オーディオの科学へ       2009.4.9 追加

サブウーファーの薦め

本文でも述べているように最近のスピーカーシステムは高音域重視で低音はやや不足している。それを補うためサブウーファーの使用を薦めているが何故かオーディオマニアにはサブウーファーの使用を嫌う人が多い。「音が遅れる」というのが理由らしいがそれついては別ページに書いたのでここでは実際にどれほど低音が不足しているのかをデータで示しておく。以下のデータはステレオサウンド誌 2005年 No155、156 に掲載された中高級35機種のスピーカーシステムの測定結果を解析したものである。さらに、我が家のシステムでサブウーファーを使った場合、使わない場合について、バスドラムの音と8発サイン波の応答特性を載せておく。

最後にサブウーファー選択の目安を書いておく(2007.3.4 追加)

解析法

左図は周波数特性チャートの一例である。
上から、

音圧、電気インピーダンス、2次、3次高調波歪特性を表す。

青水平線は100〜150 Hz の平均音圧でこれを基準音圧とし、30、40,50,60 Hz との音圧差(-dB)を読み取った。 fmax は振動板の共振x放射インピーダンスによって生じるピークでその周波数と基準音圧との差を読み取りピーク値とした。

  はバスレフ型特有のインピーダンスミニマムでヘルムホルツ共鳴周波数に相当する。



中高級スピーカーシステムの低音特性表

会社名 価格
万円
方式 口径
(cm)
30Hz
dB
40Hz
dB
 50Hz
dB
 60Hz
dB
 fmax
Hz
 ピーク値
dB
 fr  高域
kHz
KF 26.5 Cl 16.5x2 -25 -18 -10 -4 - - - 60
HB 29 FBL 20 -24 -14 -6 0 70 +4 45 50
BW 33 FBL 16.5 -24 -12 -4 0 70 +1 50 60
AP 40 PR 11.5 -21 -17 -12 -7 70 -5 - 40
TO 38 RBL 18 -19 -18 -6 0 70 +4 70 30
VT 52 RBL 18 -14 -13 -4 0 70 +2 45 90
AT 60 Cl 16.5 -14 -8 -3 0 70 +3 - 35
AA 68 RBL 17 -16 -14 -2 0 68 +4 40 32
TL 76 PR 20 -12 -2 -1 +1 70 +2 35 45
AE 88 RBL 16.5x2 -14 -13 -6 -1 80 +4 32 100
DL 96 RBL 20x2 -17 -13 -3 +1 70 +3 30 22
EL 110 RBL 18x2 -16 -11 -4 0 70 +3 30 60
QD 110 注1 -14 -6 -4 0 45 -4 - 28
WA 110 FBL 16.5x2 -21 -10 -3 0 70 +2 42 50
SF 114 RBL 18x2 -18 -16 -6 -1 70 +3 30 60
PG 115 FBL 18x2 -17 -11 -4 0 70 +2 30 100
AJ 125 PR 20x2 -14 -10 -2 0 70 +3 32 50
JB 130 FBL 38 -16 -7 -3 +1 70 +2 30 45
LN 140 RBL 16.5 -15 -13 -5 0 70 +1 32 45
TN 170 RBL 30 -14 -11 -4 +1 70 +4 30 22
JM 200 FBL 28 -14 -7 -2 +2 70 +4 27 45
AG 260 注2 25x2 -10 -4 0 +2 70 +3 30
WB 230 RBL 18 -16 -12 -2 +2 70 +4 40 40
AM 230 Cl 15x2 -17 -11 -4 0 70 +2 - 50
YG 230 Cl 15x2 -21 -14 -8 -2 75 0 - 70
MG 280 Cl 17.8 -15 -9 -5 0 70 +1 - 60
BW 300 BBL 25x2 -11 -7 -4 0 70 +2 25 100
JB 330 RBL 38 -16 -16 -5 0 70 +3 30 50
WA 360 RBL 20x2 -16 -13 -6 -1 70 +3 28 30
GP 390 BL 20x2 -19 -13 -8 -3 80 +1 - 30
FT 440 FBL 30 -7 -4 -1 +1 70 +2 25 40
SF 500 RBL 26x2 -16 -9 -2 0 65 +1 22 100
WL 514 FBL 30x2 -15 -9 -2 +2 65 +3 <20 50
AL 520 BBL 29 -15 -10 -4 -1 70 +1 <20 80
LW 679 注3 17.8x2 -20 -18 -4 -1 70 +1 40 70
DT 20 Cl 27  -27 -17 -9 -5  90 +2  - 60
YH 15 FBL 30 注4 0 0 0 0 - -    

会社名は適当に2文字のアルファベットに省略、価格はペアー価格
方式 Cl:密閉、FBL:前方バスレフ、RBL:後方バスレフ、注1:コンデンサーSP、注2:アクティブサブウーファー使用、注3:ジェットバルブ、注4:手持ちのサブウーファー。周波数特性は ローパスフィルターを150Hzに設定したときの値、
高域(の上限)は-10dB くらいになる周波数をかなりいい加減に読み取った値(ほとんどのSPで可聴周波数より十分高いのであまり重要な値ではない)
最後の2行(DT,YH)は手持ちのシステムです。DTに関しては無響室のデータが50 Hz 以上しかないのでそれ以下は不明。下の測定データから判断すると 30Hz では -20dB 以下と思われる。

