Incomplete Projects 1 ー未完の断片


2.隙間

ランドスケープでは、特に建築が先行するようなプロジェクトの場合、建物同士の「谷間」を、どう生かすかという課題に頻繁に遭遇する。もちろん、この場合、谷間を無意味な空白地帯とせず、いかに有意な空間と出来るか、ということが本当の課題である。 ヴォイド(空白)という空間は、従来ポジティブな意味を持ちにくい。建築の配置が決定する前にランドスケープが入り込む余地のあるプロジェクトの場合は、「ヴォイド」もしくは「間」を、空間の中に意図的に持たせ、この空白に、意味のある、もしくは、少なからず緊張感のある「間」を取り持つことが可能である。しかし、様々な機能的、合理的(デザイン的合理性以外の)ファクターが強く作用して建築の配置が定められると、ヴォイドは、単なる、偶然的に出来た「隙間」になってしまう。こうして後から、この隙間を、意味のある空間にアップグレードさせることは、実は、かなり難しい。近年多く関わった中国のプロジェクトでも、日本に比べて空間的な余裕を多く持っているように思えて、その実、目一杯の建築配置が定められると、もはやランドスケープは、余白を埋めるような作為に向かわざる負えなくなる。絵を描く時に、人物を先に徹底的に描き上げ、背景を後からモンタージュのように貼り付けるのと同じであり、少しでも背景の意味を主張しようとすると、意外と絵の人物との調和が崩れる恐れが出てくるということである。

ある中国の住宅のプロジェクトにおいては、線的に連続する住棟の谷間に出来た3本の線的な空間を、谷間という方向性を意識しながらも、各々に違った表情を持たせるという試みをしている。但し、エレメントは多元化し過ぎないよう、基本的に芝生をメインに、高木を一定の群をなして散在させ、芝生による起伏の作り方と低木の配植の違いによる空間性だけで、空間の差異化を図っている。このプロジェクトは、最初から低予算という前提で、高木などは、当初から形が整ったボリューム感のあるものを持ち込める可能性が低かったことを見越し、単独よりも群植にしてボリューム感を出し、舗装からファニチュア照明といったエレメントを可能な限り抑え、芝生の起伏のみで空間を考えようとしたまでであるが、建築のハードな壁面の連続の中で、僅かな住棟の幅の違いや、全体の緩やかな蛇行を、有機的な曲面で際だたせ、後付けのヴォイドではあるが、建築に張り付くように出来上がってしまった形態のような空間性を表している。
(project E)

もうひとつは、商業建築群と住宅街区の隙間を、連続性/非連続性の両面をもって空間化しようとした例である。これも、いわば両者の整合よりまずは、各々の合理性をもってボリューム感が先に決定し、結果出来たヴォイドに後付のランドスケープを持ち込もうとしているものであるが、両者の動線的な連続性すらも限定的であるという条件下で、商業エリアから垣間見える閑静な住宅、住宅から誘引される賑やかな商業という相互の磁力をある程度持たせながら、しかし相互の浸食をさせない、という戦略をまずは立てて、幾つかのスタディを重ねた。一方で、商業と住宅に約2.5mの段差(商業の方が下)があったことから、「商業側で享受できる住宅の静かな雰囲気」という戦略がさらに限定的となったが、この壁面(延べ600m)を段々とし、壁面の緩衝を図り、幾つかのスタディの中で水面もしくは水路を巡らせる、という方向性を定めた。水面は、物理的な境界をつくりつつ、視線を貫通させ(商業の場合、2階テラス部分から住宅側を垣間見せることを主に考え)、壁面の一部を壁泉とし、水が住宅側から流れ落ちて回流することとし、街区の谷間であるが、双方の繋がりと拡がりを感じるような空間をつくろうとしている。
(project F)

「後付けランドスケープ」は、建築的なボリューム感がつくる空間性を前提とし、ヴォイドを無意味なヴォイドとせず、一方でランドスケープ的な柔らかさを失わせず、ある程度の場所性を発揮させ、隙間を、「こういう隙間でも、あったら気持ちよい」という場に仕立てることが使命である。いずれも実現化していないものの、隙間にも意外と多くの可能性を見出せ得ることを実感したプロジェクトであった

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project E
project E
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project F
project F
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