「リスク管理」と内部統制【1】

 

木村 代表取締役名誉相談役
KPMGファイナンシャル・サービス・コンサルティング代表取締役   2000.1.13

運営者 われわれは"リスク"と聞くと、「危険だから近寄らない方がいい」と考えがちです。銀行で融資案件が通るということは、「リスクがゼロである」ということを意味しています。許容できるリスクを計算して付き合おうとする"リスク管理"の発想なんて今までは理解の外でしたよね。

木村  これまでのリスク管理は、忌み嫌うモノを塩をまいて"お清め"するという感じでしたね。ところが、"お清め"しても不良債権はずいぶん重かったし、そもそも"お清め"した後のほとんどリスクのない案件では儲かりません。

運営者 そりゃそうだ。当然だ。

木村  みんなが扱えるスタンダードなコモディティで儲かる商売というのは……、インフラだけでしょうかね。

運営者 それもスピード経営でいちはやく独占しないとだめでしょう。
 金融機関は、限界状況の中で厳しい競争をしているからこそ、リスク管理が必要なんですね。

木村  これまで我が国の金融業は、規制されていたのでサプライヤーが少なかったのです。見かけ上はね。でも本当はプレイヤーは非常に多かった。ただ、業務が絞られていたのでマーケットから見ると需要に対して供給が絞られていたんです。だから、上澄みの利幅の良いところを取って商売をすることができたわけです。そういう環境がなくなったのですから、経営が厳しくなるのは当然なんですよ。

運営者 お上が金利を上げ下げしたり、規制緩和を秩序正しくやって、利幅を決めてくれていたわけですね。ありがたやありがたや。

木村  以前は金融機関は、既に超過利潤を確保しているのですから、後は正確性とか、コスト削減を気にしていれば良かったわけです。「収益をどうやって上げていこうか」と本気で考える姿勢は、過去の金融業のトップには基本的になかったのかもしれませんよ。
 そもそも戦後50年、大きなデフォルト(債務不履行)はなかったですからね。大きな企業が行き詰まると、ソッペイさんが出てきて解決してくれていたわけです。つまり、リスクそのものがなかったということなんですよ。

運営者 その状況が変わらない限り、リスクについて考えるのはムダだったということですね。 で、今厳しい競争環境になってきて、不良債権も抱えている。儲けていくためには"リスク管理"をやらなきゃいけないということは、若手には切実に理解できるのですが、昔よき時代しか知らない化石のようなおじさんたちを説得しなきゃいけませんよね。どうすればわかっていただけるものでしょうか。

木村  これは難しい。よほど痛いお灸か、お上が指導するしかないでしょう。
 今回監督庁が作った「金融検査マニュアル」で、初めて日本の金融機関は"全行的"なリスク管理を考えたわけですから。それまでは支店についてはかなり厳しくチェックしていました。たいへんな締め付けだったのですが、本部をチェックする必要性はまったくといっていいほど考えられていなかったのです。

運営者 本部は偉いから、エリート様の集まりだからノー・チェックなんですね。偉い人を疑ったり失礼を働くというのは、畏れ多いことなわけだ。他社と比較して本部機能の効率性を考えるなんてことはしないわけだ。

木村  基本的に、部下を信頼して任せておけばきちんとやってくれることになっているわけですから、内部管理をしようという発想がないんです。内部監査をする人は大企業でも5人〜7人。これではチェックしきれません。だから「問題はない」という結果になってしまう。

運営者 つまり、問題があったとしても、放っておいて見たくないわけですね。

木村  そのほうが、みんな幸せなんですよ。で、露見したらクビにして、禊ぎを終わらせてしまい、問題の発生を許した土壌は全く改められなかったのです。


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