導線の材質  銅線銀線金線アルミ線白金線合金線メッキ線 など  オーディオの科学へ戻る

このページを読むに当たっては雑学帳『ケーブル線材についての3つの迷信』をあらかじめ見ておいて下さい。

線 Cu 比抵抗値17.2 nΩm(20℃) 温度計数:0.004/℃ 比重:8.9

スピーカーケーブルのみならずいわゆる導線には銅が使われている。これは銅が銀についで室温での比抵抗が小さく、かつ銀に比べ安価であるからである。日常使用しているビニールコードなどは、タフピッチ銅といい、精錬で得られた粗銅を電解精製(メッキの原理を使う精製法)して使用している。その純度は4N(99.99%)程度であるが、これとは別に酸素を0.05%程度含んでいる。(従って、酸素も不純物として扱うと3N程度となる。) いわゆる無酸素銅は、この酸素を取り除いたものである。迷信頁で書いたように、少量の酸素を含んでいる方が抵抗値が低い場合もあるので、通常の線材には脱酸素処理を行わずに使用する。電解精製やその他の純化法を繰り返し行うことにより高純度銅、超高純度銅を得る。超高純度銅の主な用途はLSIの配線材、超伝導線のシース材などであり、オーディオ用ケーブルとして使う場合の効果は別項で詳しく述べたので省略する。実際の配線材として使用する場合は純化による抵抗値の低下はごく僅かなので、機械的強度に優れているタフピッチ銅が使われる。

線 Ag 比抵抗値16.2 nΩm(20℃) 温度計数:0.004/℃ 比重:10.5

銀は最も比抵抗値の小さい物質である。従って、価格を無視すれば電導線に最も適した材料である。
どれくらい小さいかは、比抵抗値を比べればわかるが銅に比べ約6%小さい。銅をいくら純化しても1%程度しか比抵抗値は下がらないので明らかに導線としては有利である。ただし、これは同一温度での比較で、温度変化を考慮すると、10℃で使っていた銀線を25℃にすると10℃の銅線とほぼ同じ抵抗値になる。つまり、この程度の差しか無いともいえるわけである。なお、市販の銀線は電解精製を行ったもので、4Nくらいの純度である。高純度銀の工業的用途としては酸化物超伝導線のシース材(外皮材)などが考えられるが今の所需要が少ないので銅材のような高純度化は進んでいない。
以下にスピーカーケーブルとして使用した場合の効果を銅と比較して検討する。

1.直流抵抗値:上に述べたように銅に比べ同じ太さの線なら同一温度では約6%抵抗値が小さく導線として有利である。しかし、これは銅線の断面積を6%、線径にすると3%大きくすれば同じになる。多芯線の場合芯線数の数を1、2本増やせば同じ物が出来る。要するに銀か銅かを考える前に製品としてのケーブルの1m当たりの抵抗値を比較することが先決である。

2. 表皮効果:表皮厚は比抵抗の平方根に比例するので銀線のほうが薄くなる。表皮厚が薄いということはそれだけ表皮効果が顕著になるということなので、銀線の方が不利(高周波電流の減衰がより顕著)である。しかし、同一直流抵抗値の線で比較すれば銀の方がより細い線(-3%)が使えるので丁度打ち消して優劣無しとなる。

3. 振動効果:振動効果の解析より並行2芯線の横方向の振動モードの共振周波数は線材の密度の平方根に反比例するので銀線の方が低くなり可聴周波数体へ下りてくる可能性が高くなる。その分不利であるが、もともとこの効果は極めて小さいので気にすることはない。

4. 静電容量、自己インダクタンス:両者はいずれもケーブルの構造により決まるので線材にはよらない。

このように見ると銀線を使うメリットは同一太さのケーブルで比較すると直流抵抗値がわずかに小さくなる程度で、逆に不利な点もあるので、価格の点で決定的に不利な銀線を使うのはいかがなものか???
なお、何度も繰り返すが、銀線の音や銅線の音などというものは決してないのでご注意を!

