「そうだ、今度あたしのアルバムに是非参加してほしいんだけど…」

突然アユミが切り出した。ユウジロウが答えた。

「喜んで引き受けさせてもらうよ、レコーディングはいつ?」

「ユウちゃんの都合の付くときにしようかなって」

「んじゃ暇なときが分かったらまた連絡するね」

「うん、了解!」

3人は会話を終えた後解散し、ブライアンはまた家に向かった。

朝からなんだか非常に充実した気分だった。しかしここにきて急に夢のことが思い出され

た。一体あの夢が持つ意味って…?そんなことをボーっとしながら考えていたブライアン

…しかし答えなど見つかるはずもなかった。とりあえずそのことは今日考えないと決めた。

休みの日、ブライアンには色々な過ごし方があった。チームで集まって遊んだり、近所の

バスケコートでバスケをしたり、それに買い物だってしたりする。お気に入りのブラック系

レコードショップに立ち寄って、日本で中々手に入らないレコードを買いあさるのも楽しみ

の1つだった。

とりあえず外に出て近所のバスケコートへと向かった。家から歩いて5分のところにある

コートにはいつも人がいた。B服をきた若いにーちゃんねーちゃんだけでなく、子供も

バスケをしているときがあった。この辺は治安もいいので、夜にギャングやチーマ

ーがコートに集まることもなく、それ故夜も比較的コート周辺の治安もよかった。

今日は親しくしていたバスケ仲間が既にプレイしていた。スリーポイントシュートをあっさり

と決めていた。その中に入り、ブライアンもバスケを楽しんだ。久々に体を動かしたので、

若干辛いところはあったがそれでも十分楽しむことができた。


夢中でプレイすること2時間、途中休憩を入れたとはいえほとんどバスケをやって時間を

潰した。既に昼の12時を過ぎていて、ブライアンは昼飯を食うため、仲間に挨拶し家に

戻った。

(あのバンダナ巻いた子、前より上達してたな)

