「そう、その娘がハンドルを握っていた可能性が高い」
「だったら、親が気絶しているから、代わりにハンドルを握ったんじゃないの?」
「いや、それだったら直線だったのに何故わざわざ路肩に停まっている車に突っ
込む必要があるのだ?」
「…つまり何らかの恨みを持っていたとか?」
「そうかもしれんが、そこまでは突き止められないで居るんだ。問題はその娘な
んだ。それからというもの、必ず「白いシビック」を見かけるっていう走り屋が増え
出したらしくてな、とても早くて、ライトが異常に眩しいみたいらしい。とても速くて
普通の人間のドライビングテクニックじゃあ追いつけない、そういわれてきている。
君も見たのか?」
「ああ、それらしいのはな。あれは凄かった。とにかく速いからな。あっというまだ」
「それからそのシビックの事を「死を招くシビック」というようようになったんだ」
「死を招くか…、で、その娘さんはどこに居るんだよ?」
「今は不明だ。逃亡中との知らせもあるが、消息さえ分かっていないんだから…」
「で、その娘の名前は?」
「エレナ、だったかな。イギリスリバプール出身の、超エリート、普段からあんまりしゃ
べらず物静か、だがたいそうな美人だったらしくてな〜、肌が白いのも特徴だ」
「やらしいな、何がたいそう美人だったらしくてな〜だよ、やらしいにもほどがある」
「そうか?ちょっと表現が悪かったか…」
「エレナか、どっかで聞いたことのある名前だな…」
「何か覚えてるのか?」
「そうだ、あの伝説の走り屋「ジョー」の娘だな!」
「その通り!」
「ってことは、そのシビックに乗ってたのはジョー?」
「そうなるな」
「なんてこった、ジョーが事故ったなんて…信じられねえぜ」
「ジョーは慕われていたからな、周りの走り屋のショックも大きかっただろう」
「でもジョーは現役だぜ!」
「回復したからな、彼はそれほど怪我を負っていないからだろう」
「でも車爆発したんだろ、普通は植物人間だぜ」
「彼の場合はレーシングスーツを着ていたからそれほどでもなかったのだろう」
「ほう、俺もレーシングスーツ着ようかな?(笑)」
「そうだな、そうした方がよさそうだな。おっと、用事が入った。私はここをでるが、君
は?」
「まあここにいてもしょうがないしな、俺もでるか…」
「また連絡する」
「じゃあな、ビリー博士」
時は12:00を過ぎた。ブライアンは久々にビリー博士に逢った。そもそもビリー博士
とは何者なのだろう?そんなことを思った人も多いだろう。彼はイギリスの機械学の
教授で、主にバイクに詳しい博士として有名だった。そのためブライアンとも面識が多
く、走り屋界でも彼が有名なのはこのため。もちろん車の知識も凄く、チューンだって
お手の物。ドラテクはというと…、まあオヤジ走り程度といったところ。
ブライアンはまだ時間があって暇だったので、どっか外でぶらぶら散歩でもしようと、外
を出た。すると、突然銀色のCR−Xがやってきた。
「おい、ここらでハチロクのチーム知ってるか?」
「あんた誰だよ?いきなりなれなれしくさ」
「俺はスティーブ」
「そう、スティーブね、でまあ一応あるけど、用があるのか?」
「バトルの申し込みの仲介役をしてもらったんでね、リーダーに。是非逢いたいと思って」
「まだ逢ってないのか?仲介役なのに?」
「電話で話しただけだからな」
「で、その仲介役にバトルの申し込みをお願いしたっていったけど、そのバトル相手は誰?」
「誰だか分からないが、黒いシビックタイプRに乗ってたな、EK型に」
「そいつハチロクとバトルしてなかったか?」
「そうだ、ハチロクとだ。走りが素晴らしかったので是非対戦してみたいと思って、それで」
「ってことは俺の車だな」
「本当か?お前が運転してたのか?相手の名前をまだ知らなくてね」
「運転は俺じゃない、リサっていう俺のチームの人だ」
「オンナか?」
「そうだ、普通リサっていう男の名前あるか?どう考えても女だろ!」
