なみだばれ
「青いですねえ、今日の空も」
ここの空も、と言ってもいいかな、と、凪いではいるものの乾いた大気に目を細めながら考えた。
「結構なことじゃないか」
隣からの師匠の声に小さく頷く。
日を変え、場を変えても戦下にある僕らのすることといったら変わらない。せっかくの空の青さも視界や足場の良さの確約程度だ、それでもあの清涼な青さを見ると少しは胸のつかえや淀みが消えてゆく。
そんな事を考えながら隣に立つ師匠の顔を見、目が合った。
「俺の顔が好きで仕方ないといった顔だな」
またいつもの軽口だ。慣れた僕の返す憎まれ口もまた、いつもの調子だった。
「滅相もない」
しようもないと言ってしまえばそうなんだけど、こんな会話でも心地良いのだから仕方がない。
「初々しかった頃のお前に会いたいものだ。あの頃はお前も可愛げが……」
「待ってくださいよー……」
言いながら、ため息混じりにつぶやく師匠の肩に腕を廻して体重を預けた。
「どう、した?」
「仕草もお声もお心ばえも全て好きだと何度もお伝えしているのに、顔だけみたいにおっしゃるからですよ」
切れ長の目を見開いて返してくれる師匠に僕は続けた。
この人は自分から僕に触れることは躊躇わないくせに、僕から不意に触れるといつも少しだけ……驚く。今のように。
「ふうん、信用に足る台詞かね」
その後、こうして照れ隠し丸分かりの憎まれ口とそっぽが揃いになるんだ。
もう……ずいぶん前に僕らは契り、またそれ以上に長く一緒にいてもこの人はこうで、だから僕はこの人に不意に触れることをやめられない。
「繰り返しているはずだけどなあ、幾度も」
触れることではなくて、僕の心を告げることを、だ。冬の寒気が目に滲みて、また目を細めると僅かに涙が滲んだ。
「無粋な返答ばかり繰り返していては棄てられるかな。お詫びに何かお望みをひとつ」
僕に向き直ってそう言う師匠の表情にふざけた様子はなくて、ああ、勘違いされてしまっただろうか、と、なるたけ自然を装って顔をこするついでに涙を拭った。だけど涙の理由をわざわざ語るのも、それこそ無粋だろうか。
では……と顎に手を当て考えてから、僕は言った。
「口づけを」
「ろくでもないものを欲しがるな、お前は」
僕にはろくでもなくありません、と告げた僕の声は、温かな師匠の口内に曖昧に反響して消えた。
目を開ければすぐそばに師匠の目があって、今の僕と同じ位の半眼で……ああ、本当に、さっき見た空の青さ以上にこの青が僕の心をぬくめ、つかえを取り除いてくれることを、後でこの人に伝えよう。
うん、そう……後で。
だから今はもう少しだけ、このままで。 師匠に合わせて僅かに口角を上げ、寒気と涙の滲みる目を閉じた。
ちなみに台詞(カギカッコつきのとこですね)の頭文字を集めると、
あけおめ うまどし ふくぶくろ となります!お正月っぽい!
【F3さま付記より】
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