NHK 技研 ノート No.486 (抄訳) 2005.6.9 戻る

原文 http://www.nhk.or.jp/strl/publica/labnote/lab486.html

楽音に含まれる超高域音を聴き分ける事が出来るか?

通常人間の聴覚の可聴域は20kHz までとされているが、大橋らによるハイパーソニック効果などそれ以上の周波数帯の音も「感じる」可能性がある事が報告されている。

本研究では20KHz 以上の信号を含む場合と、含まない場合の再生音を本当に聴き分けられるかどうかを厳密なブラインドテストで検証する。

方法

システム: 下図のように、ソースを20kHzをクロスオーバー周波数とする急峻なディジタルフィルターによって、可聴域成分と、超高域成分に分け、おのおのの信号を独立なアンプ・スピーカーシステムにより再生する。超高域成分はコンピュータ制御によりミュートをかける事が出来る。それぞれのディジタル信号は192kHz 24bit で扱われ、共通のクロック信号が使われる。もちろんそれぞれ二組からなるステレオ装置として使用する。テストでの最大音圧レベルは80dB 程度とし、被験者は-3dBから+7dB の範囲でボリュームを調整することも許される。

テストのプロセス: duo-trio(二重-三重)法を採用する。 具体的には、全音域を含む再生音を"R"とし "A"、"B" はどちらか一方が全音域、もう一方が可聴帯のみの再生音とし、まず被験者に"R"音を聞いた後、"A"、"B"音を聴いてもらい、"A"か"B"のどちらが"R"に等しいかを答えてもらうという方法で行う。被験者はこのテストプロセスを、納得がいくまで何度も繰り返すことが許される。これを1試行とする。

ソース: 1.薩摩琵琶;; 2,20.ジャズ(ピアノトリオ); 3, 4, 13 バイオリンソナタ; 5, 10, 14 ピアノ+管楽器; 6、7,8 管楽器ソロ; 11、12 コーラス; 15 管弦楽; 16、17,18,19 伴奏付きヴォーカル

11,12 は市販 SACD、それ以外は、筆者らによる 192kHz、24bit ディジタル録音、13 は 3のソースの超高域部を同レベルのホワイトノイズに置き換えたもの。

被験者: 男性 30名、女性 6名、内33名は熟達のオーディオエンジニア、2名は学生、演奏者である音楽家も含む。

年齢構成は、10代3名、20代12名、30代16名、40代3名、50代2名

結果

1. ソース毎の正答率

下図は、各ソースについて、被験者が1回または2回テストを受け、計40試行を行ったときの正答率を示す。当然のことながら正答率50%というのは、実際には正しく聴き分けておらず、まぐれ当たりの正答率に相当する。点線(66%)は許容率5%の有意レベルである。すなわち、まぐれでも、5%の確率で正答を得るレベルを示す。

結果を見ると、1,10,15 のソースで比較的高い正答率を得ているがいずれも基準レベルに達していない。

2. 被験者別の正答率

下図は各被験者が20ソースについてのテストで出した正答率である。この場合、試行数は20回であり、許容率5%の有意レベルは72%である。

結果を見ると、被験者30(17才の女性)がわずかではあるが有意レベル(72%)を超えた正答率(75%)を出している。

3. 追加テスト

2のテストで最高の正答率を出した若い女性被験者を対象に、さらに確認のため追加テストを行った。選んだソースは、テスト1で正答率が多かった1,10,15 番、逆に困難だった2番、被験者が最も識別しやすいと答えた16番、21番は1番の超高域をホワイトノイズで置き換えたソースである。各ソースについて20回繰り返しテストした結果を下図に示すがいずれも有意レベル(72%)に達していない。

4.結論

著者の出した結論は控えめなもので、「いくつかのソースについて、超高域を含む楽音と含まない楽音を識別できる可能性を、確認も否定も出来ない」というものである。

この結論は著者の立場上はっきりさせるのをはばかったきらいがあり、私にいわせれば、「極めて例外的な能力を持った人が識別出来る可能性を完全には否定できないが、普通の人(といってもこの場合音にうるさいベテランばかりだが)にはまず不可能である」といったところである。さて皆さんはどう思われますか?