何をしても音は変わる


以前、セパレートアンプの開発をしていた頃の話です。私は半導体アンプでも真空管アンプと同じ法則が通用するのか知りたくて、考えられる限りの条件で、回路と音の変化との相関を調べるための試聴を繰り返していました。今思うと、あれだけやりたいことをさせて貰って何も言われなかったのですから良い会社でした。上司にも恵まれていました。そんなある日のことですが、朝一番で聴いた音が前日の夜に聴いた音とかなり異なっているということがありました。で、相棒に何処を変えたのか訊ねたら、何も変えてないと言うのです。相棒は、音の変化は電源事情によるもので、気のせいじゃないの?と言って、音が変化したことを疑っていました。でも、前夜、あれだけ良いリズムで楽しい音が出ていたのに、そのリズム感が消えていたのです。

音が変わった原因がどこかに絶対あると思い原因探しが始まりました。しかし、何も変更していないので、原因と言っても、皆目見当もつきません。かなり長い時間考えた結果、相棒が一つだけ違っていることを思い出しました。前夜の帰り際に、相棒がパワーアンプのGNDに片足だけ半田付けされていたフィルムコンデンサーを外していたのです。そこで同じ位置に同じフィルムコンデンサーを片足だけ半田付けして、片足は空中に浮いている状態で音を聴いてみたら、前夜の音に戻ったのです。面白かったのは、その片足だけ半田付けしたフィルムコンデンサーの種類を変えると、音もそのフィルムコンデンサーの音がしてくるのです。

ですから、音の変化の原因は振動にもあったのでしょうが、電気的な影響の方が大きかったのではないかと思います。フィルムコンデンサーがアンテナになりノイズやフラックスを拾い音を変化させていたのでしょう。そのフィルムコンデンサーを取り去っても、両足をGNDに半田付けしても、場所を変えても、そのパワーアンプのリズム感のある音は失われるのです。そして最も重要なのはどこのGNDに落とせば良いのかと言うことでした。他のGNDに落とすと音質はかなり悪化したのです。

ここで、”なーんだ、そんなことか”と思われる方が多いと思います。でもですね、何故特定のGNDなのかが重要なのです。それから、例えば次の回路です。結構、こういうことに気がつかないんじゃないでしょうか? 

入力回路1

この回路はDCパワーアンプの入力部です。カップリングコンデンサーを入れることによる、音の劣化はかなり酷いので、DC入力かカップリングコンデンサー入力かを切り替える事ができるようになっています。昔、こういう回路を使っているアンプ、結構ありました。でもこの回路では、DC入力に切り替えても、カップリングコンデンサーC1の片足がつながっているので、かなりの音質劣化を招きます。 さらに切り替えによる接点の音質劣化もありますから、DC入力にしていても、音質的には常にカップリングコンデンサーを入れている状態に近くなっています。この場合は多少使いにくくても、次のように入力を2つに分けるしかありません。

入力回路2

さらに皆さんは、抵抗とか、コンデンサーの比較試聴をする時に、同じ間違いをしていませんか?。

入力回路3、但し、各抵抗とコンデンサーのリード線の長さは一定とします。

このように、片側の足を共通にしていると、これも互いに影響しあって何を比較しているのか判らない状態です。

その他、同様なことは使いこなし等にもあります。例えば、2組のスピーカーを切り替えるのにアース側は共通になっていませんか?スピーカー切り替えのあるアンプは殆んどが、出力信号のみを切り替えているので、2組以上のスピーカーを切り替えて使っている方は注意してください。使っていないスピーカーの系全体が浮いたままアースに繋がっていることになり音質は結構劣化しています。


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