"寄らば大樹"はもう終わった

 

木村 代表取締役名誉相談役
KPMGファイナンシャル・サービス・コンサルティング代表取締役   2000.1.12

運営者 金融業は、これからM&Aやリストラの嵐だと思います。いままでの労働観では通用しなくなるんでしょうねえ。

木村  "寄らば大樹"はもう終わりました。"自分が大樹"だと思わないとね。

運営者 しかし、銀行に入る人たちはそもそも"大樹"が好きな人たちのような気がするのですが。

木村  そう、ですから困ったことに、「この大樹はもうだめだ」と思った瞬間に外資という別の"大樹"を求めて移動する人たちがいるのですが、そういう発想では外資で成功するのは難しいでしょうね。何かに"depend on"する人は必ず失敗します。
 外資の世界では、「自分を支えるのは自分」なんです。これだけはクリアなことですよ。自分の雇用を守るのは、自分以外の誰でもないのです。
 看板としての"ゴールドマンサックス"という名前は大樹に見えますが、その内部のメカニズムはみんながもたれ合っているのではなくて、個々人が立っているわけです。自分で立てない人は、いずれすげ替えられてしまいますよ。

運営者 しかし自分の足で立つというのは、いまのところ自分の足で立っていない組織依存人には理解しがたい概念ですよね。みんな満員電車の中で人に寄りかかって立っているというのを、会社の中でもやってるんだもんなあ。自分の足で立つということをわかりやすく説明できないもんかなあ。

木村  それは簡単ですよ。当社でも人材募集をしていますが、べつにMBAを持っている人でも「ああそうですか、英語ができるんですね」程度の点数にしかなりません。
 私が採用の時に質問することは5つなんです。この5つに答えられれば即採用です。

1. あなたは何ができますか=能力
2. あなたのそのサービスはいくらですか=値付けのセンス
  これは難しいですよね。ほとんどの人は答えることができません。
3. それは一年でいくつ売れますか=マーケティングの素質
4. それを買ってくれるお客さんを知っていますか=ネットワーク
5. それを1年間続ける健康と体力と気力はありますか=インフラ
 これですべてですよ。これは、自分がどれくらい稼げるかを知るためのフレームワークに過ぎないんです。

運営者 ああ、なるほど。コンサルタントですから、全部こなせて一人前ということですね。

木村  で今度は、「年収はいくら欲しいですか」と聞くわけです。これは自分が稼いできたうちのいくら欲しいですかという、単純な問いになるわけです。まあ、外資系金融機関だとだいたい1/10といったところでしょうか。
 そのとき決まって「今私は、いくらもらってます」と答える人が多いのですが、それも×。それは当方にとって興味のないことでして、自分の立場と顧客のニーズを捉える感覚のない人は、顧客のことを本当に考えることができないということなんですね。

運営者 そりゃ、顧客指向性がないとコンサルティング業は無理です。それにしても、日本の銀行マンには多くの能力が欠けているということですね。そして"大樹"の先行きもかなり厳しくなっている。本気で意識を改革しないと、みんながもっともっと辛くなるのは時間の問題のような気がしますね。

 

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