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Ganymede Takeover
ガニメデ テイクオーバー


ガニメデ テイクオーバー Ganymede Takeover / 原作:フィリップ K.ディック と レイ ネルソン
  発表 1967  訳:katz-katz

−  第1章  −
 午前3時。幻覚効果研究所長(Bureau of Psychedelic Reaserch)、ルドルフ バルカーニ
(Rudolph Balkani)のベッド脇テーブルの上でヴィドフォンが鳴った。
バルカーニが出るまで ベルは鳴り続けている。

最近 時々起るのだが、実は1時間以上前から 彼の目は覚めていた。

「はい、バルカーニです」
「教えて欲しい事があるんだが、少し 話す事は出来るのかね」
とラインの反対側からの、気を使った声がする。
バルカーニは それが国連安全保障理事会議長の声だと気付く。
 バルカーニは答える。「簡潔に頼みますよ。私は病人なんだから」

「君は『キャスト』を聞いたかね?」
「『キャスト』とは 何の事です?」バルカーニは、ひげの伸びた あごを掻いた。
「ブロードキャストだよ。放送。エイリアンの最後通牒が 全てのテレビ・ラジオに流されたじゃないか …」
「私には、娯楽番組を見ている時間など無いです。奴等の要求は一体 何ですか?」
「私達は あなた達に、平和をもたらします。そして、調和をもたらします だ」

「それはプロパガンダでしょ。奴等の要求は判ってる。地球の無条件降伏でしょ」
「その通り。だが ドクター。君は ある原理による新しい精神装置の開発に関与しているだろ?
   それで奴等の活動を阻止 出来んのかね?」
「そうなんですが」バルカーニの言葉は 苦い笑い と共に出る。
「残念ながら あれは我々の活動をも 阻止してしまうでしょうね。おそらく この惑星の上の、
   いや、この惑星の周囲の 全ての、心を持ったものを阻止してしまう」

「だが、君なら ある種の人々に それに対する免疫を与える事が出来ると聞いている。
   ヴァイタル ファーストライン リーダと言う名前だったか」
「いや、まだ出来ては いません。確かに あれに対する唯一の免疫策は、私が行っているラディカルな
   精神療法になるでしょう。もしも、私に多少の時間と 実験のための『ボランティア』を
   充分に与えて貰えるならば、それは …」
「我々には、それが必要なんだ!」
安全保障理事会議長は興奮した。その表情で 必死に自分を押さえ様としているのが判る。
ヴィドスクリーンの中の議長のイメージは やがて震えを止め、落着いた。
「… どうすれば良いと思う?」

「アドバイスする様な事は無いですよ。私は この種族の中の妖術師に過ぎない。
   研究所の長などではありません。私は小さなブードゥ人形を作る。だが それにピンを
   突き刺すかどうか決めるのは、あなた達の役目だ。その件で 私には
   お願いしたい事があるんですが」
「何だね?」
「あれを使用する事になっても、私には伝えないで下さい。私は知りたくなど ありません」
   そう言うと バルカーニは電話を切って ベットへ転がると、眠りを続けようとした。

 # # #

「平凡的過ぎますな」
メッキス(Mekkis)は嫌悪を持った言い方で、捕らえた人間を見ながら 呟いた。
「だが、もう少し品種改良すればよろしい」
 《時計係》(Timekeeper)はメッキスの耳の傍で、羽音をたてる。そして 囁く。
「大会議に向けて、準備を始めた方がよろちいかと 思いまちゅ」

「おお、その通りですなあ」
メッキスは言った。彼の長く細い舌が、素早く飛び出て、椅子の隣の押しボタンに触れる。
直ぐに彼の《着付師》(dresser)達が来た。高い声を交わし、ぺちゃくちゃと騒ぎながら 入ってくる。
メッキスは、彼らの仕事が 楽に成るようにと 背を丸める。
 メッキスは支配種族ガニメデ人である。

ガニメデ人は、その生物種の形態として脚も腕も無い ピンク色の巨大な芋虫である。
ガニメデ人には自身の腕も脚も不要なのだ。複数のクリーチ(creech:類語creature)が
その手や脚の代わりと成っていた。その事が なぜ彼等が存在しているかの理由を良く示している。
ガニメデ人は品種改良されて、産み出されたものなのだ。

