株式会社シオダ建築デザイン事務所
大谷石をめぐる課題と展望 1 塩田 潔
■現代建築へのアンチ・テーゼとしての素材・大谷石
古代より人間と石の結びつきは、道具として、神への祈りの舞台装置として、建築の素材として今日までに至っている。
従来、大谷石は石蔵、石塀、宅地造成用の擁壁等大量に使われてきたが、今はむしろ、インテリアやエクステリアの素材として新しい
価値観も見出され、加工技術の発達によりその表情も多様な可能性を持つようになった。又、古い石蔵の空間や、手掘り時代のつる
はしの跡が残る質感が、レストラン、カフェ等そこに集まる若者には鮮烈に写るようだ。大谷石の成分の中の天然ゼオライトが人間にとって
癒し効果があり、又、水や植物の鮮度を保つ効果があり、様々な分野で利用され、あるいは試行されている。特に、大谷石空間(採掘
場跡や石室)で熟成された日本酒、ワイン、生ハム、納豆等は、一味もふた味もマイルドになって私たちの舌を楽しませてくれる。これが今、
密かなブランドになっている。藤森照信氏によると建築は今限りなく透明に、限りなく軽く、そして細く0(ゼロ)に近づいているそうだ。
氏が最近、土や変木や石を使ってやや狂気じみた(失礼)建築を創り始めているのは、そのような時代の流れを認めつつも、歴史学者と
して少しでも歴史を面白くしたいと思っているからだそうである。自然の素材よりも、科学や化学を追いかけたのが20世紀という時代であった
今も、建築は特に住宅は、高性能、高気密そして安全、安心を獲得するために何かのシェルターのように人間を殻に閉じ込めてしまった。
藤森氏の創り続ける作品群は、それらに対する強烈なアイロニーであり、アンチテーゼである。その藤森氏が数年前、大谷の露天掘りの
採石場を訪れた。その時、氏は大谷石の素材感を視覚でなく、嗅覚で感じ取り、「石の香り」を感じたそうだ。大谷石は、藤森氏が創る
アンチテーゼの建築の素材としても、群を抜いた存在であろう。