「君達はここらの人?」
「そうだけど、そっちは?」
「私はファンと申します。韓国から来ました」
「韓国?」
「ええ、徴兵の兵役が終わって、日本に車のことを勉強しにきました」
「ほう、でもここは違法なところだぜ」
「いえ、私、走り屋になりたいんです」
「そうか、俺も日本人じゃないんだ。一応イギリス人でさ」
「良かった。僕以外にも仲間がいて。心配しました」
「結構いるぜ。外人はここらじゃあもう当たり前だぜ」
「そうですか、なら心配ありませんね」
「ところで、車はどこにあるんだい?」
「あれです、店のデモカー借りてきたんですけど、なんて言う車だか分からなくて…」
「どれどれ、あれはNSXって車だよ。ホンダの車だ。高いんだぜ、1000万はいく車
でな〜、高いからここらでも乗ってるやつ少ないんだよ。中古の一番古いやつでもま
だ300万はくだらない位だからな」
「1000万!!?ホントウですか?」
「ああ、そうだよ。凄い車でな、シビアな動きはするわ、速いわで、とにかく難しい車で
な、初心車が乗ったら思ったように振り回せないのも事実なんだ」
「私、どうしましょう」
「何をだ?大丈夫だよ、トラクションコントロールってのをつければスピンしにくくなるから
大丈夫だよ」
「そうですか、でもそれがついていなかったら…」
「心配することはねえよ、普通に走ってれば大丈夫だ」
「普通にですか…、あと是非あの車に乗っていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「え?でも車壊しても知らないぞ?」
「大丈夫です。多分…」
「なあに、車は壊したりしねーよ。じゃあ持ってきてくれ」
このファンと名乗る男、韓国出身の車好きで、走りたい一心で、日本にきたという。もう徴兵
の兵役も終わり、ようやく自分の時間を作る事が出来た彼は、首都高で走り屋になるため、
現在修行の身だそうだ。
「じゃあ助手席に乗ってくれ」
「はい」
「トラクション外すにはどうやったらいいんだ?」
「すいません、初心者なもので分からないです…」
「いいよ、自分で探すから、君はゆっくりしていてくれ」
「どうも」
「あった、これか。ん?、NXのタンク?」
「NXってなんですか?」
「ニトロだよ。知ってるだろ、あの…そう、車の馬力を一時的に上げて、スピードを出すやつ」
「ああ、ニトロですか」
「そうだ、さあ走りにいこう」
「宜しくお願いします」
こうして、二人を乗せたNSXはPAを出て行った。
(ほう、加速感はNAの気持ちいい感じだな〜。あとはシビアな挙動だな)
そして、PAを出た瞬間、ブライアンは一気にアクセルを踏んだ!
「凄いぜ、こいつ。これ何のエンジンだっていってた?」
「これですか、確かJGTCっていうレースのエンジンだとか」
「だろうな、いい音出すぜ!こいつ!」
ブライアンはすっかり気に入ったようだ。
(でもこいつはモンスターだなあ。なんていったってあのJGTCのエンジンだからな…、さすが
の俺でもビビるって感じが自分でもわかる…)
そんな時、ファンはあることを感じていた。
(かなりの高レベルな走りだな。これだけのマシンを始めてでここまで動かせるんだから、大
したもんだぜ…)
実はファンは、韓国の指折りのテストドライバーであったのだ。以前はちょっと前まで、「現代」の
テストドライバーを務めていた彼は、その技術を他の社員からいやというほど褒められ、そして
尊敬されていたという話がある位、彼の腕は一流なのだ。そう、敢えて初心者のフリをしていた
のも、相手の強さを知るための彼の作戦だったのだ。エリートでもあった彼、成績はいつも一番、
そして大学でも主席で合格、まさにエリートの中のエリートであったのだ。そんな彼がココに来た
のは、訳があった。スポコンブーム調査のためだ。現代(ヒュンダイ)でもスポコンブームに乗じよう
と、シビックの人気の秘訣、そして若者がどういう車を求めているのか、それを調査すべく日本にや
ってきたのだ。
(だがこの人は速い、体で分かる。とてもシビック乗っている男には見えない)
新環状を一周したところで、車はPAに戻ってきた。そして、ブライアンは彼にこういった。
「この車、性能といい完璧だけど、NXの調子が今一だな。一回やってみたけど、恐らく通常1.7倍
はアップするのに、1.4倍しかアップしなかったような感じしたぜ」
「何か違うのですか?」
「違うってなにも、パワーが違えば速さも違うってことは知ってるよな」
「ええ、もちろん」
「そういうこと」
「ありがとうございました。また逢えた時逢いましょう」
