隊長と、副長と


 肩を落として事の顛末を白状させられたダナンは、抑えきれずにくつくつと笑い続けるウォラスを前にグズグズと愚痴り続けていた。
「おい、いいかげんにしろよウォラス! お前、いつまで笑ってんだ!!」
「はいはい、すみません……でもねぇ、こればっかりは……っ」
 そう言ってまた笑いがぶり返すウォラスに、ダナンは大きな溜息を一つ吐いた。
「お前、ヒトゴトだと思って……追い返された俺の身にもなりやがれ」
「なんですそれくらい……素敵な女性じゃないですか」
「じゃーなんでさっきから笑ってんだよ」
「まぁまぁ……」
 ウォラスは笑いながらも、それまでの出来事を思い出す。

 いいかげんなように見えてもやはりダナンは隊長を任されるだけの人物なのである。
 仕事に対する姿勢はとても真摯で、ここだと言う時には必ず近衛の隊長である自分を優先する。
 それが家族であっても、恋人であっても、である。
 そんなダナンを受け入れるだけの懐の大きな女性はなかなかおらず、最初は良くてもそのうち仕事と自分の二択を迫り、あげくに結局ダナンに愛想を尽かすというのがいつものお約束の流れになっていた。

 だが今回は違う。
 だからこそダナンは非番の前日に全てをウォラスに任せて城を出たのだ。
 そしてまた相手も、いつもとは違った。
 わかっているからこそ、ヴァルティナはそんなダナンを追い返したのだろう……とウォラスは理解している。
 もちろんダナン自身もそれはわかっているのだろうが、わかっているからといって納得できるかどうかというのはまた別の話というのが男女の仲の難しいところでもある。
 ウォラスはまだ独り不満そうなダナンに向かって言った。
「良かったじゃないですか。心置きなく隊長職に没頭できますよ。私も楽させてもらえそうで何よりです」
「楽なんてさせてやんねーよ。それより……腹減らないか、ウォラス」
「そうですね。私はビール一杯ですら飲んでませんし」
「……っ! き、傷を抉るな、傷を!」
 そんな風に話をし、笑いながらどちらからともなく立ち上がる。
 自分の荷物を持とうとしたウォラスを手で制し、ダナンはゆっくりと荷物を担いだ。

「付き合いますよ。どうします?」
 こういう気遣いはさすがだとダナンはいつも思う。
 場面は違えど何度となくウォラスにこうして支えられてきた。
「んー……そうだな」
 ダナンは少し考えて、また口を開いた。
「とりあえず、今夜はもうあの界隈は無しだな」
「……?」
「もしあいつに見つかりでもしてみろ。今度は俺、命はねぇぞ」
「ははは、そういう事ですか。」
「まぁお前いるから大丈夫だろうが、今日はもうやめとこう」
「そうですね。この件に関しては私は貴方よりも彼女の味方ですし、本当に命の保障はありませんね」
「は!?」
 くつくつとまた笑い出したウォラスに、ダナンが愕然とした表情を浮べる。
「ヴァルティナの味方ってなんだ? お前は俺の副官だろう?」
「それとこれとはまた別ですよ。彼女には頑張ってもらわないといけませんからね」
「これ以上何を頑張らせるんだ? あれはもう充分つえーだろ」
「まぁまぁ……」
「ごまかすな」
 そう笑い合いながら詰所を後にする。

 あの一連の騒動がまるで嘘のような穏やかな夜である。
 見上げると、バランドル城の城壁の向こう側に大きな満月がぽっかりと浮かんでいた。




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