2020年8月6日 作成
拙稿 「クジラの公式の謎を解く」(『神戸外大論叢』67-3, pp.59-88, 2017.) がYouTubeの動画 「鯨構文の攻略 第6回後半 本論その3後半」(1時間1分50秒以降) で取り上げられ、コメントされていました。
取り上げてくださったことに対してお礼を申し述べるとともに、この場でコメントに対する回答をお示ししたいと思います。
生成文法を取り入れない理由は2点あります。
ひとつは、認知言語学と生成文法では、もともと、言語知識のあり方についての仮説が異なるからということです。認知言語学は1980年代に、(その当時以前の)生成文法に対する批判から始まったものなので、両者を融合させると論理的な整合性が維持できなくなる可能性があります。
もう一つは、クジラ構文に関して何を明らかにしたいか、の問題です。生成文法の中核的な問題意識は、「記号と記号を結び付けて文を作る能力はどのようにできているのか」ということ、つまり統語論にあるといっていいと思います。
それに対して私の問題意識は、クジラ構文の意味論的な側面なので、どうしてあのような形式になるのか、ということは問題にしていません。たとえば、A whale is no more a fish than a horse is a fish. のように、最後に a fish が残留することが許されるかどうか、というようなことは問題にしていません。
私がやりたかったことは、日常的な知識の関与も考慮に入れて、クジラ構文の意味が出てくる仕組みを明らかにする、ということですが、これは生成文法では「概念システム」の問題、ということで、中心的には取り上げられないことだと思います。ということで、生成文法を取り入れる理由が見つからない、ということです。
no more beautiful than you ばかりが出てくるのは、私の調査の都合です。
私の論考は、「クジラ構文について、コーパスから大量の例を無作為に抽出して、それを分類・整理して網羅的な議論をする」ということを目指したものではなく、検索等で見つかった例を基に、「このような事実が存在するということを示す」という形になっています。
そして、「後件指摘」の例が存在することを示すのに、検索キーとして、 no more beautiful than you を使った、ということです。
それではなぜこの表現をキーとして使ったかということですが、それは、「後件指摘の例であると、非母語話者である私でも断言できる例を出したい」あるいは少なくとも「前件否定の例ではないと断言できる例を出したい」と考えたためです。
「あなたが美しくないのと同じで…」という発話は相手に対してきわめて失礼に当たるので、(全くないとはもちろん言いませんが)通常はしないものだと思われます。なので、 no more beautiful than you については、「後件指摘の例である」あるいは少なくとも「前件否定の例ではない」ということが言いやすいので、後件指摘の例として出しやすかった、ということです。
no more beautiful than (you) は熟語表現になっているのではないか、決まり文句になっているのではないか? ということですが、これについては、「その可能性は高そうに思えるが、調査をしていないので断言はできない」となります。
A: It's totally my fault.
B: That's not true; you're no more to blame than I am. I should have kept an eye on them, so it's just as much my fault as yours.
(Gareth Watkins・小林功・河上道生 (1997) 『これでいいのか大学入試英語〈上〉』大修館書店 p.72)
ありがとうございます。ご指摘の通りだと思います。
これについて、2021年度の授業からは、「「実はそれほどでもないし、なんならこっちだってそうだ」の解釈」を立てて、内容に取り込む予定です。(「このurlのYouTube動画で指摘されたこと」にも、もちろん言及します。)
動画で言及されていたことについては、無視していたというよりは、なかなか気がつかなかった、というのが実際のところです。それは、名前を出されていたのが本田啓氏だったからです。
本田啓氏は こちらの方 です。
ご指摘ありがとうございます。
ちなみに、1990年の段階では困難だったけれども現在では容易になった調査方法として、上にも言及したコーパス検索があります。ただ、実際にコーパス検索をして使われやすいレジスターを示した研究があるかどうかについては、私には分かりません。(自分で調査をする余裕もありません…)
回答は以上です。
その2 (50) この形のリンクは機能せず
その3 (50)これは機能する。短縮。
その4 (50) これは機能する。ふつう。