再びいつもの朝がきた。これが毎日である。ブライアンはいつものように目
を覚ました。
いつもの通り、朝飯を食べて、支度をして、そして家を出て勤務先に向かう。
まるでいつもと変わりない。何にも、決して変わったところは全くない…。これ
が日常というものである。
いつものように工場についた。そして、時間が過ぎ、あっという間に終わった。
これもまた日常的。普段のことである。そして夜を迎える。夜は日常とは違う、
第二の世界が広がる。ブライアンはいつもの溜まり場、辰巳PAにやってきた。
ここを使う走り屋は意外に少ない事から、いつも彼らはここを集合場所と決めて
いる。今日はバトルの観戦、といったところみたいだ。
今日のバトルはジョニー対ヒロト。ヒロトはチームPHDのメンバー。マシンはミツ
ビシのミラージュサイボーグR。PHDはテンロクのチームなので、マシンは全て約
1.6リッターの車で構成されている。だからといって侮ってはいけない。マシンは
一級品ばかり。ヒロトのミラージュもランエボ用のタービンを移植、これにミスファイ
アリングシステムをプラス。これにより、FFながら、ランエボと同等の運動性能を手
に入れた。それ以外にも、テンロクながら最大馬力540PSというトヨタカローラ、こ
れはスープラ用のターボを移植、さらに独自の方法で作った秘伝のボディも、彼らの
凄さを物語っている。だが、腕の方はどうなのか?
「君がヒロト君か、私はジョニー」
「始めまして、ジョニーさん」
「君の車はこれか、結構なチューンだな。私のはあれだ」
「これか、何馬力出ているのですか?」
「大体だが、今490PS位だな。もっとあげられるが、これ以上あげると、足が負ける
ので」
「490PS!?こっちは370PSです。そのエンジンはテンロクですか?」
「いや、2JZだ。アメリカでは伝説のエンジンとして有名だ」
「2JZが?どこでも手に入るのに」
「日本じゃそうかもしれない、だがアメリカではそういわれているんだ。これは本当だ。
映画でもやっていただろ」
「ああ、あのスポコン映画、確かにパンフレットに書いてありました」
「まあここで話をしていてもしょうがないな、早速始めようか」
「はい」
二台はPAを出て行った。いよいよバトル開始だ。
「なあブライアン、どっちが勝つと思う?」
「シンジ、俺の予想だと今回はジョニーだな」
「どうして?あいつの車はすぐへこたれそうなのに」
「あのハチロク、どうみてもレースマシンにしか見えねえんだよ」
「ボディの剛性でか?」
「いや、足回りだ。あんだけ馬力出してるのに、全く足が動いている」
「どこかのデモカーかな」
「いや、あれはジョニースペシャルだろう。足回りといっても、プロに近い。ジョニーは昔
レース関係の仕事やっていたやつにしか見えない。その上金持ちの息子」
「確かに金持ちの息子だよな。プレミア付きのハチロクを買って、その上金かかるスワ
ップ、しかもよりによって2JZ」
「そうだ。やつは怖いやつだよ。俺でもセッティングでは負けてる。腕は勝ってるけどな
(笑)」
「今回はミラージュだ。コーナー強そうだな」
「だけど、ミスファイアの本当の使い方知らなきゃ宝の持ち腐れだ」
「そうか」
「でもやつは知っていそうだ。テンロク乗りは大抵コーナーの達人だ。俺もそうだ」
「自分でいうなよ、でもそうだな」
「ランエボのタービン移植っていう辺りからこいつは単なる走り屋じゃないって分かった」
「よく聞いていたな」
「聞こえるだろう、近くにいたんだし」
「まあとりあえず今日は静観しておこう」
「こいつは見モノだぜ!」
そして、カウント開始、
「3,2,1,GO!」
バトルスタート!まず前に出たのはヒロトのミラージュ。その後ろをぴったりとつけるジョニ
ーのハチロクレビン。最初のコーナーを向かえた。ここでヒロトの達人ぶりが光った。圧倒
的なコーナースピード。グリップ走行ながらもその迫力はドリフト走行以上といったところ。
ミスファイアの使い方を痛いほど知っているヒロト。特に派手ではないが、ミスをしない、職
人的なレーサーだ。一方のジョニーも同じ、グリップ走行で丁寧にコーナーをクリアしていく。
二台はレインボーブリッジ手前まで来た。すると、突然の雨。この雨が、今回の勝敗を決めて
しまうとは、誰が思った事だろう?
