「リスク管理」と内部統制【2】

木村 代表取締役名誉相談役
KPMGファイナンシャル・サービス・コンサルティング代表取締役   2000.1.14

木村   しかし本来、リスク管理というのは経営者にとっては"義務なのです"。訴えられたら大変な賠償をしなければならないので、アメリカの経営者は必死でやってますよ。
 だめなカイシャのトップになったら、まず過去の負債を精算することから始めますよね。「俺の前の経営者はこんなに下手をした」と前のトップの責任をクリアにして、自分の責任を問われないようにするわけです。

運営者 日本の場合だと、ダメ会社のトップはまともに前任者の責任の中につっこんでいって、火だるまになることが多いですね。本当の悪者は退職金をがっぽりいただいて、時効でぬくぬくとしている。

木村  唯一やるのは、部下を集めて、「もうヤバイ話は残ってないよな」「飛ばしはないよな」と聞いてみて「よし、俺は聞いてない」と安心するんですよ。これでは善管注意義務違反で捕まってもおかしくはありません。

運営者 でも、ホントにヤバイ話がなかったのなら、会社がそこまで傾くはずはない。新しく泥棒の親分になったようなものなのに、部下の言葉を単純に信じるというのは通らないですよね、彼らを善人に変えていくためには。
 では、日本企業にきちんとした内部統制を実現するためには、どうすればいいのでしょうか。

木村  まず株主代表訴訟などの法的手段の整備。それと会計制度ですね、監査費用だってアメリカの1/10程度でやってますからね。それと内部統制のためのシステム整備ですか。だけど、経営者の意識が変わらなければ、どんなに制度を整備しても仕方ないのです。

運営者 日本企業は "管理"という言葉を嫌うんじゃないですかね。

木村  ええ、内規では「統轄する」とか「協議する」とか「回覧する」、「閲覧する」、何を意味しているのかわからない言葉がいっぱいありますよ。これは合議なわけだから、ある意味では責任回避のために発達した流儀かもしれませんね。「反対しなかった」ということは「賛成である」ということで、責任はみんなのものになるのです。

運営者 みんなに責任があるということは、だれも責任をとる必要がなくなると……なかなか洗練されたシステムじゃないですか。 はっきりした「命令」を出したがらないのも、責任をとりたくないからなんですね。

木村  責任者に責任をとっていただくシステムにはなってないです。せいぜいクリミナル・チャージ、あるいは自分のポッケに入れてしまったというよほど極端なケースでないと……。ヤクルト社長の、財テク担当副社長に対する監督責任を誰も問わないじゃないですか。これはアメリカでは指弾されることなんです。誰の責任かを明確にしていくのです。

運営者 上場企業でも、職務分掌規定がないところが多いらしいですね。それじゃあ、権限も責任も存在しませんな。

木村  会計についてすら内規が未整備なのに、そのほかの内部統制ができてるはずがありませんよね。でもそこはなんとなく物事が決まっていくというのが日本企業なんです。それでもまだ金融機関はしっかりしてるほうだと私は思うんですよ。

運営者 結局、決め事やルールに対するわれわれの認識が総体的に"甘い"ということなんでしょうかね。




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