「まあな。じゃあその人と今日バトルをさせてもらえないかな?」
「相手がどういうか分からないぜ、アポなしだし」
「じゃあたのむ、言うだけ言ってくれ、今夜また会おう、辰巳PAで待ってるぜ」
「じゃあな」
スティーブ、彼は一体?どでかいリアウイング、それに無限のエアロ、どうやらスーチャーを
つけているみたいだ。でも、ブライアンには分かった、スティーブがただ者ではないことを、し
っかりと、彼は最強だということを…。
その後、ブライアンはケータイで完成を知り、再びショップへ向かった。するとそこには、
「あら、ブライアンさんじゃないの」
「お、ミカさん。こんなところで何やってるんだい?」
「新しいホイールの手配よ、これ、RHエボ」
「マジで!?これかよ、かっこいいな、俺はテンゾRのだぜ」
「テンゾRもいいけど、皆持ってるから」
「そうだ、リサちゃんさ、突然バトルの申し込みとかあったらすぐ受ける方?それとも断る方?」
「どうしたの?まさかバトルでもする気?」
「いや、バトルしたいってやつがいてな」
「そうなの、あ、もう仕事に戻らなくちゃ」
「今日に仕事?」
「雑誌の記者も大変よ、休む暇なんてないわ」
「まあ頑張ってくれよ、じゃあな」
「今夜にまた逢おうね、じゃあ」
そういって、ミカは帰っていった。
「今のは友達か?」
「そうだよ店長、うらやましいだろう!」
「なんだよ、俺だって昔はいたぞ!今はもういないがな」
「さっきのはウソだよ、友達だけどチームが一緒だからだよ」
「そうなのか、チームにオンナねえ、華があっていいじゃないか」
「そうだ、テンゾRのはどうなった?」
「ああ、出来たよ!ステッカーもばっちり!」
「サンキュー!これ代金」
「丁度だな、ありがとう。車は外においてあるから、あと鍵、はい」
「じゃあな、また寄るよ」
「じゃあな、またよろしく!」
ブライアンは自分の車をしばらく眺め、そのホイールとステッカーをじろじろ見ていた。その後、
彼は帰っていった。
夜11:00、スティーブとの約束どおり、辰巳PAにやってきた。スティーブはもうそこにいた。
「よう、今日はわざわざ悪いな。で、大丈夫だったか?」
「ああ、もうすぐ来るぞ、電話ですぐOKだってよ、もうきたぜ!」
「あれか、FDじゃないか」
リサが登場した。リサが公でバトルするのはこれが初めてになるだろう。彼女は車から降り、
ブライアンに話し掛けた。
「よっ!スティーブって人はどこ?」
「そこだよ、あそこの金髪の人」
「そう、ありがとう」
というと、彼女は彼の方に向かっていった。そして、話し掛けた。
「始めまして」
「こちらこそ始めまして」
「で、早速バトルはじめましょう!」
「ああ、いいけど…。いつものルールでいいかな」
「いいわ。それじゃあ車に乗って」
「ああ」
いつもの乗りでリサは早速バトルを始めようとした。あんまり普通にしゃべってきたので、さすが
のスティーブも動揺していたようだ。
(FDか、コーナー勝負でいくか…)
スティーブは作戦を練っていた。これまで「Rキラー」として、R乗りに恐れられていた彼。今回は
セブンが相手なので、作戦もいつもの手じゃ通じない、彼はそう考えていた。スティーブはドイツ
出身の元アウトバーンレーサー。アウトバーン時代はアコードRに乗っていた。ターボをつけて、
最高速度280kmをたたき出したことがある。現在は走り屋が多く、アウトバーンよりも車の台数が
多い首都高に場所を移し、新たな走り屋人生を歩むことになったのだ。彼のCR−Xは特別仕様で、
普通の人ではとてもじゃないと扱えないほどピーキーな仕様になっている。
二台は台場線前まできた。そして、いつものカウントが始まった。
「3、2、1、GO!」
バトルスタート!
最初に前にでたのはリサだった。これにスティーブが煽ってプレッシャーをかけていくという感じだ。
(すごいじゃん、ウチの車についてこれるなんて、もしかして結構チューンしてるんかも?)
