スピーカーコードの話

本物? 贋物?


スピーカーコードの話です。私は長い間BELDEN497を使ってきました。オーディオ仲間も殆んどの人がBELDEN497を使っています。安くてもスピーカーコードは
それで十分といっても過言ではないと思っているからです。それだけまとまりの良い音であることも事実ですし、何よりも神経質な音がしないのが魅力でした。
確かにBELDEN497は情報量が少ないと感じたり音の立ち上がりが鈍いと感じたりすることがあります。だからと言って、情報量が多いとか、力のある切れの良い
音がするからといって、別のスピーカーコードに変えると、失敗の道を歩み始めることになる可能性が高いのです。これはオーディオを考える上で大変重要な
ことです。つまり、それ以上切れの良い音や情報量の多い音を求めると最後までそれが癖となって残ってしまいバランスが取れなくなっていくのです。
ありもしない音を追い求めてしまい、解決できない泥沼にはまり込むのです。スピーカーコードに必要以上のものを求めないことが良い音をさせる上での秘訣
とも言えます。

私はBELDEN社と何か関係が有るわけでもありませんし最高のスピーカーコードだと言っている訳でも有りません。プロ用として定評のあるコードを使って音を
まとめるのが最初に試みるべきことだと言いたいのです。プロ用にはプロ用としての理由があります。それを理解してからのほうが泥沼に入り込む危険性が
少なくなるからです。プロ用のオーディオコードを使って自分で納得のいく音が出たとき初めて、スピーカーコードなどコード類に求められる必要なものとは
何かがわかるのです。そして不必要な条件もわかってきます。 

さて、スピーカーコードのBELDEN497ですが、線の被覆に品名が印刷されていないのが不満でした。コード類の方向性はこの印刷の方向を目安にして90%は
間違いないからです。BELDENのBの方をアンプに、反対側をスピーカーに繋ぐと方向性は合うということです。ですからBELDEN社ともあろう有名会社が何故
こんなことをするのか訝っていました。 ところが、友人の一人が使っているBELDEN497ならば、ちゃんと品名が印刷されていると言うのです。そんな馬鹿なと思い、
その友人のBELDEN497と比較してみました。結果は驚きでした。確かに被覆に品名が印刷されているのです。しかも色が異なるし、なんと巻き方が違うのです。 
右巻きと左巻きの違いです
(左右逆にしても右巻きは右巻き、左巻きは左巻きです、ちょっと間違えやすいので注意)。

上が私が使っていたBELDEN497と称するもので左巻き、下が純正のBELDEN497で右巻き

黒線の被覆にはこの写真では判りませんが、BELDEN STUDIO 497 FOR AUDIO YR29294 LTと印刷されています。

よく考えてみれば、BELDEN純正コードに品名が印刷されていない訳はありません。数件の販売店に確認したところによると、噂話としてですが、日本の代理店が 勝手に日本向けに仕様を変えたスピーカーコードで、製造はBELDENらしいという話でした。つまり日本で通常販売されているのは、497ではなかったのです。 しかも今はMK2となって売られているということでした。改良が必要だったと言うことです。ですから音は信用できません。BELDENのようなプロ用オーディオコード の場合、良い音になるからといって仕様を変えたりすることは感心できません。良い音になるというのは全体的に見ればデフォルメして癖をつけただけといった 結果になると思って間違いないと思います。 BELDENのオーディオ用コードを購入する場合は必ず被覆に品名が印刷されているのを確認してください。悲しいことに私は多くの方にこのスピーカーコードを 推薦してきた経緯があります。やれやれです。なんていってお詫びしようかな、ごめんなさいと言うしかないですね。

しかし友人は徹底しています。BELDENのコード類は直接アメリカからリール単位で取り寄せているのですから。でなかったら、日本で売られているBELDEN497が 偽物とは私も気が付かなかったかもしれません。


その後の話

 
 日本で売られているBELDEN497は偽物?の話について、多くの方から情報をいただきました。情報を下さった方に感謝いたします。どうも有難うございます。
さて、やっと友人からオリジナルのBELDEN497を手に入れることができ比較試聴をすることができました。
ついでに、BELDEN497と同じレベルのもっとも安いランクの1メートル当り800円以下のケーブルも、いくつか購入して比較してみました。
 以下が試聴したケーブルです。

  @ BELDEN497    オリジナル
  A BELDEN497    日本製
  B BELDEN497MK2  日本製
  C van den Hul   VDH-T7R1  
  D モニター   Atmos Air 195C
  E モンスター  XPHP100     

@ABは前記の通りです。

Cのvan den Hul  VDH-T7R1は、
   銅線全体を弾力性に優れた高純度の銀でそっくりコーティング、一本づつコーティング保護する手の込んだ構造が信号伝送のロスをより一層少なくしている
Dの モニター   Atmos Air 195C は
   空気で絶縁するケーブル、デルタ構造のため振動に強く、同心撚線の採用により、変動しない構造、ESA(欧州宇宙機関)指定ケ−ブル
Eのモンスター  XPHP100 は
   ミニコンポ用としては最上級クラス!! ミニコンポに接続できる最大径のスピーカーケーブル
  
 ということのようです。
 
 最初に@BELDEN497オリジナルとABELDEN497日本製の比較です。これは私の予想を上回る音の変化があり驚かされました。A日本製BELDEN497は低域が豊かに
なり全体に素直で情報量が格段に増えているように聴こえます。音色もよりフラットになっています。こういう傾向の音にしたのは私には納得できます。
多分オーディオファイルの方々の大半はオリジナルの497より日本製のほうが音が良くなったと判断すると思います。ところが違うのです、やはり改悪なのです。
情報量が多くなった分だけ、演奏の密度が薄れてしまっているのです。

