新ルールを「太陽の下で」正々堂々と議論する

 

木村 代表取締役名誉相談役
KPMGファイナンシャル・サービス・コンサルティング代表取締役   

運営者 昔と違って今は、金融関係者でも、「積極的に発言したい」という人がいっぱいいるみたいですからね。昔のイメージだと、都銀の人間というのは煮ても焼いても食えなくて、ただ黙々と仕事だけをこなすような人たちというイメージがありましたが、そこのところもかなり変化してきているみたいです。

木村  今までは受け皿がなかったのですが、金融イノベーション会議のような大きな「器」を作ろうと思いました。それがようやく必要になってきたということでしょう。お上が完全に統制をして護送船団で進むというのではなくて、行政の方でも、そのようなやり方もありうべしと言っているわけですから。

運営者 それは単なる建前なのかもしれませんが、世の中はずいぶん変わったなと、感無量ですよね。5年前には考えられなかったことです。当時は私は、大蔵省叩きに躍起になってましたからね。

木村  行政が民間に開かれるようになったのであれば、民間側にもそれに見合った新しい「器」は必要ですよ。「では、われわれが作った器を使ってください。ただしそこでの議論はすべてオープンにされますよ」と。
 これまでの金融の世界では、表で正々堂々と戦うという土俵は存在しなかったんです。

運営者 「でも、表にしてはならない議論というのもあるのではないか」、と内心思っている旧世代の人もいるのでは。

木村  そういう人は、どうぞこれまで通りの手法で勝手にやっていただけばいい。そういうのはわれわれの価値観ではありません。それが国民に受け入れられる堂々たる議論とは到底思えませんからね。もし自分のエゴだけを通そうとしてアイデアを出しても、それがみんなに受け入れられるほど練り上げたものでなければ、これからは通らないんですよ。そういう新しいルールの中で議論を進めるべきでしょう。
 いろんな意見が出てきたとして、「どの意見が一番優勢か」ということは、業界の中の人だけではなくてメディアの人を含めて、太陽の下で正々堂々と議論していただく。「私の利益が削られるからそれは嫌だ」と主張しても、そんな理由では誰も賛同しないでしょう。「消費者にとってメリットが大きい」とか、「フェアネスを通すためにはこう変えなきゃならない」とか、そういった詰まった議論がないといけないですよ。また、その主張の背後にはしっかりとした根拠がなければならない。そういう意見が勝つことになるでしょう。

運営者 変わったもんですねぇ、昔は危ない会社がでてくると、「昭和の鞍馬天狗」のソッペイさんが出てきて采配を振るって立て直したり、あるいは第一次石油ショックの狂乱物価を鎮めるのに、やっぱりソッペイさんが産業界と労働界に声をかけ、賃上げレベルを抑えて、物価上昇を1年後に抑えることに成功したわけですが、そういう日本的な「偉い人が物事をスパッと解決する」というのは過去の世界になしまったんですね。

木村  今の日本は、そのようなメカニズムでは動かなくなってきたということなんです。

運営者 なんか希望が湧いてきたなあ。
 じゃあ、金融イノベーション会議のような器によって、そのようにして民間から出てきたアイディアを政策に反映させることで、日本の金融機関はより強い体質を獲得し、海外の金融機関との競争にも勝ち抜けるようになるのでしょうか。

木村  金融機関としては、正しく健全なルールメイキングにしっかりと貢献することができて、しかもそうやってできたルールを自らも遵守するというのは、実はミニマム・スタンダードなんです。

運営者 えっ、最低限やらなければならないこと、というわけですか。
 でも、それじゃ今までのやり方を苦労して変えるには、あまりにもリターンが少なすぎませんか。「こうすれば、金融界がその昔社会から受けていたような尊敬を取り戻すことができるんだよ」ということであるならば、みんなその努力を払おうとするかもしれませんが。

木村  でもね、今のままのやり方に固執していては、社会からの信用が一枚一枚剥がれていくだけなんですよ。
 そこは、しっかりと自分自身を見つめ直して、「このままのやり方で本当に大丈夫なのだろうか」と自省しないと。市場では競争し続けなければならないわけですが、戦い方の基本である最低限のルールが分からなければ市場競争に勝利することはできないんです。

運営者 厳しいですね。もうちょっとリップサービスしてくださいよ。

木村  リップサービスしたところで、現実は変わらない。そういう厳しい現実を直視しないと。


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