まずマイケルがマシンをとめた。ドアから出た彼はなぜかしらカードを片手に持っていた。
次にネス、シドがマシンを降りた。ネスは近寄りがたい危ない雰囲気をたっぷり出しながら、
一方シドはネスほどひどくはないにしろ同じような雰囲気を出しながらドアを開けた。
「今日は僕とネスとのコンビみたいだな、ネスはブロック担当…」
「ブロック担当は君がやるべきだ。第一またそんなヘンな紙切れをぶらさげて一体何しに
やってきたのだ?」
ネスとマイケルが言い争いをはじめそうだった。横で見ていたシドは”やってらんね”、とい
う表情で2人を見ていた。ネスとマイケルのやり取りはまだ続く。
「紙?キミは何も分かっていない、そしてどこまでも無知だ全く。これは世界で2枚しかn…」
「どっちにしろただの紙切れにすぎないのは確かではないのか?余計な屁理屈ばかりこねて、全く
おかしなヤツだ」
「おかしなヤツだと…?大体、このカードはレアで40000円、いやいやもt…」
「下らない、たかが紙切れ如きで、そんな紙よりサタン様のほうが永遠だ」
かなり話のかみ合わないというかズレている2人の言い争いがまだ続いているので、シ
ドはウンザリして他のチームのところへ行ってしまった。丁度ブライアンたちが話していた
ところに近づいていった。
「あんたらイエローフレイムズ?」
シドがブライアンたちにそう質問した。ブライアンが答えた。
「おう、もしかしてシドっていうのはアンタか?」
「おうおう、あんたがブライアンか。なんだ、普通のヤツだがや、アンタのことネスが散々
いっとってさ。「悪魔崇拝者を侮蔑した下等人間」とかなんだとか意味不明にな。
まぁあんなヘンな**野郎の意見なんかとうにきいとらんけどな」
「ま、連中の”おかしい”は俺らの”常識”だから仕方ねぇって。ってかなんでヤツ等
あんなにモメてるわけ?」
「さぁな、オカルトワールド全開だからな、奴等。お互いに人の話なんてきいとらんし、一人
はカードやらのおかしな紙切れに夢中で、もう1人はサタンやらマスターやらわけのわからん悪魔
拝んどるし、俺は最初メタル同好会みたいな感じだって聞いたから入ったのに、
俺までネクラの仲間入りだからなこれじゃ」
「あんたも連中の相手ばっかで大変だな」
シドは見た目こそ変わっているが実は結構気のいいヤツだった。唯一チーム内で外交的
で、またチームメンバー以上に他のチームとの仲がよかったことも有名だった。中途半端
な名古屋弁を使うことでも有名だった、あくまで”中途半端”な…。
「ま、いずれあのチームをぶっ壊そうおもっとるところでな、俺も早く名古屋の奴等とチーム
組みたいおもっとるところだし、ここでもまた違うプロジェクト立ち上げたいおもっとるし」
「俺もそうしたほうががいいと思うな、アンタはあのチームに属すべきじゃねぇってマジ」
シドとブライアンはすっかり意気投合した。
とそこへ一台またやってきた、真っ白…だが見た目はフルノーマルなシビックフェリオだっ
た。どーせ一般車輌だろうと皆思っていたが…。中から出てきたのは一匹狼のスティーブ
だった。実は、こんなにこのバトルが注目を集めているのはスティーブが走るからといっても
過言ではない。
スティーブはまだ言い争いを続けるネスとマイケルに話しかけた。
「ままごとMCバトルの最中悪いんだけどさ、ネスとマイケルって誰か分かる?」
スティーブは皮肉交じりなのか冗談交じりなのかそう2人に話した。
「M…バトル…?なんだそのエムなんとか…」
ネスがあたかもスティーブがヘンなヤツであるかのような喋り口調で言った。
「ま、どーでもいいけどさ、もしかしてお前等がネスとマイケル?ほぉ、まるでバフィーに
出てくるような敵の格好してるじゃん。そうそう、といってもすぐやられちゃうようなヤツ」
「バフィー…?何を言ってるんだ一体?ふん、あの下らんヴァンパイアハンターやらのドラマ
か…悪魔はあんなに弱い生き物ではない、それにあんなドラマを見てるヤツ等なんぞ…」
「へぇ〜、ここでもバフィー見てるヤツいるんかぁ、全く世界は狭いもんだ」
「あんなドラマ一度も見たことなどない!大体下らんテレビの世界なんぞ…」
マイケルが不審そうな目でスティーブを見た。スティーブとネスが何を喋っているのか
さっぱりらしい。最も、スティーブとネスの会話自体成り立っているとは思えなかったのだが…。
気まずい雰囲気をスティーブ自身が断ち切った。
「ま、いいや。それよりさ、さっさとバトルしちまおうぜ、ただあんた等の様子じゃぁ
多分30秒も経たないうちに終わらせちまうけどさ、そこんとこよろしく」
「そうだな、最も前に出ているのは…(←もぐもぐ言っていてよくわからない)だがな」
