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■ 光あふるる

 街角で、どこかの母親が我が子を呼ぶ声に振り返る。
 あの人と同じ名前の子どもがいるだけだろうと、分かっているのに。それでも、そちらを見ずにはいられない。
 その名前は、ぼくにとって特別なものだから。

 そばかすだらけの赤毛の少年が、母親の元に駆け寄っていく。
 ただそれだけの情景に、口許がほころぶ。

 こんなとき、いつもあの人のかけらを求めている自分に気づく。
 それは例えば名前だったり、声だったり、髪の色や背格好──そんなふうに、わずかな似姿にさえ、どうしようもなく心は惹かれてしまう。
 今までは気に掛けてもいなかった事柄が、ぼくを幸せにする。ほんの小さなことで、毎日は輝いて見える。

 目に映るものを“温かい”“美しい”と感じるのは、心にあの人への想いがあるから。
 ぽかりと空いた穴が埋まることはないけれど、そこから止むことなく溢れてくる愛しい気持ち。
 あの人を想うとき、こんなにも世界は温もりに満ち、光は謳う。

 そっと革の手袋に触れる。
 彼からの贈り物。不安なとき、淋しいとき、彼に会いたくなったとき、触れる癖がついてしまった。
 内側に収められた護身用の銀の短剣には、魔を退けるようにと、聖なる祈りがこめられているそうだ。

 どうかあの人にも、聖なる加護がありますように。今日が良い日でありますように。明日も晴れますように。
 あの人に、また会えますように。
 いつも呟く小さな……それでも肌守りの小さな短剣には、荷が勝つかもしれない願いごと。

 彼にとって一番大切な人は、自分ではないと知っている。
 それでも、ぼくと過ごした時間を、ときどきは思い出してくれているだろう。
 寝室の薄明のまどろみ。中庭の午後の陽射し。仰ぎ見た星ぼしのささやき。眠る前に蝋燭を消す刹那の、穏やかな気持ち。

 見上げる空は、彼の国に続いている。春霞の夕暮れ空に、ぼんやりと寝ぼけた月がのぼる。

──あなたは今、何をしていますか?
   誰を、想っていますか?



  • 拙作『ただ星のように』の対になる、ゴードン視点のモノローグです。
  • おおよその地図しか出回っていないうえに縮率も不明ですが、アカネイアとアリティアには時差があるはず。たぶん2〜4時間くらい。
    弟子は所用で出ていた街から、王宮内の兵舎に帰るところです。そのころ師匠は寝室で寛いでいる、というイメージ。

20141213up


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