昨日小学館は、プレジデント社の買収を発表しました。
プレジデント社は売上高71億円(私の入社当時からほとんど変わっていません)、4億円の利益を出していますが、これは昨年たまたま単行本のベストセラーが出たためです。部数の減少に歯止めを掛けることができなかった「プレジデント」は、一昨年月刊から隔週刊行に移行、全面リニューアルを行いましたが、部数の減少は続いています。
しかし、雑誌の場合部数の減少は大きな問題ではありません。広告の増減が経営を大きく左右します。広告料金は部数に依存しています。発行部数はABC協会が考査し、公表しますが、「プレジデント」誌はここ1年以上、ABCの考査をスキップしています。
そういうわけで、なかなかやばい状態です。
100%株を保有していたタイムワーナーはAOLと合併、アジアでの戦略を見直さざるを得ないだろうと見られていました。どういう話か、株を手放す話が小学館に。金額は20億円とされています。これとは別に、プレジデント社は「プレジデント」の商標権をタイムワーナーから買い取ったとしています。このためプレジデント社の幹部は「これはMBOである」と言い張っています。
なぜ本来はタイムワーナーのものである余剰金で自社のブランドを買い取れたのかは、謎です。そういう買収交渉ってあるのでしょうか。
小学館は子会社の昭和商事にプレジデントの株を買い取らせ、ここがプレジデント社の持ち株会社であるプレジデント・ビジネス社を設立して全株を譲り渡した。プレジデント・ビジネス社の社長にはプレジデント社社長である綿引好夫が就任しました。つまり、彼の地位はとりあえず保全されたわけです。
小学館は、ビジネス誌分野への進出を研究していました。その足がかりとしてプレジデントを選んだ訳です。
管見ですが、現在の編集部の陣容で、「プレジデント」の部数を以前のように立て直すことは難しいでしょう(それが可能だと主張していたのは私だけですから)。
また現在の編集内容では、続ければ続けるほどブランド価値が失われていくものと思われます。広告収入を維持するためには「プレジデント」にはABC協会を脱退する以外の道はないでしょう。しかし、「プレジデント」「日経ビジネス」「文藝春秋」のようなクラスマガジン(と思うのはクライアントの勝手)が少ないので、ABC協会を脱退しても経営的影響は少ないかも知れません。
小学館はプレジデント社を吸収合併するわけでもありません。これはメディア再編のパターンとしても注目するべきことではないでしょうか。子会社にしておけば、戦略に応じてかなり柔軟なマネジメントを行うことができます。
最後に、1年半前にプレジデント社を飛び出した私としましては、「まあ、そうだろうな」という買収に対する納得と、「えっ、あの無能経営者が、まだ経営の舵をとり続けるの」という驚きと、ある種の寂寥感が胸中を去来するばかりです。