 次にA日本製BELDEN497とB日本製BELDEN497MK2の比較です。MK2になってから、497オリジナルと巻き方向が同じになり、黒の被覆にはBELDEN-M STUDIO 497MK2
と印刷されています。オレンジ被覆の色はMK2になっても変わっていません。オリジナルより、やや薄い色のままです。

 

上がA日本製BELDEN497、下が日本製BELDEN497MK2です

 

 音の比較ですが、この音の変化には本当に驚かされました。より低域が豊かになり、音も伸びやかで情報量も更に格段に増えて聴こえます。
ある意味では大変な進歩です。この音はユーザーが好み、評論家にも評判が良い音だと思います。変化の方向が、現在のデジタルオーディオが求める方向と
ぴったり一致しているのは見事としか言いようがありません。これだけの音にするのはかなり努力したのだと思えます。
 でも駄目なのです。一番大切なことを置き去りにしています。BGMとして聴くには素晴らしく良くなっていると思えます。でもクラシックの小編成を聴くと
駄目なのです。演奏の巧い下手が分かりません。せっかくの名演が凡庸なありふれた演奏に変わってしまいます。
この日本製BELDEN497MK2のスピーカーコードを使うと演奏の良い悪いを評価することは困難です。 せっかくの名演奏が評価されること無く消えて
いくのです。原因は立ち上がりの悪さに思えます。

上から順番に、C、D、Eです

 
 Cvan den Hul  VDH-T7R1は更に凄いことになっています。B日本製BELDEN497MK2でも聴こえなかった音が聴こえ、音色はさらにフラットで、歪み感も
少なく実に綺麗な音なのです。音色の美しさに敏感な日本人にはぴったりです。でもこれが、ピアノソロを聴いたら悲惨なのです。ピアノの音の余韻が
消えてしまうのです。どんな安物のピアノでも、こんな音はしないと思います。とろんとした綺麗な音が鳴っているだけで伝わってくるものが希薄、
そして現実にはありえない楽器の音が聴こえるのです。

 DモニターのAtmos Air 195Cです。これも凄いです。今まで他の音にマスキングされ消えていたピアノのペダルの音が明快に聞こえます。
実に明快でクリアー。歪み感の少ない音には快感さえ覚えます。音楽もそれなりの密度があります。しかも、全体がひとつの音色ではなく高域と低域で
ちゃんと音色が異なって聞こえます。高調波のバランスが非常に良いと言うことでしょうか。
 残念なことに、現実にはありえない楽器の音がして、ため息が出ます。ピアノの音がつながらないで、ばらばらに聴こえます。Cのようにとろんとした音
ではありませんがピアノの余韻が更に聞こえなくなって消えています。曲によっては素晴らしいケーブルなのですが、やはり名演奏が凡庸な演奏に聴こえます。
聴こえない音が聴こえるから情報量が多いと言うのは、場合によっては音を殺ぎ落として、マスキング効果を少なくしているだけで、情報量は逆に
少ないのではないかと、考えさせられます。
 
 EのモンスターXPHP100、低価格だからでしょうか、ミニコン用と言うのがやるせないですね。
定評のあるモンスターケーブルだけあってピアノの余韻が消えてしまうようなことはありません。エネルギー感もあってさすがと思わせます。
でも繊細さに欠けます。演奏の良し悪しは分かり難い音です。

 
 これは最安値ランクのスピーカーケーブルの一方的な試聴結果です。もっと高価なスピーカーケーブルならこういった欠点は無くなっているかもしれません。
しかしながら、少なくともケーブルメーカーの担当者のセンスは高級品まで同じ方向性だと思えるのです。
 全てはシステム全体のバランス(周波数だけではありません)で決まります。ですから場合によっては上記の評価が悪いケーブルでも演奏の良し悪しを
云々出来るバランスに持ち込める場合も無いとは断言できませんが、まー、無理でしょうね。

 BELDEN497オリジナルについて言えば、残念ながら音色や歪み感は時代遅れです。数ヶ月前に、日本製BELDEN497MK2と日立の6Nストレスフリーケーブルと
比較したことがあります。 497MK2はバランスが高域に傾き、音色が汚くて日立の6Nストレスフリーケーブルには全く太刀打ちできませんでした。
ただ音楽的な説得力は497MK2が上でしたが(これが本当は大切なことなのですが)、あの音色の差を聴いてしまうと、一般的には使う気はなくなる方が多いと
思います。
 しかしながら、大切なことは、最終的に良い音で聴きたいと思ったらBELDEN497オリジナルを選択したほうが道に迷わなくてすむだろうと言う事なのです。
 
 BELDENのケーブルはフラットな音がすると評価する方がいます。でも、昔と異なり、今やBELDENよりフラットな音がするケーブルのほうが多くなりました。
さらに、497MK2より音色の汚い497オリジナルはほとんど評価されないと思えます。それだけに、適度な立ち上がりの良さと、適度な繊細さをバランス良く
持っているBELDEN497オリジナルが、もっとも演奏を歪めないケーブルのひとつだと言うことを忘れないで見直して欲しいと願っています。
音色も大切です。でも、音色が綺麗で情報量が多いように聴こえても、本質的に必要な立ち上がりの良さと、繊細さを併せ持っていなくては音楽がつまらなくなり、
聴こうと言う気持ちも失せてしまいます。人が感動し惹きつけられるのは、音ではなく音楽なのですから。

参考までに、試聴機器です。

CD        Micromega Microdrive
AMP        無帰還デジタルダイレクトアンプ試作品
スピーカー 密閉型試作2Way
            LINN  NEXUS
            BRAUN  L710
試聴ソフト
     MOZART Piano Sonatas集 Hans Leygraf
          柳内調風  風三部作
     その他

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