3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

ウォーゲーム (1992)ちくま文庫
ウォーゲーム


ウォーゲーム War Game / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Galaxy(1959.12) 原稿到着1958 短編 第85作

輸入基準局で許可官ワイズマンは、昨日のボイスメモを聞いていた。
それはニューヨークのデパートの販売担当からだった。
「ガニメデ星玩具の輸入許可申請はどうなったでしょうか?
   もう、秋の仕入れ計画の時期です。あれは、来期の目玉商品なんですよ。早くお願いします」

最近、ガニメデ星の玩具が多い。木星の衛星群は、経済だけでなく軍事的な侵攻を進めていると、 言われている。彼らからの輸入品には注意が必要だ。
超小型の爆薬、毒性の塗料、バクテリア付着...そう言った脅威がないとは言えない。
今まで一件も見つかった事はないが、ガニメデ人は優秀なのだから。


ワイズマンは試験場に行った。そこで、大量の玩具を抱えた審査官ピナリオに会った。
「いらっしゃい。防護服を着て下さい。これから実験を始めますから」

「城砦突撃隊人形の件なんだが」
「ああ、ガニメデ製ですね。念入りに調べてますよ」

試験室には、子供型ロボットが玩具をいじっていた。
「ロボットには、子供が玩具で遊ぶ一連の行動が組み込まれています」

子供ロボットの前には、城壁と、12体の突撃隊人形があった。子供ロボットが命令を出すと、
突撃隊人形は一列に整列した。人形の身長は約20cm。

子供ロボットが命令を出すと、人形達はまた、配置に着いた。

城から砲弾が発射された。
人形はそれをかいくぐり、じわじわと包囲を狭めて行った。
「『社会にある苦難を乗り越える努力と忍耐力を養う』、と説明書きにあります」

「攻撃パターンはどのくらいあるのだね」
「わかりません。もう八日間行ない、全てを記録していますが、一度も同じパターンは出てきません」
「では、突然、おかしな行動に出る可能性もあるな」
「はい。それに彼らはどんな地形にも対応できます。障害物があっても、それを乗り越えられる」

「この戦いでの戦勝率は?」
「9割と言ったところでしょうか。ただ勝率は、無線でコントロールされています。
   ランダムな放電を発する部分があり、それの受信部があります。それが確率を変化させています」
「では、ある種の確率で人間相手に戦いを挑むと言った事も?」
「ありえます。この玩具は5年分のエネルギーを蓄えています。
   もし、それが一気に解放されたら、大きな力を持ちます」

その時、突然、城壁が開いた。
「初めて見るパターンです!」
二人は注目した。しかし、人形達はなかなか行動を起そうとしなかった。


二日後、許可官ワイズマンは試験場を訪れた。
しかし審査官のピナリオは奇妙な事を言い出した。12体あった人形の内、1体が消えたと言うのだ。

「そんな馬鹿な事があるはずない。どこかに隠れているか、逃げ出したのだろう。
   我々には『質量保存の法則』があるじゃないか」
「その通りです。実は11名とこの城壁の重さを量って見ました。結果は、元と同じです。
   つまり、1名はこの城壁の一部となったのです」
「最後の試験ビデオを再生してみろ」

戦いが始まった。人形は12体いる。
兵士は攻撃し、前進する。城は砲撃し、兵士を後ろへ戻す。
一人の兵士が城壁に近づこうとする。そこにミサイルが!爆音と立ち上がる噴煙。その中に!

「ビデオを止めろ!ゆっくり再生するんだ!」
噴煙の中で、その兵士はライフルの先端をドライバーにして、自分の体を分解し始めた。
そして、それを城壁の穴に埋め込んで行く。最後に残った片腕とライフルは、
虫の様に這い、城壁の穴に消えた。そして、その穴も消えた。

「何だ?これは?いったい、何の意味がある?」
「子供が兵隊を無くした事にされますね。親は子供を叱るでしょう」
「そして...何が起こるんだ?...実験は、このまま続けろ!
   城は、兵隊の体を使って、何をすると言うんだ?」


