その2、誰も言わない音の質の違いについて


音質調整で思う事

時々、音質調整の具体的な方法について書いて欲しいとの要望が寄せられます。私は音質調整をする前に認識しなければならないことが幾つかあり、その方が重要だと考えていますので、その認識しなければならないことについて考えを述べたいと思います。音質調整の具体的な方法はオーディオ雑誌に限りなく出ていますし・・・・。

音質調整をする前に認識しなければならない事とは「質の違いを常に考えること」、それだけの事なのですが、これが難しいと言うより困難を極めます。アンプとスピーカーの音質の違いについては“○音はスピーカーで決まる”で書きましたが、オーディオ全体の音質を考える上で、同じようなことが言えます。

例えば、音質調整の手始めとして、私は最初にシステムの欠点を探ります、もし気になる欠点があったら、その原因を探します。音が硬いと感じたら、その原因を探ることが非常に大切です。音が硬かったら音の軟らかいカップリングコンデンサーを使って誤魔化そうなどと考えないでください。音が硬いという欠点は無くなったようでいて、随所にその硬さを覗かせることになります。欠点を知りその欠点の原因を除かなければ、誤魔化しは効かないことが殆んどなのです。何故、誤魔化しが効かないか、それは質が違うからです。

以前、生録音を数多くしているオーディオ評論家が、その日参加者が持ち寄った数多くの試聴用レコードの中の1枚の音を聴いて、“これはマイクに安物を使っている“と不快そうに指摘したことがあります。その場には50人ほどの人がいたのですが、音が悪い原因を、マイクにあると認識できる人は私を含めて誰もいませんでした。これが質の違いです。いつも録音の職業に携わっている人だからこそ、様様な要因の中から、マイクに安物を使っている、その音の質の差を簡単に聞き分けたのです。音が悪いレコードだったので原因をマイクに決め付けただけと考える人もいるかもしれませんが、その評論家の方は明らかにマイクによる質の変化の差を聴き取っていました。確かにそう言われてみると、そのレコードの音は音色は良いのですが、高調波成分が少なく情報量も少ないというだけでなく、余韻が一定のレベルから急に聴こえなくなるというほかのレコードとは異なる質の違いがありました。

人物について、余人をもって変えがたいと表現することがありますが、オーディオで言えば他の物を持って変えがたいもの、それが質の違いです。

音質調整で認識しなければならないこととは、話だけだとこんな簡単な事柄です。そして部品を交換したり、振動系を改善したり、回路を変えたりして音を聴くたびに、音全体のどの質が変化したのかを頭の片隅で常に分析していれば良いのです。部品によるフィルター効果による音の変化か、回路を変えたときの音の変化か、振動形をいじったときの音の変化か、或いはその他の要因による音の変化なのか、その質の違いを多く認識できればできるほど有利ですし、脇道にそれてしまう事はなくなります。

それからついでに老婆心ながら、つけ加えたいと思うことがひとつ。部品の音を一度試聴しただけで決め付けないようにしたほうが良いという事です。貴方がアンプの音質を調整していて、もしそのアンプがシンプルかつ素性の良いアンプで音に楽器のエネルギーを感じさせる力を持っているならなら、カップリングコンデンサーや抵抗一つで驚くほど音が変化します。音の変化の大きさに馬鹿馬鹿しく感じることさえあります。こういうアンプで部品の音を判断しないと部品の欠点が判らない事が多いのです。こういうアンプで部品の音を聴いて見て初めて、以前声の高い方が硬い音をしていた原因が判ったりするのです。ですから試聴用に使うアンプにより部品の評価も変わるということを、常に念頭において置く必要があります。ゆめゆめ、他の人が部品の音を評価しているのを鵜呑みにしないことです。貴方のアンプには当てはまらないことが多いのです。

しかし、オーディオというのはなんて微妙でややこしいのでしょうかね!! 音質調整なんて、オーディオが好きと言うより馬鹿にならなくては出来ないことかもしれません。


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