アンプを自作される方に知っていてほしい事柄


その1、誰も言わない感電と火災の危険性

      球アンプなど、自作派の皆さんはシャーシーに風穴を開けることがありますよね。その風穴に女性が身に付けている      もっとも細いネックレスの鎖が入る大きさになっていませんか?もし女性が身に付けているネックレスが1次側のAC電源や      球アンプの高圧に触れたら!なんて想像したことはありますか?子供が剥き出しの真空管アンプの上に倒れこんでやけどを      したり感電したりしたらどうなるか、心配したことはありませんか? もし真空管がUV211だったら!!!

パワーアンプの温度試験と火災の危険性について(異常動作における温度試験)

自作をされる方のために、メーカーが商品の火災や使用中の感電などの危険をさけるためにどのような事をしているか       、そして異常動作での火災や感電の危険を避けるための安全規格について簡単にお話します。この安全規格は世界標準の       安全規格としてのIEC規格を始めとしてUL,CSA、CEE、BS、電気用品安全法などさまざまな安全規格が国別に規定されてい       ます。先ずは、異常動作時の火災を防ぐための短絡開放試験(別名ショート試験とも言われています)の話です。 ここでは規格の内容を説明するとかなりの量になるので、アンプを自作される人に最低限必要と思われる概略の内容を 説明します。

短絡開放試験

 

     自作をされる方で、プレートとカソードを短絡してみたことがある人はいるでしょうか。そんなことをしたらカソード抵抗       は燃えちゃうし、ケミコンはパンクしちゃいますよね。メーカーは抵抗が燃えないようにどうやって対策をするかと言うと       不燃抵抗や難燃抵抗つまりセメント抵抗や酸化金属抵抗を使うか、過電流検出で保護するか電圧検出をしてヒューズを切る       など様々な対策をします。当然音に良いわけはないのですが、安全が優先なのです。トランジスターアンプは場合によって       は過電流保護回路や過電圧検出回路が多用されることになります。過電流や過電圧を検出したらリレーで電源を切ったり       定電圧回路の出力を切ったり等して対策をします。       私は新規の抵抗を使う場合、最初にその抵抗がどんな燃え方をするか確かめます。でないと安心して使えないからです。 メーカーが製造する電子機器の場合、 全ての電気部品の端子がショートした場合とオープンした場合の動作試験をして、      これをAC電圧±10%の範囲内で試験をします。コンデンサーや抵抗は部品不良により短絡した場合と切断してオープン      になった場合、回路がどんな異常動作をするか調べます。トランジスターやIC等の半導体は全端子同士を短絡します。      私は大型のACスイッチを使い短絡と開放をしていました。途中でこのACスイッチの接点がスパークして消えてしまうことが      良くありました。パワーアンプなら当然のことですけれどもね。                        この試験は危険な温度上昇、発火により火災や感電がおきない為の試験で、ショートやオープンですから抵抗が燃えたり、 ケミコンが破裂したり、トランジスターが壊れて弾け飛んだりパターンの銅箔が燃えたりして試験用の基板が真っ黒になる 事もあります。壊しては修理して、また壊しては修理する、が延々と続くことになります。根気の要る仕事です。 基本的には半田が溶融したり、基板が炭化したり、炎がでたり、有毒ガス或いは燃焼ガス等が発生するとNGと考えても 良いと思います。 PCBなどの温度上昇値はこれまた、幾つか世界の規格があり、規格ごとに細かく定められています。       回路図上だけで対策するメーカーもあるようですが予想外の壊れ方をすることが結構あるので回路図上だけの対策では どうしても不完全になります。                          そうそう、ヒューズはばらつきがあっても定格の2倍の電流値で2分以内に溶断するように設計されています。安全規格上、 保護用のヒューズは定格の2.1倍以上の電流が流れないと切れたとはみなされません。ですから平滑用ケミコンの両端子を ショートしてヒューズが飛んだとしても、電流がヒューズ定格の2.1倍以上流れていなければ溶断したとはみなされません。 当然のことながら、ヒューズの溶断特性上のばらつきを厳密に考慮しているわけです。       CSA(カナダの規格)規格の中には厳しい規格があって、平滑用ケミコンが半分壊れた状態を想定して、この2.1倍ぎりぎり の電流を流して試験されます。通常は保護回路がないと整流ダイオードが壊れるかトランスの温度ヒューズが溶断するか、 最悪の場合パターンが燃えることになります。                         また、モーターは強制的に拘束して温度上昇を試験します。 電源トランスも空間距離が規定に満たない場合は端子間 ショートをしなければなりません。                           それから、これは安全規格上の試験ではありませんが、パワーアンプは正弦波のクリッピング出力での連続動作をして異常 が起きないかチェックする必要があります。ただし時間的には5分程度でしょうか、それ以上やると電源トランスの温度 ヒューズが溶断してトランスを壊してしまう可能性があります。10分以内でトランス等が壊れるようであれば、余裕がなさ すぎる設計です。私の経験では15分ぐらいでトランスの温度ヒューズが溶断してしまうものもあれば、余裕のある電源 トランスだと1時間を越えても動作していたアンプもありました。