週の終りには、更に四体の人形が消えていた。
しかし、それだけだ。他には何もない...
今日も、人形達は城の攻防戦を戦っている。


ワイズマンは、別の審査物に眼をやった。
古代アメリカのカウボーイ服だ。くだらん。しかし、ガニメデ製だ。

「着てみて下さい。まずまずの品です」
「本当かい?大丈夫かな?」
ピナリオが言うので、ワイズマンはカウボーイ服を着てみた。
「考えるんです。何かを。何処でも良い、何処かを」

ワイズマンの目の前に牧場が広がった。空には鷹が飛んでいる。
鷹は獲物を見つけたのか、急降下していた。

牧場を歩くと、羊の群れがいた。しゃがむと、ヒキガエルが。
そのヒキガエルの頭に触れようとすると。

「いかがですか?」
「ああ、最高だ。なあ、聞きたいんだが、カエルの雄雌はどうやって見極めるんだい?」
「はああ?」
「今、ここにヒキガエルがいるのさ」
「そうですか。参考に伺いたいのですが。あなたはお幾つですか?」
「十歳と四ヶ月だよ」
「ここは、どこでしょう?」
「ミスターゲイロードの牧場に決まってるじゃないか。
   ここはペタルマだよ。週末は、パパといつも来るんだ」
「では、私は誰でしょう?」
「おじさんは、ブタンガスの会社の配達人だろ?」
「おじさんの会社の名前は判るかな?」
「トラックに書いてあるよ。『ピナリオ ブタン配送会社』ってね。おじさんがピナリオさんかな?
   じゃあね、バイバイ。これからハイキングに行くんだ!」
「戻っておいで!走っちゃだめだ!」
ワイズマンは走った。しかし、突然、何かが正面からぶつかった。前に行けない!
彼はおびえを感じた。
「あの丘には行けないんだ。じっとしてないと、またぶつかるよ」
ピナリオはワイズマンからカウボーイ服を脱がせた。

「これは、不健全な玩具です。着用者の逃避願望を増長させている様です。危険です。それから、
   そこにあるボードゲームですが、昔からあるモノポリーに似ています。やって見ますか?」

彼らは、そのゲームを始めた。
「シンドロームと言います。始めは全員、同じ金額を持ちます。
ゲームの中で経済変動が起きます。各自の資産が変わり、順位ができる訳です」
しかしワイズマンには、気がかりな事があった。あの城砦突撃隊ゲームの事だ。何かあるに違いない。

「その冥王星のウラン株を譲って頂けませんか?」
「ああ、条件さえ良ければね...まてよ。あの城が原子炉だと言う可能性はないか?」
「原子炉ですか。兵隊の部品が徐々に組み合わさり、原子炉は完成していく...
   しかし、あの中に核反応を起す様な物質はありません。ありえません」

その時、連絡が来た。また1体の人形が城に飲み込まれた。残るは6体だ。
「よし、こっちのゲームは早く片付けてしまおう」
ゲームは清算された。サイコロが振られ、ワイズマンの手持資産はどんどん増えて行った。

「このゲームは大人の社会へ入る準備みたいなもんだな」
「あの城ですが、受信装置になっているのではないのでしょうか?配線が完了し受信装置が起動すると、
   ガニメデから大きなエネルギーが送られてくるのでは?」

もう1体が消えた、との報告があった。事態は進んでいる。何かが起き様としている!

清算が終り、ワイズマンはピナリオの全財産を手中にした。
「よし!早速、爆破物の専門家を呼べ!」


爆破物の専門家は、バッテリーから出ている動力線のカットを進めた。
最後のフレーズに入った所でカットするのだ。既に、残りは3体になっていた。

15分後、もう1体が城壁へ消えた。


そして、最後の1体が消えていくのを、皆が見つめていた。
「今だ!切れ!」
爆破物の専門家はペンチで線を切ろうとした。
しかしペンチは城壁にも触れ、スパークを起し、彼はペンチを取り落とした。

城壁は穴を閉じた。完成してしまったのだ。
ワイズマン達は失敗した。

その時、彼らの心の中に声が広がった。
(おめでとう。君の勇気が成功をもたらした)
(君が成功する確率は皆無に近かった。しかし君は成し遂げた)
(けっして、諦めてはいけない。恐れる事はないのだ)

