Incomplete Projects ー未完の断片
ここ数年間に関わってきたプロジェクトで、残念ながら、実現化に至らなかったものの中から(実現化にいたらなかった理由はさておき)、私たちなりに有意義であった断片的なデザインの数々と、その背景の思考を、2つのカテゴリーで整理をして、幾つかをご紹介します。
1.リニアな空間(街路と街路樹):
街路と街路樹、ランドスケープの設計の中では、頻繁に遭遇するデザインファクターである。比較的大規模なプロジェクトの中で、主要な動線となる街路をデザインするに際して、その街路空間と街路樹のありかたを考える機会が何度もあり、これまでとは少し違った可能性を幾つか模索した。
街路樹は、通常、一定ピッチで連続する、単一樹種での構成が、最もオーソドックスである。しかし、それは直線的な軸性が強調され、フレキシブルな動線が定め難くなったり、不必要な序列、象徴性や厳格さが表出されたりと、実は意外と、空間性が規定される。それでも、ちょっとした繊細な列植を工夫することで、ハッとするような空間がうまれる可能性は十分にあるが、古臭く凡庸な空間が再生産される傾向も大いにある。街路の幅やその両サイドの条件によって、その可能性が全く異なってくるのが街路空間であり、そうした条件との緻密なすり合わせが先ずは重要であるとして、その次にどのような場の形成が可能であるかは、より多様な方向性があってよい。
比較的ゆったりとした空間的条件下では、街路そのものの適度な軸性と、人が滞留できるような場を混在させたり、奥行きと表情の豊かさを演出するためには、ある程度の規則性を定めながら、街路樹の樹種を2種以上に増やす、または、ピッチを変則的にするといった構成も考えられる。1.5kmにおよぶ街路の設計を行ったあるプロジェクトでは、東西に延びるその街路に対して、南北方向への拡がりを表現させるために、街路樹のピッチを20m以上に広げ、さらに、2種類の樹を、道の両サイドに交互に配し、それ以外に、南北方向への視線の拡がりを確保しつつ、所々に、3〜5本程度の高木の固まりを置く構成を試みた。さらに加えて、蛇行する歩道と、アンデュレーシヨンによる見え隠れもオーバーラップさせ、複合的なオーダーによる複雑な空間性を導入しようとした。この一見、無秩序にも見えかねない込み入ったオーダーは、幅40m、延長1.5kmというスケールのなかで、車の通過動線と、歩行者のゆっくりとした動きを共存させることを意図した、多次元的街路空間を指向したゆえである。一定の視覚的秩序のもたらす瞬間的な心地良さのデザインでだけではなく、複数のオーダーのズレから生ずる、ちょっとした多様性による奥行感を導入できないか、としたものである。(project A)
別の中国での例として、街路ではないが、住宅街区のなかの歩行者専用の主要動線で、ここでも、総延長800mになるこの道を、各住棟と他の施設への動線が交錯する結節機能を十全に備えつつ、街路の自律性と拡張性の両立がテーマとなっている。大蛇のごとく蛇行する、幅も一定ではない園路上に、一定の長軸方向のピッチと、横方向にさらに広がるように並ぶ列植の樹が、空間的に強い存在感を表す。外から見ると圧倒的な存在感で救心性を持つが、園路の中に入ると、方向性が定まらないことから、視線が拡散し、外に広がる他のファクターに簡単に吸い寄せられていく、横滑りが起こりやすいという園路である。全体の建築配置が先行して定められ、後からランドスケープを考え始めたという、プロジェクトの性質上、隙間を縫って動線形状を考えるという経緯の中で、主要動線という分かりやすさと、他のファクターとの接合やオーバーラップを図る上で辿り着いたひとつの策であった。(project B)
また別の例は、幅25m程の街路空間で、8mの車道と、その両サイドに歩行者の広場状のゆったりとした空間が約300m連続する商業地区である。最初の例と同じく、車道と歩道を一体的、横断的に捉え、車道による分断を意識させない街路をどうつくるかを課題にしている。横断的に面的な空間性を表すためにグリッド状に街路樹を並べ、100mの縦方向には、連続する水路で流れをつくる。グリッド状の樹木は、商業のファサード面をなるべく消さないようにという事業者側の要望に応じて、枝張りを抑えて高さを出す円錐型の樹木を10mピッチで置き、縦方向には、水路の連続の流れに沿って、50m毎に結節点となる噴水や水盤など広場的な溜まりを設定してゆく。この植栽や水は、100mのブロックごとに、水盤や噴水、高木、灌木などに変化をつけ、全体を貫通するシステムと、個々のブロック毎の差異をつくっていく。大きな流れと、小さな場という関係性の構築による、街路空間の奥行きをつくる試みであった。 (project C)
もう一例は、街路、街路樹とは違って、川沿いの約2kmに及ぶリニアな空間上でのサクラの連続性を表したケースである。本来であれば、川に対してより積極的な関与を考えたいところであったが、管轄の違いといった障壁があり、実質、川そのものに対して積極的な相互の空間作用をつくれていない。また、枝張りの大きなサクラが川に覆い被さるといったシーンの展開も考えられたが、緑地と河川の間に歩道が既に敷かれ、この歩道も川と同じ管轄外であったため、道で仕分けられた緑地という前提での出発となった。そこで、河川から道を挟んで、波形に段丘を形成し、100m毎に道が段丘に食い込むような広場を結節点として置くというベースを先につくり、その上にサクラをほぼランダムに配置していく案を展開した。ここでは、先の2つの例と違い、規則的にサクラを置くという配植を当初から避け、樹間の差による隙間の大小を多くつくり、その下で行われる花見の宴会の大小の規模をつくることを意図している。但し、段丘上の傾斜によって、川に向かう方向性のみを、少し控え目ながら表そうとしている。(project D)
この4例はいずれも、リニアな空間を、ひとつの軸性だけに収束させず、大きな流れの中にも小さな違う方向性や多様性を持ち込み、空間に奥行きを与えることを指向したものである。
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