ヒロトはますます攻め込むようになった。一方のジョニーは確実に、タイヤをいたわるように走
った。これも一種のジョニーの作戦。雨の日の走りはあくまで丁寧に、特に降り始めは危ない。
一気に浮いてくるゴミ、埃が滑りやすくして、即座にクラッシュになってしまうのは定番の話。頭
文字Dでも中里と啓介のバトルであったように、雨の日はとにかくすぐスピンしてしまう。だから
こそ、タイヤを無理に使わない走りをしているのだ。最初に攻め込んだ中里は後から苦労、そし
て負けてしまう、それに対しいたわって走っていた啓介は最後の方で逆転勝ち。今回はこうは
ならないと思うが、同じ様な感じにはなるかもしれない。
「雨はすぐ車が暴れる。増して降り始めは特に怖い」
ジョニーは雨の恐ろしさを痛いほど知っていた。ロス在住時代は、よく雨でスリップしたことを思い
出した。その思い出が今、ここで生かされている。
「どうした?雨にビビッてるんですか?」
対するヒロトは雨に全く恐怖心を持っていなかった。無論FFなのでスピンしないと考えていたから
だろう。それにミスファイアもある、安定性の高い車、この自信と安心が今回の結果を招く事となる。
雨により、両者の差は広まった。スピリットポイントの減り方も変わった。ジョニーのSPがどんどん減
っていく、対するヒロトはますます攻め込んでいき、その差をどんどん広めた。だが、雨はヒロトを大き
く負けへと方向を変えていくこととなった。
「何でだ?いつもならもっとタイヤがつかえるのに、なぜだ?」
ヒロトは焦っていた。さっき攻め込みすぎたのか、今度は逆に攻め込めない状況に陥った。この間、ジ
ョニーは一気にその差を縮めた。ここで差を縮めて、抜く作戦だったのだ。そして、ジョニーのハチロク
レビンはどんどんヒロトのミラージュに追いつき、抜き去った。ヒロトもこれにはびっくりだった。だが、ま
た抜き返す思いだったヒロト、まだ余裕がある、と思ったその時、突然ヒロトの車がスピン!3回転して、
ようやく止まった。もう立ち直ることはできない。攻めこみすぎたせいだった。ブレーキをぎりぎりまで遅
らせ過ぎたためだ。彼は無力感でいっぱいになった。そして、ヒロトのSPがなくなり、ジョニーの勝利が
決まった。まだ原因がわからないヒロト。とりあえず元の場所、辰巳PAに戻った。
「ジョニーさん、どうして俺は負けたのでしょうか?」
「攻め込みすぎたからだろう。後にタイヤを残すようなことしないと、きついよ」
「そうですか、雨を嘗めていたからでしょうね。反省しないと」
「今度はもっといたわって走ることが重要だろうな。あんな突っ込み何回も続けたら、タイヤがすぐダレる
よ」
「分かりました」
こうして、バトル終了。ジョニーの頭脳の一人勝利だった。
「やるな、ジョニー」
「ありがとう、ブライアン。だけど、君とはまだだな」
「そうだな、でも今日は雨だ。それにあんたのハチロクだって疲れてるだろう。今日は休ませれば?」
「そうするよ」
今日はジョニーのハチロクも疲れていることから、バトルは中止になった。雨もますます酷くなった。そん
な中、コウジがあるオタク軍団に絡まれていた。
「君の車はこれかい?」
「ああそうですけど」
「ジェッタなんて乗って、気取るのはよくないぞ」
「ただドイツ車が好きなだけですよ」
「大体、この車のどこがいいんだ!僕のランエボのほうが圧倒的に速いよ」
「ランエボ?この車だってチューンすれば、あなたのランエボ以上に速くなりますよ」
「元々カメな車はカメのままだ!大体、スポコンなどとざれごといって、最近の若者はロクなやつがいない」
「ほう、、じゃあこの車と」
と、そこに騒動に気づいたブライアンが話し掛けた。
「ほう、オタク御用達のランエボか、ウイングが下品だしさ、まだそこらの軽トラ乗ってるほうがマシだな」
「君は誰だ?」
「俺か、こいつとチームが一緒のやつだ」
「この人、ジェッタという車に乗っているんだぞ、何か言ってあげたらどうだ?」
「は?あんたのランエボのほうがだせえぞ、大体、オタクがランエボ乗るとむかむかするんだよ」