色分け -20dB以下 -20dB〜 -14dB -14dB〜-10dB ー10dB〜-6dB -6dB 以上
 I /0≦1/10 1/10 <I /I0≦1/5 1/5 < /I0≦ 1/3 1/3< /I0≦1/2  1/2 </I0
ほとんど出ない 極めて不足 不足 不足気味 問題なし

第1行は dB 表示の減衰率、第2行は分数表示(/I0 は基準値 I0に対する音圧出力比)、第3行は私の主観的表現

バスドラムの応答特性と周波数特性

上の表を見るとほとんどのスピーカーシステムで30〜40 Hz の音は高級スピーカーといえども極めて不足しているといえる。一方、例えばバスドラムの音圧スペクトルを見ると、


この図(Onkyoのサブウーファーのページから借用)のように40 Hz 付近を中心に大きな音響エネルギーを持っていることがわかる。

ただし、実際のクラシック音楽で使われるバスドラムの波形、f 特はこれとはかなり違うようである。
そこで手持ちのCDの中から、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番のフィナーレで強奏されるバスドラムの音を切り取って調べてみた。基音はD0(37 Hz)である。曲のwav ファイルはここをクリックすると聴けます。ただし、パソコンのスピーカーでは高調波しか聴こえない。高性能の密閉型イアホンを使うとパソコンのイアホン端子からでもかなり迫力のある音が出るはず。詳しいことはここを見て下さい。

さらにこのwav file を、(1) 直接パソコンで解析する。(2) One Shot の音から連続10 Shotts の wav file を合成し、これを音楽 CDに再変換しCD-R に焼き、手持ちのCDプレーヤーで再生した音を、DS-1000ZA + YST-SW1000、 (3) DS-1000ZA のみで鳴らした音をマイクで収録、USBオーディオインターフェイスを介してパソコンに取り込み、wav ファイル化したものを、時間領域波形に対しては Audacity、周波数領域スペクトルについては WaveSpectra(いずれもフリーソフト)で解析した。使用した機器は別ページに示したものである。だだし、この測定ではオシロは使っていない。

以下に測定結果を示す。

バスドラムの応答特性(時間領域の波形)

画像にポインターを合わし手のひらマークに変わったところでクリックすると大きな画像が出ます。

ただし、プラウザ(i.e.)詳細設定マルチメディアの「イメージを自動的にサイズ変更する」のチェックを外さないと原寸表示されません。

横軸は1目盛が100msec。図中の両端矢印直線の長さが1周期の時間間隔を表す。

Original 音楽CDをリッピングしてwav ファイル化し Audacity ソフトでこの部分を切り出したものである。

スピーカから出た音はオーディオインターフェイス附属のソフトでwavファイル化したもの。

基音成分がかなり減少しており波形が変わるのはわかるがそれ以上のことはあまりわからない。

そこで、下にこの部分の高速フーリエ変換した周波数スペクトルを示す。

バスドラムの周波数スペクトル

画像にポインターを合わし手のひらマークに変わったところでクリックすると大きな画像が出ます。

Original 波形のスペクトルは基音の37Hz の成分が最大である。数字は高調波の次数で、その位置は理論的に求めた周波数である。円状膜の振動モードなので高調波は基音の整数倍にならない。

なお、この他の低音楽器のスペクトルはここに収録している

マイクで採った音のスペクトルはサブウーファーを使った場合は基音はかなりよく出ているがOriginal に比べるとかなり小さくなっている。下に示すサイン波をオシロで観測した場合はそれほど減衰していないのでマイクを含めた測定計に問題があるかもしれない。

それに比べて、DS-1000ZA だけだと基音成分がほとんど出ていないことがわかる。

それでも聴いた感じではバスドラムが盛大に鳴り響いていることはわかる。しかし、SWを使った場合と比べると全く迫力に欠ける。(これは私の主観)



サブウーファーを使った場合の8発サイン波の応答特性 

上の実際の波形を使った測定では波形についても振幅についてもわかりにくいのでここに示した方法で8発サイン波の応答を測定した。以下にその結果を示す。

左はDS-1000ZA のみ、右はYST-SW1000 をクロスオーバー周波数40 Hz、ボリューム 11時の位置にして逆相で加えた場合。両スピーカーから約1mの位置にマイクを置いて測定したもの。入力電圧、測定器の感度は変えていないので波形の振幅が実際の音の強さを反映している。

32Hzの +SWの写真は時間軸がとぎれて収束の様子がわからないのでここを参照して下さい。

さて皆さんはこれらのデータを見てどう思われますか?