線 Au 比抵抗値24.0 nΩm(20℃) 温度計数:0.0034/℃ 比重:19.3

金は比抵抗値が銀、銅よりだいぶ大きく導線として使われることは少ないが、(i) 酸化しにくい (2)伸展性が大きく容易に細線が得られる、という特徴があり、LSIの内部配線材として使われる。また、ピンジャックなどのメッキ材として使われるのはご存知の通りである。

アルミニウム線 Al  比抵抗値28.2 nΩm(20℃) 温度計数:0.004/℃ 比重:2.7

アルミニウムが電導線としてかなり使われていることは意外と知られていない。どこに使われているかというと送電線である。比抵抗値は銅よりもずっと大きく電力ロスが大きいはずなのに何故か?と思われるであろう。実は比重が小さく単位質量当たりの導電率が最も高い材料だからである。つまり同じ重さの材料で同じ長さの線を作ったときアルミ線は圧倒的に抵抗値が小さく出来るわけである。何故、軽いといいか?これは送電線のように太く長い線を使う場合鉄塔にかかる荷重を考えると有利になるというわけである。ただし、アルミだけでは強度が弱いので銅や鋼で補強(複合線)して使うようである。いずれにせよ、電力会社が徹底的にコスト計算をやった結果このような線を使うのが最も有利だというわけである。当然、配電用の中・低圧電線は銅線である。また、オーディオ用としてはスピーカー、特にトゥィターのボイスコイルは出来るだけ軽い方が望ましいのでアルミ線が使われることがある。

白金線 Pt 比抵抗値105 nΩm(20℃) 温度計数:0.003/℃ 比重:21.5

比抵抗値が大きく導線としては明らかに不適当である。しかし、アマチュアの間では白金を電源ケーブルやスピーカーケーブルに使う試みがなされているらしい。細い白金線を電源ケーブルなどに使うと不適当であるばかりか、かなり発熱し危険でさえある。何おかいわんやである。もっとも融点が高く(1755℃)かつ酸化しないので高級電気炉のヒーター線として使われることがある。

合金線

2つの金属を合金にするとその比抵抗値は両者の平均値よりもずっと大きくなる。右図はよく知られた急冷したCu-Au合金の室温での比抵抗値を示す。縦軸は比抵抗値で単位はuΩcm。 横軸は組成(%)である。図からわかるように抵抗値の組成依存性は放物線 x(1-x) 的に変化し50%で最大値をとる。このように合金にすると抵抗値が大きくなる理由は、結晶の規則性が乱されるためである。(『ケーブル線材についての3つの迷信』 参考)なお、Cu-Au 合金の場合焼きなましをすると、25%Au、50%Au 付近で抵抗値が大きく低下する。これは、熱処理によりCuとAu原子の配列が規則化するためである。

このように、合金は一般に比抵抗が大きく導線にするには不適当である。銀に金を混ぜた線を使ったスピーカーケーブルがあるそうだが合金にして使っているなら当然直流抵抗値がかなり高いはずである。確かにこのようなケーブルを使えば音質も変わるかもしれない。ただし、制動不足の音となる

なお、金属の組み合わせによっては互いに溶け合わない場合も多くあり、この場合は2つの金属の平均値より少し大きい程度の抵抗値となる。例えば、銅と銀は互いに溶け合わない。(固溶しない)

逆に高い抵抗値を持つ線材がほしい場合は合金を使う。いわゆるヒーター線は白金線など特殊な物を除いて合金線が使ってある。

メッキ線

銅線は酸化皮膜が出来やすいこともあり、裸線で使う場合メッキを施すことが多い。アンプの工作などする人にはおなじみの錫メッキ線などがその例である。この場合錫はハンダになじみやすいというメリットもある。

さて、スピーカーケーブルにも表皮効果を低減させると称して銀メッキ線が使われることがある。本当に効果があるか定量的に考えて見る。

本文に記した様に、表記効果の効く厚さd(導線表面からの距離)は比抵抗の平方根に比例する。交流周波数を 50kHz として具体的に計算すると、銅ではd=0.29mm, 銀では d=0.28mm とわずかな差である。これに対しメッキ厚(通常は0.01mm くらいか?)はごく薄く、表面から内部に向かっての電流密度分布がごくわずかに変わるだけで実効的な抵抗値はほとんど変わらない。つまり、50kHz 程度の周波数では銅線に通常の厚さで銀メッキをしても表皮効果の低減にはほとんど効果がないことがわかる。それよりも、素線径を小さくする方がよほど効果がある。

ちなみに、表皮厚が0.01 mm くらいになる周波数は数十MHz で,これくらいの周波数になると電流はほとんどメッキ部を流れ、メッキしない場合に比べ実効抵抗値が数%低下するものと思われる。

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