パワーアンプの温度試験と火傷の危険性について(平常の温度上昇試験)

IEC規格の場合

パワーアンプの場合、最も発熱の大きい厳しい動作状態にしてクリッピング出力の1/8の出力でホワイトノイズ(規定の フィルターが入ります)を再生します。AC電源電圧は10%の過電圧です。

電気用品安全法の場合

             やはりパワーアンプの場合、最も発熱の大きい厳しい動作状態にして1KHZ正弦波10%歪出力の波高値を測定して、同一の 波高値による1KHZトーンバースト波(8波onの24波off)を再生して測定します。(電気用品安全法は出力値により測定方法規格が 異なるので全てが当てはまる訳ではありません) やはりAC電源電圧は10%の過電圧です。      余談ですが、安全規格の規格として最も緩やかな規格はわが日本の電気用品安全法じゃないでしょうか。すべてが緩やかと いうのではありませんが、設計者から見ると、最も合理的な規格であるように思える事が多かったのもこの電気用品安全法です。       温度試験も実際に音楽を最大ボリュームで聞いているときの状態に最も近い試験方法です。

温度上昇値

                さて、以下に記すのはこの1/8のホワイトノイズ出力(規定のフィルターが入ります)或いは電気用品安全法のトーンバースト       による試験における温度の話です。       温度上昇値は子供が長時間触れていてもやけどをしないように定められています。例えば、国際的な標準規格であるIEC       規格では、金属のつまみの温度は上昇値で30℃、樹脂等の非金属のつまみは上昇値で50℃と定められています。つまり 室温が25℃なら金属のつまみの温度は55℃まで、非金属なら75℃までと言う事になります。                         パワーアンプの温度上昇で苦労するのはエンクロージャー、ほとんどが上カバーです。やはりIEC規格では金属部が40℃、 非金属部が60℃、の温度上昇値に定められています。(非金属の温度上昇値が高くなっている理由は、金属に比べて熱を 伝えにくく、熱さを伝えにくいからです。) 電源トランスの巻線とコアー、基板、ケース(特に上カバー)つまみ等、を始めとして全ての箇所には安全規格上の 温度上昇値が定められています。これらの値にはそれなりの根拠があると思われます。自作をされる場合、これらの値を 念頭において設計をするのも必要なことかとも思います。                         ガレージメーカーにあるような、真空管が剥き出しになっている球アンプが安全規格はクリアーするのは無理でしょうね。       メーカー製の球アンプがボンネットをかぶっている理由そこにあります。管球アンプの場合は紙等燃えやすいものが真空管 に触れて火災になる、或いは火傷や感電の危険性がありますよね。球アンプを自作する人なら十分わきまえて使用している とは思いますが、最悪のことが起こらないように考えておいた方が良いんじゃないでしょうか。      

                  

機器の感電の危険性について(安全規格の感電の危険性)

