北京も上海も、高級ホテルが林立している。ホテルに5段階のランクがついており、フロントに銘板が掲げられている。我々が泊まった4つ星ホテルでも、一泊1万3000円程度と、平均月給の2カ月分の宿泊料が取れるので、外貨を稼ぐには手っ取り早い。稼働率も悪くないようだ。必ず儲かる商売なのだろう。5つ星ホテルは、シェラトン、オークラなど、必ず外資との合弁である(北京飯店は知らないが)。中国側は土地だけ出して、あとは外資がやるというおいしい商売なのでは。
町にはやはり、外国企業の看板が、これみよがしにビルの壁面を飾っている。
北京から万里の長城までは80キロほどの距離だが、この間、ずーっと高速道路の工事をやっていた。日曜日にも拘わらず、全区間に人が絶えることがなかったのには驚いた。施工法にしても、資材の運搬方法にしても、日本では絶対に認められないような方法がまかり通っている。人海戦術で、高速道路などあっと言う間につくってしまうのだろう。
自動車は、サンタナ、シトロエン、日本車、ドイツ車といった順か。サンタナしか走っていなかった上海に比べればバリエーションに富んでいた。純国産車という「紅旗」にはついにお目にかかれなかった。
主な交差点には交通警官が中央に立って、交通整理をしていた。これも昔を彷彿させる。交通マナーは劣悪。運転も乱暴だが、歩行者も、車をものともせず、広い道路を自由に横断する。見ていて恐ろしいが、これもルールがあるようだ。ゆっくりでもなく、急ぐともなく、歩いて横断すれば、反対車線を走ってくるドライバーも目視することができる。だから意外と安全なのだ。横断に不慣れな歩行者が小走りに走ったりすると、ドライバーは対応することができず、事故を起こす。そのルールがわかっても、やはり中央車線に立って車の流れがとぎれるのを待つのは、私の趣味に合わない。
大使館は固まってある一角にある。同様に日本人もある区域のアパート5棟に押し込められている。そのうち2棟がジャーナリスト専用というのだから念が入っている。電話は当然盗聴されている。これも人海戦術だ。ホテルの内線で話していて、ホテルのサービスの悪さを馬鹿にしていたら、「そんなことを話してはいけません」と、公安の盗聴者が日本語で割り込んできたという話があるくらいだ。
ホテルでは、さっそくこの国の若者を蝕む拝金主義の洗礼を受けた。荷物を持ってきたボーイに、公然とチップを要求されたのだ。上海ではこういう事があるが、北京はないと聞いていたので(ちなみに上海のホテルのボーイは受け取らなかった)、面食らった。まだ両替していなかったので、「小銭がない」というと、ふてくされた顔で出ていったが、思い直したように「グループ全員ないのか」と聞き直してきた。「そうだ」と答えると、憤然とドアを閉めた。
中国の政府(接待2部)から来たガイドは沙さん。旦那は人民解放軍の4つ星の将軍で、軍事衛星を担当しているという。カラオケ好きで、「今日はみなさん夜はどうするんですか」と自分から切り出し、カラオケに行くよう誘導した(みんなよろこんでいたが)。
面白かったのは、晩飯を食べた店の勘定書が10人ほどで3万6000円ほどであったのが、沙さんは「高すぎる」と抗議し、負けさせたことだ。
「この事件は正式に抗議しますので、今晩書類を書いてください」と言って、O社広報を辟易させていた。
こうした廉直と、「自分の客に損をさせたくない」というプライドの高さと、上部からの指示により、「友誼商店」につれていってみやげ物を買わせようという矛盾が、彼女の中に同居しているのが面白かった。みやげ物を買いにつれていくのだが、あまり高いモノを買うと「ニセモノだ」と言って抗議に行くし、このあたりに北京に住んでいるインテリ中国人の、微妙な心情を読みとることができるように思う。「つまらないみやげものはつまらない」という自分の価値観に正直に生きたいが、一方で外国人からは、外貨を稼がなければならないのだ。
友誼商店の店員の攻勢はすごい。
「掛け軸おみやげにいいよ。風橋夜泊ね。これいいよ。中国で一番有名な先生これ書いた。ここに新聞のコピーあるよ。有名な人ね。すごく高い。でもここなら5000元でいいよ。いい掛け軸でしょう。でもお客さん買う気なら4000元に負けるね。だめ? じゃあいくらなら買う? 私、店長と相談して負けるあるよ。日中友好のために買ってください」と、こちらが店に入ってから出るまで言い続けるのである。これも、すでに日本では見ることができなくなった風俗の一つである。
なお、東南アジア諸国と同様、値段は負ける交渉をするのがルールである。国営以外の商店では、半額を目指すべきだろう。
話は戻って、夕食は蛇を食べた。空揚げとスープで、なかなか美味。
その後、カラオケにつれて行かれたが、この店というのが、どう見てもやくざ者が仕切っているような店だった。カラオケはもちろん日本語だが、どう見ても6、7年前の海賊版、バッタモノだ。上海で某氏が、ヒルトンホテルの最上階でカラオケを歌っていたが、パイオニアの最新型だった。
中国流のカラオケというのは、行かれた方はご存じだろうが、一人一人に接客婦がつく。ほとんど風俗まがいの代物である。さすがに全員で行ったので破廉恥なことをしている人はいなかったが、私の隣に付いた子は、ハルビン出身21歳。昼間は会社で計算をしていて、夜はここで働いているという。
デュエットで「いつでも夢を」を歌った後、かいがいしく手のマッサージなどしてくれる。これはなんのためかと言いますと、チップをもらうためである。彼女たちは、原則的に無給である。それどころか、一日20元をショバ代として納めなければならない。今日もお茶を引いていたところに、鴨が葱しょってやってきたのだからたいへんである。サービスこれ勤めて、お帰りの際には「チップちょうだい」である。300元取られた。ちなみに中国人労働者の一ヶ月の平均給与は600元程度である。