「...諦めんさ」
ワイズマンは思わず呟いた。

「終わった」
「これは、どう言うゲームなのでしょうか?」
「こう言うゲームさ。忍耐力とそれを克服した自信を与えてくれる」
「では、問題はないですね。輸入許可を与えましょう」
「いや、待て。ただ、それだけの割には、余りに手がこみ過ぎている。やはり輸入許可は与えない事にしよう」
「では、あの『カウボーイ服』と、『城壁攻撃隊』は禁止で、ボードゲームの『シンドローム』はOKですね」
「ああ、そうだ。このゲームには何かがある、何かを我々の眼から隠れた所で、何かをしようとしているのだ。
   このゲームは危険だ。表面上の事は、『偽の手掛かり』だ。絶対に、何かが裏に隠されているぞ!」


ある日の夕方、子供洋品店の店長ジョーは、大きな包みを持って、家の中へ入った。中では彼の子供、
ボビーとローラが待っていた。
ようやく、輸入申請の許可が下りたのだ。しかし、たったの1件。その新作を子供達のプレゼントにした。

「目玉の『城壁突撃隊』が輸入禁止だなんて、許可局の奴らは何を考えているんだ?」
「でも、発売前のものを持って来て良いの?」
「ひとつくらい構わんさ。許可局の怠慢のせいで、奴らの倉庫は審査前玩具の山だ」

「ねえ。パパ。一緒にゲームをやらない。人数が多い方が面白いんだってさ」
「よし。気晴らしだ!」


ゲームでジョーは好調だった。
盤上の財産は、どんどんジョ−のものになって行く。彼は容赦ないのだ。たとえ相手が子供でも。

「わっはっは。悪いな。これでパパの勝ちだ。全財産は、パパのものになった!」
「勝ちじゃないわ」
「そうだよ。パパの負けだ」
「どうして?これは全部、パパの財産だよ」
「違うよ。最後に一番多く財産を持っている人の負けなんだよ。始めはみんな同じだけ財産を持っている。
   それをプレイ中、どんどん捨てて行くんだ。全部無くなった者の勝ちさ」
「そんな馬鹿なゲームがあるか!そんなゲームのどこが面白いんだ。これを造った異星人は、モノポリーゲームを
   理解していないんだ。それで真似をした。だから、こんな馬鹿げたものが出来る!」

ジョーは憤慨した。
しかし、子供達は、今度は、二人でゲームを始めていた。二人は、大喜びで、株券や資産を売り払っていた。


..............

なつかしいなあ、ペタルマ!...って言っても、暮らした事が、ある訳じゃありません。昔、ノーマングリーンバーグって
言う人の同タイトルのアルバムがあって、良く聞いていたのです。
ま、それは、それとして、
モノポリーって言うのは、財産を増やす事が良いと言う。習慣を培うものだったのですか。今まで気がつきませんでした。
なんか、アメリカ的と言うか、ユダヤ的なゲームだったんですね(ちょっと人種差別が入って□)

経済の話で言うと、最近はちょっと下火になりましたが、「We are 99%」とか言うスローガンがあります。
この主張は、ちょっと聞くと『もっともそう』ですが、考えて見ると全ての事の、コアな当事者(コアな受益者)は1%以下でしょう。
コアな1%が他の99%を支配する(もしくは影響を与える)と言うのは、残念ながら、ありふれた構図なのかもしれません。

もちろんディックのファンと言うのも、全人口の中の(おそらく、最もファン比率が多いと思われる日本でさえも)1%もいないでしょう。

だから、問題は、1対99ではなく、常勤労働者の下半分が300万円以下/年の国で、30億/年(1000倍)貰う社長がゴロゴロ
している事だと、思います。ただし、この事を伝えた、TVマスコミが、次のスポーツ コーナーで、イチロー万歳みたいに、話題を、
切り替えれるのは、スゴイと言うか、呆れますけど...

記:2012.07.24


  3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




・ホーム
・ディック1トップ
・インフォメーション
・掲示板
・お問い合わせ