以前はなみなみ程度だった近所の女子高生がいたのだが、その彼女が急に上手

くなっていたのを、飯を食いながらブライアンは回想していた。

この日は夜にバトルの観戦をする予定だったので、とりあえず昼寝でもして夜に備えよう

と思った。少し今日の夢をまた見ることを期待していたが、爆睡状態だったので夢を見る

どころではなかった。

目が覚めたのは午後の5時。正直寝すぎたと思った。しかしおかげで体調もよかった。

コウジからケータイにメールが届いていた。「今日は混んでるから一般道を使ってきた方

が早いっすよ、先輩」、ということが書いてあった。普段首都高までは高速を使って約1時

間掛かっているのだが、渋滞の場合はいつ到着するのか分からない。

6時には支度を済まし家を飛び出した。とりあえずニュースを見た限りそれほど混んでいる

様子ではなかったので高速で行くことにした。まだ太陽が顔を少しばかり出していて、

夕焼けが綺麗だった。この日はやはりブライアンと同じような改造車ばかりが高速を

走っていた。それ位凄いバトルというのなら、これはいっそう楽しみだ。

いつもより20分ばかり遅れて、大黒PAに着いたブライアン。そこにはまだチームのメン

バーはいなかったが、ジョニーの姿は確認できた。一昨日壊れたハチロクはまだ復帰し

てないみたいで、今日は代車でやってきていたようだ。ブライアンが話をかけた。

「あんたも今日は観戦しに来たってわけか」

「ああ、家でゆっくりしてられなくてね」

「走り屋なんてそんなもんだよな(笑)ところで、今日は誰と誰がやりあうわけ?」

「いや、今日は誰と誰というより3人バトルだ」

3人バトルというのは、つまり2対1のバトルのことを意味する。首都高でも最近はメジャ

ーになっているバトル方式で、タイマンとはまた違う楽しさがあるという。ブライアンがさら

に問うた。

「そいつは面白そうだな、んで、誰と誰と誰?」

「マイケルっという男だ。それからネスとあとスティーブっていうワンダラーだ」

「スティーブ…?聞いたこともないな」

「かつて首都高でも特にアンダーグラウンドとされたステージで名をはせていた走り屋

のようだ、ただ相手がマイケルじゃスティーブのほうが気の毒に思えるよ」

マイケルというのは「Vampires」に所属する走り屋。相当なカードゲームオタクで、妙にひ

ねくれてる性格のせいでチームからも孤立している。GT-Rが好きというわけではないが、

「合理的に考えてGT-Rが一番首都高で速い」という理由で乗っている。テンロクマシンの

ことを馬鹿にする割に、勝率はテンロクマシンが相手のときには低い。もう1人の

ネスという男は悪魔崇拝に走ってるとも言われていたり、麻薬の売人をしている等

さまざまなうわさがあるが、とにかく危険で近寄りがたい男であることには変わりなかっ

た。

「ネスって男、俺と昔モメたことあんだよねぇ、「おお、ドラキュラ伯爵のお目見えか?」って

いやみっぽく言ったらブチ切れちゃってさ、大したジョークじゃねぇのにムキになっちゃ

ってよう(笑)」

ブライアンが言った。それに対しジョニーは

「君らしい台詞だな(笑)だがあのネスって男、色々とうわさはあるみたいだな、気味の悪

い男だとも…」

と小声で言った。ブライアンは

「ドラッグでも売ってるってウワサがあるけど、それ以上にヤツの趣味はヤバいぜ。

悪魔崇拝にハマって最近入信者を募ってるってうわさだからな、典型的なネクラ系

だぜ」

と答えた。

イエローフレイムズのメンバーも次々と揃った。まずやってきたのはコウジだった。

「先輩こんばんわっす」

コウジはブライアンとシンジに対しては「先輩」と呼んで尊敬をやまない男だった。

「コウジ、あのネスってヘンな男が今日バトルするらしいぜ」

「マジっすか、あの走り屋マジで変わってますよね…」

ブライアンとコウジの会話にジョニーが割り込んできた。

「何か起こらなければいいんだがね、本当に…」

「そうっすね、あ、この前先輩と対決したジョニーさんっすよね」

「ああ、よろしく」

「こちらこそよろしくっす、いやぁ、にしてもハチロク乗ってるなんて渋いっすね〜、

なんていうか、メタルで言うなら…いや、ともかく渋いっすね」

「いやぁ、その…どうも」

コウジの言葉に思わずジョニーは赤くなってしまった…意外とジョニーはシャイな部分

もあるようだ。

と、今度はイエローフレイムズのミカがやってきた。何故かマジェスティ

(ヤマハの大型二輪スクーター)での登場だった。コウジが不思議そうに見ながら言った。

「なんでスクー…?」

「え、何?」

「…、ああ、そのでっかい…」

「これ?」

ミカがヘルメットをはずしながらさらに答えた。

「見れば分かるでしょ?マジェスティよ」

「いや、そりゃわかるけど…」

そりゃ見りゃ分かるって…と思いながらコウジは答えた。

「実はあのパルサーがエンコしちゃって、で彼氏のマジェスティ借りてるってワケ、あ…」

「彼氏??」

コウジはまた不思議そうな顔をした。2人の会話にブライアンが割り込んだ。

「へぇ〜、この前なんかのイベン…」

「ハイハイそれ以上は口閉じてねブライアン(苦笑)」

ブライアンが何か言いそうだったのをすかさずミカがとめた。

さらにミカは

「ま、とりあえず…今日のバトルはマジでヤバそうね、あらジョニーさん?」

「あ、どうも始めまして…」

またジョニーが恥ずかしそうに答えた。ミカはそんなジョニーを見て少し顔をほころばせ

「こちらこそ始めまして(笑)あのハチロク早く直るといいですね」

といった。この前の第一印象と違う一面を見て安心感を抱いたのかもしれない。



そうこうしているうちにVampiresがPAに到着した。相変わらず風変わりなマシンの色

に明らかにオカルト趣味なボディペイント…。

「おい、ドラキュラ伯爵一行の到来みたいだぜ」

ブライアンが皮肉たっぷりにそう言った。




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