リサは予想外だったようだ。正直馬鹿にする気持ちがあったみたいで、直線は勝てると思ったのだ
ろう。だが、リサの予想外な出来事はまだまだ続くのであった…。
直線が続いた。リサのセブンにピタリとくっついているスティーブのCR−X。まるでストーカーのようだ。
(思ったほどセブンはポテンシャルが低いな。これならコーナーじゃなくても楽だな)
スティーブは作戦を変更することにした。コーナーで追い詰め、直線で油断したところを一気に抜く!彼
の作戦は決まった。
(ウソ?どうなってるの?タービンが故障してるの?)
リサは信じられなかった。ピタリとCR−Xがくっついている光景に、動揺を隠せなかった。
辰巳PAでは、ついさっき到着したコウジとブライアンが話をしていた。
「今日のバトルどうなるでしょうね。リサのやつ、結構自信あったみたいだし」
「でも今日の相手は強敵だ。みただけですぐわかった。やつはただ者じゃないって」
「まあね、リサ勝てますかね?先輩」
「さあな、勝ったほうがいいけどな、でも確率は50%だな」
「そんなに強いんですか?相手はCR−Xですよ」
「今の時代、Rとかスープラのほうが弱くなってるの知ってるか?だんだんリバース現象が起こってて、
ここ以外にも広がってるんだよ。環状であるだろ、Rが改造されたビートに煽られてるの見た事」
「まあありますけど、でもねえ…ここは新環状だし…直線も多いし」
「だろ、俺も普通はそう思ってる。だがありゃ普通のCR−Xじゃない。B16Aじゃない、あれはF20Bだ」
「S2000に搭載されているエンジンですか?あんなのどうやってつむんですか?」
「いや、S2000用だったらもっとカン高い音だろ、あれはアコード用だ」
「なんでわざわざアコード用のなんか…」
「そこまでは知らないけど、2リッターとなるとFDは辛いな、NAなら楽勝かもしれないけど、あれにスー
チャーだからな」
「もう敵なし」
「そうだ、あのCR−Xは恐ろしい化けもんだな。俺のシビック以上だろう」
「となるとリサは今ごろ…」
「自分の予想した感じと矛盾した結果になるだろうな」
その頃、バトルは大きな動きを見せた。スティーブがコーナーで横に並んできたのだ。
(コーナー勝負じゃウチだって負けないよ!突っ込みは自信有るんだから!)
だが、そんな自信も打ち砕かれてしまった…。スティーブのCR−Xがアウトから一気にリサよりも先にコ
ーナーに入っていき、そしてとんでもないスピードで曲がっていったのだ。
(…どういうこと?ウチの突っ込みなんか何の役にも立ってないよ、最悪…)
もうリサは完全に自信を失っていた。そして、それがあだになって、さらに差を広められる。ついにSPが
なくなり、バトル終了。リサの完敗だ…。
(以外にもろいところがあったな…。でもあのセブンなんかおかしいぞ…。ブレーキの利きが悪い…)
スティーブは明らかにリサのセブンの異変を察知していた。そして、そのことは当たっていた…。
(どうして?いつもよりブレーキの利きが悪いよ、何で?)
ブレーキがダレたのならともかく、原因はそれではないようだ。とりあえずスピードが落ちたので、近くの
路肩に止めることにした。スティーブも車をとめた。
「ブレーキの調子が悪いんだろ」
「どうして分かったんですか?」
「さっきの突っ込みで分かった。大体あんなことしたらブレーキすぐイカれるに決まってるのに」
「すいません、知識不足なもんで」
「別に怒ってる訳じゃないよ、ただ、車をもうちょっといたわるような走りをした方がいいぜ。特にセブンは
デリケートだからな。そこらのRなんかとは違う」
「はい、これからは気をつけます」
「まあいきなり直すのは無理だとおもうから、少しずつ直していった方がいいよ」
「はい、今日はありがとうございました」
「それはこっちがいうことだよ、こちらこそありがとう」
「で、直して欲しいんですけど…。いいですか?」
「ああ、別にいいけど」
「すみません、後でなんかおごりますんで」
「じゃあコーラでも」
「分かりました」
こうしてリサのバトルは終了した。初バトル、敗北、初戦からゲンの悪い結果となってしまった…。
その後、スティーブはリサの車を直し、そのままどこかへ行ってしまった。
その頃、ブライアン達はというと、リサの帰りを待っている時に、とある走り屋と合流した。
とある走り屋の正体とは?第11部につづく!