ネスが小ばかにするように答えた。スティーブは気にしていない様子だった。
シドがとうとう彼等のほうに歩き出した。たどりついて、スティーブにこういった。
「スティーブってアンタか、よぉよぉ格好マジいけてんな、REALだて」
「俺がREALだって?いいノリしてんね〜」
ブライアンと同様、スティーブとシドもすぐ仲良くなった。そんな2人の会話の間にマイケルが
「シド君、少し離れてもらえないかな、君がいると…」
マイケルの会話を無視して、スティーブが言った。
「つーかさ、突然だけどこのバトルが終わって俺が勝ったらあんたとチーム組みたいね」
「俺もだ、こんな***なチームウンザリだて。オタクの集会にいるのと変わらんし、
名古屋にいるヤツ等もあんたみたいなREALなヤツなら大歓迎だて」
シドとすっかり意気投合した。一方、蚊帳の外だったマイケルとネスは次第に苛立ちを
魅せた。ネスがつっかかってきた。
「ま、シドみたいな背教者は必要ないがな、我々には」
「…ああ?つーかおめー坂道発進如きで調子こいてんじゃねぇぞこの…」
シドがネスを若干睨んだ。だがこの雰囲気をすぐ断ち切ったのはやっぱりスティーブだった。
「ま、とにかくバトルしようぜバトル、さっさとさ」
まだ気まずい雰囲気は残っていたが、シドはまたブライアンたちのところへ戻り、バトルを
見守ることにした。会話を聞いていたブライアンがシドに話しかけた。
「坂道発進だって!?笑わせるなそりゃ(笑)」
今夜のバトルの結果はほとんど見えていたも同然だった。なにしろVampiresのチーム力
は最下位に等しかったし、ましてやチームプレーなんてもってのほか。今日も本来なら8人
ほどくるはずが、たった3人しか来なかった。皆それぞれの趣味(というか悪魔崇拝的行為)
ばかりを優先して誰も来なくなってしまったのだ。こんなボロボロのチームがスティーブ相手
に勝てるとは誰も思わなかった。ましてやネスもマイケルも大した力量を備えていない…。
首都高ではバトルが繰り広げられているのが分かった。独特のあのターボの音がこだまし、
バトルは白熱してる…とおもいきや案の定すぐ終わってしまったようだった。ギャラリーも
大して盛り上がらず、あまりに早いバトル終了にVampiresの2台に対しブーイングする者
もいた。「折角いい場所とったのに…」と嘆く人もいたようだ。
PAに戻ってきたが、相変わらず険悪なムードが漂った。ネスは言い訳をスティーブにぶつけ
た。
「言っておくが、今日のバトルはマシンの要因が一番だろうな。君のマシンには背教者のガス
が備わっている、大体そんなもので私に勝とうだなんて下らn・・・」
「ま、勝ったのはこっちだけどな、ってか何?背教者のガスって、NOS
って発音しようぜ、N、O、S、ユーノー?」
スティーブが珍しく反論した。基本的に大らかなスティーブにも少しいらだちがちらほら見えた。
コウジと仲良く喋っていたシドがまたこちらへやってきた。そして負け組2人に対し、
「やっぱ負けたんか、俺だったらまだバトルは続いてたはずだて」
マイケルは負けたショックからずっと黙ったままだったが、ネスは反論した。
「ふん、お前なんぞ所詮背教者だ。大体バトルの実績もないのに偉そうなことを…」
「おまえよりかはでらあるけどな、****なネクラちゃん」
「またその言葉を・・・お前はホンモノのk…」
とここでまたスティーブが
「はいはい、おかしな人の話聞くのもいい加減飽きたから。な、シド、今夜俺のHOODでパーティ
あるんだけどあんたにもきてほしいんだ、くる?」
「今すぐにでもいったるって、つーか女はおる?」
「たくさんいるぜ、ナタリーもやってくるし」
「マジか、俺あの子と一度話してみたかったんだがや〜ってかでら美人らしいけどマジ?」
「それは見てからのお楽しみだね、さ、善は急げだ」
誰もネスの話など聞いちゃいなかった。スティーブとシドは車に乗り込みそのまま大黒PAを出て
しまった。ネスはマイケルに矛先を変えたが、マイケルはネスの話に反論する気力さえ
残っていなかった。周りは誰も2人を見るどころか相手にさえしなかった。
余談だが、その後Vampiresは解散を余儀なくされた。シドはチーム脱退を高々と
宣言したし(「ここまでチームに残っていたシドも大した根性だ」、と一部の人間が
つぶやいていたとか)マイケルは首都高引退宣言をインターネットで発表。シドは「くだらない
遊びはもうやめた、私はサタンのために尽くす」とインターネットで公表した後、行方不
明となった。その後の彼の後を追うものも気にかける人間も誰もいなかった…。
さて、場面は戻って…いつのまにか終わってしまったあっけないバトルにギャラリーも