「ああ、頑張れよ!」
そして、ファンはそのままPAを出て、どこかへいってしまった。そして、車の中でファンはこう思った。
(NXの調子まで分かるとは…。普通は違うところに気にしすぎだが、彼だけは違う、やっぱりただ者
ではない)
と、沈黙してたミカがしゃべってきた。
「あの人、初心者じゃないわ」
「何で?どうみたって日本にはじめてやってきた韓国人だぜ」
「確かにそう見えるけど、有名なのよ、顔見ただけでわかったわ」
「どういうこと?」
「昔、今もそうかもしれないけど、ヒュンダイって会社知ってるわよね?」
「ああ、あの韓国の自動車会社だろ」
「そこのテストドライバーで、とにかく腕のいいドライバーらしくて、社内でも有名だったらしいわ」
「なんだって?ってことは」
「そう、彼のさっきの行動はきっと演技だわ。エリートの彼が、車のことが分からない訳ないじゃ
ないの」
「そりゃそうだけど、でも騙されるよ」
「それはしょうがないわ、相手だってきっとあなたの走りみて驚いたと思うわ」
「そうだったらいいけど(笑)」
「でも多分またここに来るわ、今度はもっと違う形で」
「そうだったのか、すっかり騙された気分だな」
「あ、リサが帰ってきたみたいよ」
リサがPAに戻ってきた。そして、報告した。
「どうだった、リサ?」
「負けちゃった、ミカ。ついでに相手の人に車治してもらっちゃった」
「あら、車壊したの?」
「ちょっと壊れてたんだ。でもあのスティーブって人、またどこかへいっちゃったよ」
「多分またライバルを探しにいったのよ」
「そうよね」
「さあ、今日はどうする、シンジ」
「もう解散だろ、遅いぜ」
「そうね、私はもう帰るわ。じゃあね」
「(皆)また」
ミカは帰っていった。そして、その後コウジとリサも帰っていった。ブライアンは、シンジに今日あった
ことを告げた。
「今日ビリー博士に逢ったんだ」
「どこで?」
「ゲーセンの奥で」
「そこにはいったのか?」
「たまたまいてな」
「例のシビック事件のことは聞いたのか?」
「ああ、一応な」
「でも伝説の走り屋=シビック事件の走り屋って言う人多いけど、実は違うんだ」
「なんだって?ビリー博士はそういってたぜ」
「シビック事件はあれは伝説の走り屋じゃない。四天王の一人だ。その上に伝説の走り屋ってのが
いてな、それで誰かが一緒だなんて噂広めたから、同じってことになっちまったんだ」
「そうか、だったら俺がみたのは…」
「そう、あれはその一般車の霊だろう」
「なんだって?だって音はでかかったぞ!」
「それはどうか知らないけど、でもよくそういわれているんだ。ここらでもそんな怪奇現象多いから」
「だったら、伝説の走り屋って誰だよ?」
「もう亡くなったが、昔「タロウ」っていう走り屋がいてな、そいつが伝説の走り屋だ。とっても
速くてな〜。車といい、腕といい、文句のつけようがないほど速かった。もう5年前位になるな。俺が始
めて親とギャラリーに行った時、その人が目の前で事故ったんだ。周りは突然だったので混乱していて、
もちろん俺も訳が分からなかった。事故がおきたって認識ができない状態だったんだろうな」
「それで、車は?」
「車は…。悪い、これ以上思い出したくなくなってきた」
「まあいいさ、ショックな事思いだしても気分悪いしな。じゃあな、俺はもう帰る」
「ああ、俺もかえる。じゃあ」
こうして二人はそれぞれ帰路についた。
ブライアンはいつものように、コンビ二に寄った。そこでラグジュアリー風のレジェンドと、キャデラックのエ
スカレードが停まっていた。ブライアンは中に入り、いつものように雑誌類をあさった。今日は買わないみ
たいだ。そして、朝飯の食パンと、眠気覚ましのガムを買っていった。外に出ると、何かラグジュアリーの
二台のところでなにやら取引をしているみたいだ。マフィアの麻薬取引だろうと思ったが、違うみたいだ。
ブライアンは耳を少し澄ますと、
「これがあの「CIVIC」の調査結果だ。それとこれが「TYPE7」の調査結果だ」
「何だこれは?」
「意外な数値がでたのでびっくりだ」「
「私もだ。調査続行してくれ」
「分かった。しかし、このANGELってのはなんだろうな」
「さあな、今日は呼び出して悪かった」
「いやいや、じゃあ」
「また今度」
ブライアンはよーく聞いていた。何かの調査結果を渡していたみたいだ。での何の?「CIVIC」と「TYPE7」
ってなんだ?そして、「ANGEL」とは?
その後、ブライアンは家に帰り、眠りについた…。
新たな謎が発覚?ますます怪しい展開に!今後どうなるのか?第12部に続く!