精神的心的外傷、心の傷をトラウマ(PTSD)といいます。
トラウマは人間の対処能力をこえた、ものすごい衝撃を体験したときや、
深い悲しみや、あまりにもつらい経験をしたときに、ショックや不快感だけでなく
脳細胞にまで鮮明に、外傷記憶として影響を及ぼしてしまうことをいいます。
この脳への外傷は、海馬の委縮など、脳神経画像的研究においても医学
的、科学的に明らかにされてきています。

 精神的衝撃は脳に生理的変化を引き起こすだけでなく、時がたってもけっ
して心から消えゆくことはなく、永続的にその人の精神状態を左右し続けて
いきます。
生涯、離れることなく心を支配してしまうのです。
ですから、排除するのではなく、自分の分身として認め、受け入れて共存し
ていく心構え、共に生きる姿勢が必要になっていきます。

心的外傷は感情がマヒしたり、孤独感におそわれたり、不眠に悩まされたり
とさまざまな症状として現れてきますが、人は心が傷つき弱ったときほど
極度に生命カン(感・勘・観)は、逆にさえてくるものなのです。
悩み傷つくと、眠りも浅くなり、常に疲労感とけん怠感におそわれてきます。
ぼんやりとした状態が続き、脳への血流も停滞していきますが、そんな中
働かなければならない最低限の思考回路はフル回転していくのです。
眠らぬ時ほど生命カンがさえるのは、無駄な思考が働かないからです
生命カンは生きるほうへ、少しでも生き延びる方へと自然に働いてくれます。
つまり、心的外傷、トラウマは自らの手で命を断ち切らないよう、心を死滅
させないように発症してくれた、いわば心の命づななのです。

人はだれもが必ずみな、心に傷をもって生きています。
その傷が深いほど、心の綾がからみあっているほど、人は人に優しくなれる
といいます。癒されない悲しみが深いほど、人のいたみを我が身のごとくに
感じられるからです。
私個人の思いとしては、できれば心の傷は、知らなければ知らないままで
いたほうが、そっと眠らせたままでいたほうが幸せかもしれないと感じています。
潜在下に封じ込めていた心の傷をほりおこしていくことは、とてもつらく、大変
な作業になるからです。
これは自己との闘いですが、共に歩んでくれる良き理解者がそばにいなければ
とてもできない果てしない作業になります。
ただいたずらに傷をほりおこすことは、耐え難い苦しみの渦にのみこまれるだけ
で危険ですし、避けなければなりません。
追体験、フラッシュバックなどで、もし、心の傷に気づいてしまったとき、封じ込めて
いた潜在下の思いが露呈されてしまったときには、だれかの手をかりて
(本人が心から信頼している人であることが何よりもの条件になります)
ひとつずつ問題やショックな出来事を見つめ、からみあった心の糸を解きほぐし、
受け入れていくことが大切です。
心の傷と向き合うには、何よりも自分自身の中に、人に対しての信頼感を取りもど
すことからはじめなければなりません。         次のページへ
心の傷、心的外傷  Post-Traumatic  Stress Disorder