いまいち不完全燃焼気味だった。特に特等席と呼ばれるポイントでギャラリーしていた
人間にとって今回のバトルほど呆気なく退屈なものはなかっただろう、なぜなら特等席
の目の前に3台が来る前にバトルは既に終結してしまっていたからだ。
そんな雰囲気の中、PAに一台のマシンがやってきた、かなり高級車…の様子だが…。
コウジがブライアンに
「まさかあっち系の人じゃ…」
と恐る恐る質問したが、ブライアンはきっぱり
「ちげえよ、ありゃ…ホスト。まぁそっち方面の…にも見えないことはないけどなぁ…」
と返答した。さらにブライアンはコウジに…
「ああ、ありゃ多分歌舞伎町NO.1ホストのリョウジさんだな」
「ほう…にしても、かなり凄い…車に乗ってるんすね」
「おいおい、あの人のこと何にも知らないんだなぁ。ヤバいんだぜ、マジ。年収5億なんていう噂
もあるしな。あのビーマー(BMWのこと)も若い美人女社長のプレゼントだろうな」
「…ええ!?」
ホスト界の常識を知っているのか知らないのかはともかく、思わずコウジはビックリ
してしまった。
BMWがブライアンたちの方に近づいてきた。遠くからでもかなり威圧感がある感じだが、近く
に来ると黒いボディに黒いホイールも含めさらに威圧感を感じさせた。
リョウジが降りてきた。がブライアンたちに話しかけようとはせず、何故か違う走り屋らしき
集団のもとへ行ってしまった。
「なんか喋ってるみたいっすよ、先輩」
コウジがリョウジ達のやり取りを見て言った。どう見ても同じホスト仲間の会話とは思えなかった。
「にしても、随分ヤバい車乗ってんなぁ、リョウジさん」
ブライアンは思わずリョウジのBMWに感心した。ホイールといい、ボディといい何もかもピカピカ
だった…。と、ここでミカが
「あの人、この前あたしの友達に話しかけてたわよ。どういう理由か知らないけど…」
「きっとナンパでもしてたんじゃないの?ホストだけにモテモテだろうし」
コウジがそういうと、ブライアンは
「おいおい、リョウジさんは首都高の女走り屋には絶対にナンパしたりしないっていう主義
貫いてる人だぜ。つうかミカ、それって多分キャバ嬢のスカウトじゃねぇの?」
「名刺渡されたらしいけど、あんまり詳しくは聞かなかったわ」
と、そこへまた1台PAにやってきた。あの青いボディ…恐らくFDのようだが…。
「あら、女特攻隊長の登場みたいね」
ミカがそう言うと、何故かコウジが少しどきっとしたような様子を見せた。ブライアンがこれを見て
「ん?何赤くなってるんだお前?」
「ああ、いやなんでもないっすよ別に…」
「はは〜ん、さては…」
「え?リサのことを?まさか〜、ありえないっすよ〜だってあのリサっすよリサ。それにリサの…」
ミカがとっさに突っ込んだ。
「リサの恋人はあのFDよ、だから走り屋の男には興味がないんだって」
「ああ、そうだったそうだった、ハハハ…そうだよね、まったくヘンだよなぁリサって、だって車
が恋人だなんて言ってるんだもんなぁ、そんな人間世の中に何人いるんだって話だし…ね」
コウジは思わずリサの…トップシークレットを言いそうになってしまった…。フォローしてくれたミカ
に対し心の中で密かに感謝していた。
実はコウジとリサとミカは高校時代の同級生。3人とも同じ吹奏楽部所属していたことが
今の仲のきっかけとなっている。当時は3人ともお互いを恋愛対象として見ることはなかった
が、走り屋生活を送り同じチームにいることでコウジはリサに対し…ということになってしまった
らしい。そのことをしばしミカにも相談して…いるんだとか。しかしリサのほうはというと…。
FDがこちらに向かってきた。どうやらブライアンたちのことをすぐに発見したようだ
そしてリサがマシンから降りてきた。
「メンバー全員集合!あ、ひとり…」
「シンジ先輩は都合があってこれないんだってさ、そうっすよね先輩」
ブライアンが「まぁな」と言いうなずくと、リサがコウジに声をかけた。
「あ、コウジ。いつそんな帽子買ったの?その…」
コウジの顔が赤くなった。思わずブライアンは噴出しそうになったが、じっとこらえた。
「ああ…いやぁこういう変わった帽子っていうのも…人と同じっていやじゃん?だから…」
「なんか浮いてるよ、ホント(笑)ホントコウジって面白いよね、高校のときから何にも変わって
ないよ」
「え?いやぁ…、あ!!ってか先輩、ホストのリョウジさんたちのほうどうなったんすかね?」
コウジはふと思い出したかのように、あわてて話題を変えた。
一方、リョウジたちはというと…。
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