   安全規格上良く知られている空間沿面距離ー先頭電圧値のカーブがあります。カーブは基礎絶縁カーブと、強化絶縁の カーブが規定されています。これは一つには感電が起こらないための空間距離を規定しています。 電源の一次側とシャーシー間などにも厳密な空間距離が規定されています。            空間距離が規定を満たしていない個所はショート試験が行われます。電源の一次側とシャーシー間をショートした場合、 一次側のヒューズが即断しなくてはなりません。ヒューズがない個所だと、多分ACコードが燃えることになり、規格は通り ません、従って販売もできないことになります。一次側の空間距離が取れないということはそれだけ危険ということです。 一次側と二次側の空間距離は6mm以上、ACコードの取り付け部の空間距離は8mm以上となっています。  昔のヨーロッパ規格のECCには線折れ対策の規格がありました。一次側の線、例えばトランスの一次側の線が折れて外れた 場合、感電や火災を防止するために外れてぶらぶらになっている一次側の線でもシャーシーなど二次側とは規定の空間距離 を保っていなくてはなりません。もちろんショートするとしたら論外です。ですから、線が外れてもぶらぶらしないように 束線したり、かしめてから半田付けしたり等、何らかのメカニカルな対策が必要です。それと、ECC規格では一次側の線材 は二重被覆の線材と定められています。                         外部から開け閉めできるネジはその径の10倍の長さを持つネジを入れても、空間距離が保てていなくてはなりません。 3mm径のネジなら30mmの長さのネジを使われても活電部からは規定の空間距離、基礎絶縁或いは、強化絶縁カーブの空間 が確保されていなければならないのです。      つまり10倍の長さを持つネジや針金等をネジ穴に入れても感電しないようにしておく必要があるということです。      その他、子供の指を想定した試験指などが規定されていて、感電の危険性のある活電部に触れることができないよう規定 されています。 

ヒューズ定格の決め方

    ヒューズはヒューズのメーカーと、速断ヒューズ、ノーマルブロー、タイムラグヒューズ(スローブロー)、耐ラッシュ等 の種類によって同じ定格でも溶断特性が異なります。ヒューズは定格電流に対して110%では溶断せず、135%で1時間以内、 200%で2分以内に溶断するようになっています(SEMCOのタイムラグ等はこれに当てはまらないヒューズもあります)。       ヒューズ定格は使用する個所によって異なりますがラッシュ電流と、定常電流を測定してどちらか大きい方の定格値に決 めるのが普通です。       定常電流は測定した電流値に一定の補正値を掛け合わせ補正をして決定します。この補正値はUL、SEMKO、電取等、各規格 ごとに異なりますし、用途によっても、さらにはヒューズメーカーによっても異なります。この補正値について、一般的 な補正値の定義があるのかどうか残念ながら私は知りません。私たちが使っていた補正値は企業のノウハウのようなので その補正値を書けないのが残念ですが、110%では溶断せず、135%で1時間以内、200%で2分以内で溶断する特性から設定す れば、日本国内の電取規格のヒューズなら大きな外れはないと思います。                         次にラッシュ電流ですが、定常状態に達するまでの時間内に流れるラッシュ電流波形を測定し、そのi2tカーブを 計算します。このi2tカーブがヒューズメーカーが発表しているi2tカーブの内側にくるように設定し       ます。 ラッシュ電流は測定が面倒ですが、補正の必要がないので定常電流より決めやすいといえます。       一次側ヒューズのラッシュ電流を測定する場合注意しなければならないことがあります。感電しないように注意すること は勿論ですが、AC電源のインピーダンスを調べておく必要があるということです。       私はこのAC電源のインピーダンスの違いにより泣かされたことがあります。新社屋に引っ越してから間もない頃、品質保       証部からラッシュ電流値が少ないとコメントが付きました。そんな馬鹿な筈はないと思い原因を調べたら、設計部の6階       フロアーと品質保証部の4階フロアーとで電源インピーダンスがかなり異なっていました。新社屋は電源が貧弱で階数が少       ないフロアーほどAC電源のインピーダンスが低くなっていたのです。このときはショート試験も一部やり直しになり閉口       したのを覚えています。      球アンプの灯をきり忘れていて火災を起こした例を一軒だけですが知っています。整流ダイオード一本がショートして壊れ       ヒューズが溶断しなかったため電源トランスが発熱し火災に至ったのです。幸いにして,煙が凄かったので直に家族が気が       つき大事には至らなかったようです。ショート試験の大切さとヒューズ値をきちんと定めないと危険だということが良く       わかります。

 

      同じ容量のヒューズだからメーカーが違っても構わないと考えるのは止めたほうが良いでしょう。技術屋の中にも同じ容量       なら構わないと考えている人がいるようですが、ヒューズはメーカーによっても種類によってもラッシュ電流に よる溶断特性は大きく異なります。 必ずメーカーが指定のヒューズを使うようにしてください。              注).ヒューズ値は厳密に決定しないと火災や感電につながる場合があります。最終的にはヒューズメーカーに問い合わせ て決定してください。   




リテルヒューズです、溶断特性などが発表されています。

http://www.littelfuse.co.jp/


電気用品安全法のページ

http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/index.htm

電気用品安全法の概要

http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/outline/hou_outline.htm


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