フィクションはタイトルで泣け 第1回
本の中身は読まなくていい
溜池通信編集長 かんべえ
http://tameike.net/
2000.4.8
たとえば500万部を超えた、日本の出版界史上最大のベストセラーは『窓際のトットちゃん』でした。『気配りのすすめ』なんてのもありましたっけ。これらの本にどんな価値があったのでしょう。私も読んだはずですが、今から思えば何の跡形も残ってはおりません。『脳内革命』や『神々の指紋』など、内容に比して売れすぎた不幸というのか、今では古本屋でさえ見つけ出すことが難しくなっています。
まして問題なのはフィクションの分野です。「これぞ名作」といくら宣伝されても、『マディソン郡の橋』や『レディ・ジョーカー』クラスの作品にそうそう出会えるはずもなく、年に2回も出る芥川賞や直木賞作品など、いちいちフォローしてたら他にすることがなくなります。時間を潰すにしたって『三国志』でも読み返す方がよっぽど気がきいてます。
だいたい今の時代、小説を書きたい人はたくさんいますけど、読みたい人なんてそんなにいないんです。とある文芸誌では、新人賞への応募者数が発行部数と同じになってしまったから廃刊を決めたそうです。需要と供給の関係からいって、これでおもしろい作品ができるわけがない。
ずいぶん悪態をついてしまいましたが、ともあれ現在の私は新作のフィクションを読まなくなってしまいました。それでも別段、痛痒を感じません。話題作などは、著者名と題名だけをチェックしておけばいいのです。というより、題名だけ見て十分に楽しめるのです。
その昔、私が広報室の企業出版の担当で、年に何冊も単行本を出す編集者だった頃、ベストセラーを出すことで有名な出版社の敏腕編集長に教えていただいたことがあります。
「本が売れるための3条件というものがあります。著者名、題名、表紙の3つ です」
私は驚きました。彼の説が正しければ、本が売れるか売れないかは純粋に本のカバーだけにかかっており、中身は関係ないということになります。かつて「販売のXX新聞」と呼ばれる新聞社の社長は、「XX新聞というロゴさえあれば、中が白紙でも売ってみせる」と豪語したそうです。さすがは野球のチケットと洗剤で売るXX新聞、と感心しましたが、考えてみれば読者なんてその程度なんです。売れる売れないに内容は関係ない。本作りをしてる人たちが、力を入れて作っているのはカバーだけ。
だったら読者の側もカバーで十分ではありませんか。ありがたいことに、本を手にとってカバーを見るだけであれば、書店は代金を要求しません。アマゾンドットコムも、カードの番号を教えろとはいいません。
カバーでいちばん大切なのは題名です。題名を味わうことで、その本の値打ちは十分に推測することができます。誤植がいっぱいある名著がないように、題名は冴えないけど中身は最高、なんて本はめったにありません。仮にあったとしても、そんな本は無視していいはずです。だって世の中には、これだけたくさんの本が出ているのですから。
これから私は、「フィクションにおけるいい題名とは何か」の小論を展開したいと思います。これをマスターすれば、書店で本の背表紙だけを見てフィクションを楽しむことができるはずです。こんな忙しい時代に、いちいち中身を読んでいるわけにはいかないじゃないですか。もちろん本だけでなく、マンガでも映画でも使える法則です。
以下、取り上げる作品のすべてを私が読んでいるわけではないことを、あらかじめ申し上げておきます。