「オタクだと?」
「そうだよ、ランエボのりは大抵オタクか、目立って上手いかどっちかなんだよ、あんたはオタクなだけだ」
「じゃあ、勝負だ!そのジェッタでな」
「ようしいいだろう。あんたが負けたら、そのランエボを頂く、その代わり、俺が負けたら、そこにあるシビッ
クをあんたにやる、どうだ?」
「決まりだ。始めるぞ!」
アポなしのバトル。二台はPAを出て、カウントスタートを待った。そして、カウントがスタート、
「3,2,1、GO!」
バトル開始!まず前に出たのはランエボ、そしてその後ろをジェッタがつける形となった。
「僕の最強のランエボについてこれるわけがない。GT−Rより速いんだ!」
ブライアンは余裕の表情だった。
「先輩、なんか余裕って感じな顔してますよ」
「あいつ、とんでもなくカメだ。大体、フロントが逃げまくりだってのに、あんな走りだったら余裕持ってあ
げなきゃ幾らなんでも可愛そうだろ」
「そうですね」
そして、一瞬で勝負はついてしまった。ジェッタがランエボのインをあっさり突き、そして抜いていった。あっと
いう間、立ち上がりでもランエボはボロ負け、結局そのまま差をつけられ、ランエボは完敗。ジェッタの勝ちだ。
そして、二台はPAに戻るはずだったが、ランエボのりはそのままどこかに逃げるようにいってしまった。
「やっぱり先輩の走りは凄いですね!」
「あんなオタク野朗、3秒で余裕だ」
「でも逃げていってしまいましたよ」
「なあに、あのオタクのランエボなんかいらね〜よ、臭せえぞ」
「そうですね、きっと臭いですよね」
「今日は気分すっきりだ。おっと、シンジは?」
「そういえば…」
と、ジョニーが、
「彼はもう帰った」
「勝手に?」
と、今度はまたコウジが、
「そうだ、シンジ先輩今日は早めに帰るっていってましたよ」
「だからか、すっかり忘れてた」
「今日はどうします?女二人は来てないし」
「今日は解散だな」
「そうですね、それじゃあ先輩さようなら」
「じゃあな」
ブライアンとコウジは家に帰っていった。だが、ブライアンは家に帰る前にやっておくことがあった。
(そうだ、ビリー博士に「CIVIC」とかのこと聞いておかなくちゃな)
彼は、ビリー博士のもとに行った。
「ん?ドアがない!?」
「ここだ、ブライアン君」
「博士、なんで無くなってるんだ?」
「場所を移した。もっと安全なところにな」「
「どこに?」
「まあついてこい」
というと、博士は案内するように、
「まあとりあえず私の車についてこい」
「ひえ〜、何だこの車」
「悪いか?前から欲しかった車なんだ」
「寄りによって…、96年シボレーインパラSSかよ、似あわねえ〜」
「悪かったな…(怒)、アメ車欲しかったんだよ」
「全く、博士も分からねーな」
「いいからついてこい」
というと、博士は車を出し、駐車場の外に出た。それに続くように、ブライアンも車をだした。どこに向かう
のか?ブライアンは興味深々だった。そして、着いた場所はというと、
「ここだ」
「ミニカーショップ?ホント?」
「そうだ、ここならゲームセンターより安心だ」
「そりゃそうだけど、まあいいや」
「で、なんのようだ?」
「ああ、「CIVIC」ってなんだよ?」
「車じゃないか」
「それがさ、なんかの暗号らしくて」
「まあちょっと調べてみるか、ミニカーでも見ていてくれ」
「ここ博士の店か?」
「そうだ、悪いか?ホットウイールズ、ジョにーライトニング、トンカ、チョロQ、トミカ、色々揃ってるぞ!」
「まあ悪くは無いな、ホットウイールズか、コウジ連れて来れば良かったな〜」
「ミニカーが好きなのか?」
「そうだ、5000台は持ってる」
「冗談だろ!5000台なんて、どうやって集めたんだ?」
「そこまでは知らね〜よ」
「まあいい」
博士はパソコンに電源をいれ、調べ始めた。ブライアンは暇なので、博士に言われたとおり、ミニカーを見
ていた。そして、どうやら調べ終わったようだ。
「終わったぞ、ブライアン君」
「ほう、どれどれ」
「これがその結果だ」
果たしてその結果とは?第13部に続く!