 クリーチの《着付師》達は忙しく メッキスの体を 赤橙色の袋の中へ滑り込ませる。
それは最上級のフォーマル ウェアだ。これ以上の服は無い。
政府で働くメッキスの経歴の中で、今日は 最も重要な日かも知れない。
小さな《美容師》(groom)達が メッキスの頭の上を行き来する。紐の様に太く大量の毛を、櫛でセットする。
《洗顔師》(washer)は 舌で頬を磨き上げる。その間に、メッキスは 捕えた人間を
もう一度 見て、哀れな生き物ですなと思う。
この世界の中で、お前等の存在に 私達が煩わされる事など、あっては ならないのですよ。

 メッキスは個人的には戦争には反対だった。しかし … 今、それは実際に 行われている。
「涙を流している場合ではありませんな」メッキスは声に出して、呟いた。
「どうです、クリーチは?クリーチである事は そう悪い事でもないでしょ。皆さん、違いますか?」
「ええ、悪くないでちゅ」メッキスの身支度のために その周りに群がる無数の"専門家"達の囁きが拡がる。
「まず、叩きのめせ。そして占領し、後は 吸い上げる。それで完了ですな。
   最初の2つのステップは もう終わりましたね。たいした誤算も無く、困難も少なかった。
   これからは 第3のステップに入るのです」

そして思った。そこに 私が登場するのですよ。

確信を得るために、メッキスは《預言師》を呼んだ。
ヘビに似た《預言師》(Oracle)が やって来た。
「未来は どうなるのですかね?」メッキスは聞いた。
「今日の事でちゅか?」そのプレコグは言った。
メッキスは そのクリーチが、予言を口にしたくないらしい 不安を抱えている事に気付く。
「そうです。述べて下さい」

「闇の力は あなたの下に集まりまちゅ。今日は あなたの敵の日でちゅ!」
 メッキスは舌で唇をペロリと舐めた。「だが、その後は どうなるのです?」
「闇は拡がり、更に大きな闇へ。そして ついには!御主人ちゃま。我々は全て闇の中へ!」
 メッキスは、これを じっくりと考えてみた。《預言師》は地球への侵略に反対だ。
ただ それは、メッキス自身が 侵略反対の立場である事を反映も している。
ところが 現実には、この侵略は成功なのだ。この《預言師》の力への疑念が湧く。

 メッキスは推測する。恐らく、将来は結局の所、不可知なのです。
意味の はっきりしない事を言って、怖れさせるのは難しい事ではありません。
どうせ後で、こう言えば良いのです。『ほら。私は この事を言おうとしていたのです』

 メッキスは声を出す。「その闇の力とやら から逃れるためには 何をすれば良いのです?」
「今でちゅか?ありません。しかし、その後なら …僅かのチャンスがありまちゅ。
ノウヲェア ガール(Nowhere Girl)の謎が解けるなら」
「ノウヲェア ガール??それは何者なんです?」メッキスは いらいらして、今にも怒り出しそうだ。

「私の能力には限界がありまちゅ。また、視力も衰えていまちゅ。しかし私には 何かが、
   未来から接近して来るのが 見えるのでちゅ。それが何者かを 説明する事は出来まちぇん。
   それは、全てを飲み込める程の巨大な空洞に、私達を引きずり込む力がありまちゅ!
   それは、余りに強力なので、時間の流れさえ、曲げてちまいまちゅ。あなたが これ以上、
   それに近ぢゅくと、もう避けるのは難しくなるでちゅ。御主人ちゃま、私は震えまちゅ。
   私は これまで、恐ろしい などとは思った事はない者でちゅ。
   しかし今、恐怖の中に 消えようとしているのでちゅ」

 メッキスは思った。今となっては、この不運を回避する事など 出来ないらしい。
それならば 私は前へ進み、それと向き合うべきなのでしょう。尻込みも 怯えも無用ですよ。
運命を自由に扱う事は出来ません。しかし 運命に対し、どう言う態度を取るかだけは 自由ですからね。
 舌先を震わせ、メッキスは《運搬師》(carrier)を召集する。そして大会議のホールへと出発した。

..............


第1章の前半部を、そのまま、載せました。全17章に、なっております。

本作品は、紙媒体への翻訳権は、クリアしているのですが、電子配布は、権利クリアしておりません。
そのため、ここでは、部分発表となります。全文を読みたい方は、お手数ですが、盛林堂さんの方に、
お問い合わせ、お願い致します。(2013年12月以降、それまでは、都内の各所での、販売計画中です
 
→ 2013年11月17日から西荻窪の盛林堂さんで取り扱って頂いております)

P.S.こんな事を、やっているから、本HPの更新が遅れている訳です。
おおい!ヴォウトやコーンブルースが待ってるぞお!

記:2013.10.14


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三分 小説 備忘録

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