金融イノベーション会議ってこういうことだったのか

 

木村 代表取締役名誉相談役
KPMGファイナンシャル・サービス・コンサルティング代表取締役   

運営者 今度、金融イノベーション会議というのを立ち上げるお手伝いをしていらっしゃるそうですが、これは何ですか。会員を広く募るシンクタンクで、NPOなんですよね。

木村  そうなんですよ。金融の世界でもご他聞に漏れず、今は「官から民へ」の時代でして、民間からの提言型社会になることが求められるようになってきました。そういう環境変化を踏まえた上で、民間から新しい金融のあり方やルールを提案することを目的とした組織を今度立ち上げるんです。

 とはいえ、新しい時代において、官の重要性が減じるわけでは決してありません。官には民ができない大切な仕事があります。官の仕事というのは、エンフォースメントです。「やることは、やってください。でもルールは守れ」ということなんですね。
 金融の世界では規律のある競争が必要なのですが、「規律」は「自由」の中からは生まれません。実務に立脚したアイディアは民間の方が得意ですから、民間が知恵を絞って民間主導のルールをひねり出したとしましょう(その際、ルールメイキングのところで、フェアネスとか、トランスペンアレンシーに十分配慮しなければならないことは言うまでもありませんが)。ところが、そのルールを破る者が出てきたら、ルール破りをさせないようにしなければなりませんよね。もし訴訟に訴えるとしたら、決着が付くまでに10年は覚悟しないといけませんから。そこでは官の関与が必要になるんです

運営者 そう、この国では司法が満足に機能していませんから、司法に判断を持ち込む以前にそれを解決するという手段が必要なわけですよね。裁判なんかに頼っていては、ビジネスにならない。ところがそういう機能はなかなか現実的にはない。しかし、金融に限ればちゃんと行政が見ていて、監督権限があるわけですから。
 なんか、住専以来の金融行政の失敗を受けて、お上もずいぶん反省したらしいじゃないですか。まあ、あれだけ威張っていたくせにあっさり失敗して、何十兆円も注ぎ込んでますからね。それで反省しなきゃサル以下ですからな。

 本当に反省したのかどうかは、これからわかることではあるのですが、その意味でも、木村さんが考えられているような民間からの意見をちゃんとを受け取ることができるかどうかということを、しっかり監視したいものだと思います。

木村  まあわれわれは、憲法が保障しているように、民間の立場で自由な発言や提言をするわけです。それを採用するかしないかは行政側の自由なわけですから。昔は、表で議論することすら許されなかった。色んなところで嫌がらせを受けたりして。

運営者 でも「民主」主義であるのならば、今の時代、少しは民間の言い分に耳を傾けてくれてもいいはずですよね。

木村  行政官は、民間のまとまった意見をある程度踏まえて判断を行うことが求められると思います。

運営者 常識的には民間の方が、行政よりも金融の実務については詳しいわけですから。

木村  ただ、民間サイドは行政側の思考体系を支えている「あるべき論」、すなわち国民のコンセンサスに基づき、社会の秩序を守るために必要な最低限度のルールとは何かという点についての理解は、若干薄いわけです。というのは、このルールは商売とは別次元のところにあるわけですから。
 ポイントは、そこのところのすりあわせについてのディスカッションを、みんながみている太陽の下で行うということですよね。

運営者 これまでは銀行が都心に持っている豪華施設の中で、何かしら知り合いだけが集まって、テーブルの下でごちゃごちゃ、法外に高い弁当を食べながらやってたわけですが。

木村  まあ、そうだったかどうかはともかくとして、「だれが見ても、正しいものは正しいんだ」と思える議論をきちんと通すようにするべきではないでしょうか。今まではそういった仕掛けづくりがなさすぎたんだと思います。そういう場を提供しようと思いましてね。それで今度ウェブ・サイトを立ちあげるんですよ。

運営者 インターネットを使って何をやるんですか。

木村  ネット会議室をつくって、「金融の世界でこのような問題がある、もっとこの点はこう変えるべきだ」というようなことを話し合う場をご用意させていただいたんです。その場で、みんなのアイデアを練りあげていって、識者の方や学者の方、マスコミの方々にもごらんいただいて、批判されるべきところは批判していただき、賛同する人はに賛同してもらい、そのプロセスを世の中全体の人に見てもらいながら、必要なルールは何かということを探っていこうということなんです。

運営者 会員も募集するようですが、これはどういうものですか。

木村  基本的に、一定水準以上の金融知識のある方であればご応募いただくことができます。理事会の承認を経て、会員になります。
 会費はいただきません。ただし、ひとつだけ義務があって、理事会からの調べものや提言募集のリクエストに対して、汗をかいていただきたい。

運営者 当然ながら、自分の仕事上の守秘義務を犯すようなことは求められないですよね。

木村  当然です。インサイダー・インフォメーションは必要ありません。必要なのは知恵なんです。いずれにしても、コントリビュートしようと考える人でなければ来ていただいても仕方がないわけです。ただ単に、情報にアクセスしたいという人はお越しいただきたくはない。

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