もしサブウーファーを使うことを躊躇しているなら、まず実際の演奏を聴きに行くことです。ただし、低音楽器が活躍するフルオーケストラやオルガンコンサートに行ってみて下さい。とりあえず、CDにどれだけ低音が録音されているかを知りたい方は本文にあるこの方法で試して下さい。そして自分のシステムと比較してみて不満に感じたらサブウーファーの導入を考えることです。一方、「サブウーファーの音は遅れる」という話があります。 バスレフタイプだと全く遅れないとは言わないが、そもそも音が出ていないのでは話になりません。ただし、導入に関しては細心の注意が必要です。上のリンク先を参考にして下さい。

私自身の見解としては、上の表からわかるようにかなり大口径ウーファーを使ったシステムでも低音は不足しています。さらに、このような大口径ユニットは男性の声などいろんな場面で重要な役割をになう中低音の再生が難しく一般にかなり高価になります。そこでメインシステムに迫力ある低音を要求するのはあきらめ高音質(と思う)の中型スピーカーに良質のアクティブ・サブウーファーを加えて使用するのが最も賢明なスピーカーシステムの選択法だと思っています。

以下 2009.4.9 追加
ただ、この場合、サブウーファーのチューニング(カットオフ周波数、ボリューム、位相の設定)が難しく、CDソフトを耳で聴きながら調整すると、まず間違いなく低音過剰になり、音が遅れるなどという筋違いの批判を浴びることになります。そこで、測定が必要になるわけですが、ちょっと面倒です。

実は、最近ある方からのメールで知ったのですが、いわゆるAV用に開発されているDSP(Digital Sound Processor) AVアンプ(例えばこれ)は、信号検出用のマイクが付属しており、サブウーファーとメインシステムの自動調整機能を有し、ほぼ理想的なチューニングが可能だそうです。これは、2.1ch システムにも利用できるそうで、これからシステムを揃えようとしている方にはこの方法を導入されることをお薦めします。

サブウーファ選択の目安 2007.3.4 追加

具体的にどのようなサブウーファーを選べばよいかは難しい問題で、価格もピンからキリまであります。めどとして実際にオーケストラで使われる楽器の低音限を考えると、 音圧周波数特性は 30Hz までフラット(-3dB 程度)、30Hz 90dB での歪み率5%(出来れば3%) 以内、群遅延時間30msec 以下であれば十分でしょう。といってもこれはかなり厳しい条件です。

ここに、外国のアマチュアが多くのサブウーファの特性を測って公表しているサイトがあります

http://www.avtalk.co.uk/forum/index.php?t=msg&th=14971&start=0&rid=0&SQ=0
(データのダウンロードにかなり時間がかかります) 
残念ながら現在(2009年3月)このページは別のページに置き替ってわっています。下のサイトをご覧下さい)

http://www.hometheatershack.com/forums/subwoofer-tests/6015-index-subwoofer-tests-manufacturer-model.html
2008.2.6 追加(YAMAHA SW-1500 のデータが載っています)

これによると30Hz 90dB での高調波歪率は10%以上になるのが多いようです。

低音での歪率の低減がなぜ重要かというと、人間の耳の感度は3000 Hz 付近が最高で低音側にも高音側でも低下します。いわゆるラウドネスレベル曲線です。例えば、80dB くらいの音だと30 Hz と 60Hz の感度差は15 dB 以上あります。ここで 30Hz の高調波歪率が10% (-20dB)もあるサブウーファーを使うと、60Hzの高調波が基音とほぼ同レベルで聴こえます。下手をすると、30 Hz の音を聴いているつもりが、60Hz や90Hz の高調波を感じているのかもしれません。小型のユニットを使っているサブウーファーは原理的に歪み率が高いので注意が必要です。

サブウーファにはMFB(モーショナルフィードバック)をかけた密閉型が適しているという話も聞きますが、MFBをかけると言うことは、強引に振動板の振幅を大きくすることでもあり、超低音になってくると高調波歪み率という点ではバスレフ型よりも不利で、実際の測定値もそのような傾向にあります。

また、よくバスレフタイプは音が遅れるといわれますが、上のサイトで群遅延時間(Group Delay) のデータを見ると、例えば、上から2番目のMonolith DF というバスレフタイプの製品を見ると 30Hz の群遅延時間は 16msec と最短の性能を持ち、うまく設計すれば決して密閉タイプ(例えば B&W の製品群)に引けを取らないことがわかります。

追加分のページの最後の方に比較的手軽に手に入る日本製品(YAMAHA YST-SW1500)のデータがありますが、電流正帰還によりユニットの駆動力・制動力を高めた製品で上の条件を満たしています。なお、この製品はバスレフ型で、密閉型に比べて音が遅れるとの風評がありますが、その直上に記載されている、密閉型(Velodyne SPL-1200)に比べ、価格が安いにもかかわらず、群遅延時間(26msec)、80msec後の遅延スペクトルともより優れている(高速である)ことが読み取れ、噂は風評に過ぎないことが分かります。

掲示板でサブウーファーについて議論した過去録をここに挙げておきます。

http://shigaarch.web.fc2.com/OldBBS/25subwoofer.html

http://shigaarch.web.fc2.com/OldBBS/30MFBsubwoofer.html