少女漫画サイト『FIRST POWER』(管理人:uno様)
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「……何よ、まだいたの?」 おもむろに嫌そうな顔をする茅野に軍司の顔が曇る。 「その……悪かったよ。メイドとか」 「何よ? 謝るくらいなら最初から馬鹿な事言い出さなきゃいいじゃない」 そう言い返してから、茅野は自分の言葉を追いかけるように反省モードになる。 ――あぁもう。これじゃいつもと同じじゃない。 「思ったのと違ったな」 「え?」 軍司の言葉の意味がわからず茅野が聞き返す。 事の発端となったせいでクリーニングを一手にまかされた茅野の荷物を、軍司が茅野から無言で奪って持ってやる。 小さく礼を言った茅野に、軍司は嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。 「? 何?」 そんな軍司に茅野がまた問いかけると、軍司は困ったような顔をして口を開いた。 「お前、俺を見るといつも怒ってるから。まぁ、俺のせいなんだろうけど」 「わかってるんだったら何とかしなさいよ」 「ほらな」 そう言われて、茅野が返す言葉を失う。 軍司は苦笑して、また話を続けた。 「だからさ、お前にちやほやされたらどんなもんかなって、そう思ってメイドとかやらせてみたんだけどさ」 「やだ。あんた私にちやほやされたかったの?」 「……いや、そういうわけじゃねぇよ。それになんか実際、胸くそ悪ぃっつーか何つーか」 「何それ!? メイド服着せて、あんな事やらせといて!」 呆れて怒る茅野に、軍司は申し訳無さそうに言った。 「悪かったよ、ホント。あんなのお前じゃねぇもんな。あんなんでちやほやされたってな……」 そう言って顔を曇らせる軍司に茅野は困ってしまった。 ――何なのよ、もう! 私にどうしろっていうの!! そして軍司がまた口を開いた。 「あんなんされるんなら、言い争っててもいつものお前の方がいいよな。その方がお前らしい」 「そ……っ、そんな。何なのよ、それ」 「いや、だから思ったのと違ったなって、言ったじゃねぇか」 照れもせずになんという事もなくそういう軍司に、茅野は戸惑いが隠せない。 ――何なの何なの、この男! まったく! 何か言い返してやろうと思った茅野だったが、ふとある事を思い出して怒鳴りつけるのを思いとどまった。 「まぁ、ミニスカやめてくれたみたいだし、お礼っていうのも変だけど……少しお茶、飲みなおしてかない?」 茅野に言われて軍司の表情が少しだけ和らいだ。 それにつられて茅野も笑みを浮かべた。 だが、とても仲の良い2人といった甘い雰囲気も、次の軍司の一言で台無しとなって消え去るのだ。 「俺はミニスカが良かったんだけど、そしたらお前、メイド服着ねぇだろ? 泣く泣く譲歩せざるをえねぇじゃん」 「……まっっっっったく、あんたってやつは! 頭ン中そんな事しかないの!?」 「なんだよ! 男なんてみんなそんなもんだろ!?」 また怒り出してしまった茅野を、軍司はまた顔を曇らせて見つめている。 ――俺だけならともかく、ミニスカとか……俺以外のやつらに見せられっかよ。 そんな軍司の本音など茅野が気付くはずもなく、少しでもいいところもあるじゃないかと思ってしまった自分に対して茅野は激しく後悔していた。 「おい」 先を歩き始めた茅野に軍司が声をかけるが、茅野が立ち止まる気配は全くない。 「おい! 待てよ!!」 少し歩みを速めて茅野に並んだ軍司が、その肩を掴んで茅野を呼び止めた。 やっと振り向いた茅野が軍司を睨みつける。 「な、なんだよ」 サッと軍司の顔色が曇る。 いつもこうして相手を思いやるタイミングのズレてしまう2人。 それでも少しだけ歩み寄れば、距離が縮まるのは本当はすごく簡単なこと。 何となく気付いてはいても、いつもぶつかってしまう2人。 だが、その日は少し違っていた。 茅野がすぐに折れたのだ。 「いいわ。お礼ってのは無しよ。軍司の奢りでお茶しましょ。そしたら……今のは聞かなかったことにしてあげる」 「は? まぁ俺は……お前もいけるなら何でもいいよ。そうだな、あんなこっぱずかしいモン着てくれたんだから、奢ってやるよ」 「だからそれが余計なのよ、軍司!」 「悪い悪い」 「全然悪いって思ってない!」 そう食って掛かってはきても、茅野は軍司の隣を歩いていた。 自分のスピードで歩く軍司のさりげない気遣いにも、茅野はもう気が付いている。 そんな2人のタイミングが合うまで、あともう少し。 「あ、ケーキセットとかもつけちゃうからね」 「別にかまわねぇけど……太るぞ? さっきも散々……」 「うるっさいわね! いいから黙ってご馳走しなさい!」 「はいはい……」 それまではたぶん、ずっとこんな調子でいくのだろう。 いや、そのあともたぶん、おそらく……いや、間違いなく……――。 とある日の、特別だけどいつも通りの喫茶部のお話。