか。また彼はインタビューで
「責任感」とよく口にしていたが、新しい責任のために現在そこにある責任を放棄する人間ははたして「責任感」があると言えるか。チームとサポーターは坂本の偽物の責任感とやらに振り回された。その代償はとてつもなく大きい。
坂本將貴個人に対しては裏切り者の烙印を押すことで何とか納得しようとしている。これはあくまでも仮説でしかないが、坂本は鈴木監督の起用法に不満を持っていたのではないかとも考えている。
「サイドを巡るチームの葛藤」で述べたが、坂本は鈴木監督の求めるサイドハーフ像に適合する選手ではなく、サイドバックとしても不十分である。その中でSB→SH→SBとコンバートを繰り返されたことで、鈴木監督に何らかの疑念を抱いたのかもしれない。私は坂本移籍の真相を確認する術を持たないが、この仮説が当たっているとすれば、既にアルビは左サイドを巡る問題でファビ、慎吾、坂本と3人の犠牲者を出したことになる。
とはいえ、坂本の移籍が正当化されたわけではない。私が激怒しているのは坂本將貴という人間に失望したからである。彼にアルビレックスの夢と未来を託した私が馬鹿だったのだ。私はいまではそう思うようにしている。
現時点での補強を評価する
アルビレックスが2008年へ向けてこれまで行ってきた補強は実に的確だといえる。退団が昨年の夏ごろから噂されていたエジミウソンに代わるFWとしてアレッサンドロを早期に獲得した事は大変評価できる。
また、シルビーニョの代役と言う形ではなさそうだが、「左利き」のミッドフィルダー・ダヴィを獲得し、これによりサイドを巡る問題は決着するかもしれない。坂本が在籍した状態であれば、シルビーニョの代役と言う形でボランチを獲得しただろう。しかし今回、攻撃的ミッドフィルダーを獲得したのは、坂本移籍により低下する左サイドの攻撃力の穴埋めという要素が強いと考えられる(一部ではダヴィはボランチも可能と報道されているが…)。アレッサンドロ、ダヴィの獲得でサポーターの不安は大きく解消されたことであろう。
エジミウソンの穴を埋めるアレッサンドロにしろ、坂本移籍による左サイド攻撃力の低下を防ぐ意味で獲得されたと考えられるダヴィにしろ、彼らが「はずれ」であれば、2008年のアルビは一気に苦境に立たされることになり、その点において、フロント陣のスカウティング能力と坂本移籍という緊急事態における対応力の評価は新外国人の成績如何であると言える。アレッサンドロとダヴィの奮起に期待したいところである。
また、本田拓也のような即戦力の獲得は無かったが、鈴木大輔を中心に有望な新人を獲得できたことは「育成」いう意味で大きな収穫であることに違いない。アルビは浦和とは異なり、恥も外聞も無く札束で選手を強奪し、寄せ集めるチームではない。アルビは着実に、そして粛々と「俺たちの選手」を育てるクラブであってほしい。アルビレックスの風土はマネーサッカーを欲しないだろう。
さて、シルビーニョが抜けた穴となるボランチのポジションには現時点で千葉が座ることが濃厚だ。千葉は昨シーズンもシルビ不在時にはボランチの代役を担っていたが、攻撃では千葉に展開力があまり無く、物足りない印象はあったが、守備に関しては本間・千葉コンビのほうが高い印象があった。千葉はセンターバックで起用されるよりも、ボランチで起用されるほうが持ち味を発揮できる。千葉は後ろでカバーしてくれる選手がいると、思い切り良くボール奪取が可能であるが、最後列となるとその思い切りの良さがやや影を潜める。彼の良さを引き出すのならば、やはりアンカーの位置がベストだろう。今シーズンは真骨頂とも言えるポジションでの起用でどこまでやれるか。今シーズンのアルビの浮沈は千葉が握ると言っていい。
また、懸案の左サイドバックには攻守そつの無い松尾か、センターもできる守備力がウリの中野か、それとも驚くべきコンバートがあるのか、誰がレギュラーを掴むのだろう。Jリーグでも好選手の絶対数が少ないポジションなので、この時点で他チームから引き抜く事は難しい(強いてあげるならJ2サガンの高地くらいか)。それゆえに在籍選手で一年間破綻することがなければ上々とすべきである。私はこのポジションには多くは望めないと考えている。
私自身が補強を最も望んだポジションはGKである。北野、野澤はシュートへの反応は申し分ないが、キックがどうにも上手くない(なぜか二人とも飛距離も無い)。強豪チームには必ず素晴らしいGKがマウスに鎮座するものだが、彼らの今の力量には正直不安がある。本当に優勝争いに乗り出すのであれば、菅野孝憲の獲得レースに参加すべきだった。彼は南雄太のいる柏では何とももったいない。黒河が加入したが、二人を脅かす存在になれば良いが…。
坂本ショックの影響は色濃かったが、スカウト・フロント陣はなんとかその穴を埋める補強を捻出ことができたと言える。背中スポンサーが決まっていない時点では多くの選手を補強することが難しい状況下であることを勘案すれば、その割にレベルの高い仕事だったのではないかと言える。
しかし、選手層の薄さが解消されたわけではない。特に不安があるとすれば守備的なポジションになるだろうが、もし仮にシーズン前半戦に守備が崩壊するようなことがあれば、是非とも菊地直哉の獲得を考えて頂きたい(さとさん氏には未練がましい上に現実味が無いと言われたが)。菊地は残念な事件で日本を追われる事となったが、彼は日本サッカーに必要な人間である事に今も変わりは無い。そして菊地を温かく迎えることができるクラブはジュビロか、かつて自身が苦境を救ったアルビレックスのどちらかしかない。私はもう一度彼の惚れ惚れする華麗なカバーリングが見たい。アルビレックスの風土が彼の過去を溶解してくれると信じている。
ストーブリーグに際し、毎年思い知らされる事はアルビのチームとしての財務基盤の弱さだ。
アルビは観客収入ではJリーグでも上位に位置するが、既に飽和状態または緩やかな下降線を辿っている。スポンサーによる資金(広告収入)が重要な地位を占めるJリーグにおいては企業チーム出身でないアルビは財務的に不利な状況からなかなか脱出できないでいる。マネーサッカーはアルビレックスの風土に馴染まないであろう。
しかしながら、強豪チームとなっていく上で、確かな財務基盤を獲得する事は必須条件となる。IT成金や石油王のような人物がチームに資本を投じてくれればよいのかもしれないが、それではアルビレックスのアイデンティティを壊される危険性が高く、意味が無い。新潟の風土とアイデンティティを守りながら財務基盤を強化する方策を見出した時、このチームは初めてビッグクラブへの一歩を踏み出すことができる。
坂本將貴の思いもよらぬ裏切りをダヴィ獲得という機転により収拾したアルビだが、財務基盤の弱さ、選手層の薄さなどの根本的な悩みは未だ解決する兆しは見えず、むしろそれらがじわりじわりとボディーブローのように効いている感覚すらある。そのような時だからこそ、「タイトル」や「5位以内」などと高望みをせずに、今年はもう一度J1に残留することを真摯に見つめ直すシーズンであってもよいのではないだろうか。坂本離脱を含め、チームをもう一度作り直さねばならない今シーズンこそ、アルビレックスはその真価を問われることとなる。
(余談)
偉そうな事を言いつつも私はアルビに大企業のオーナーを紹介するツテも無ければ、大規模ソシオを構成することもできません。しかし、その免罪符としてサポーターズクラブから後援会にサポートを変更する手続きを取っています…。先ず隗より始めよ、ということで。