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ウォーゲーム (1992)ちくま文庫
ウォーゲーム


探検隊はおれたちだ Explores We / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Fantasy and Science Fiction(1959.1) 原稿到着1958 短編 第84作

「地球だ!」
「戻って来たぞ!」
「二度と見られないと思っていた」
「あれが!アメリカだ!」
「違うよ。あれはタイだ。逆さまに見てるんだ」

「戻ったら何をする?」
「コニーアイランドに行くんだ。浜辺でゆっくり過ごす」
「彼女達は、どんな小さな水着を着てるんだろ」
「何も着てないかもしれないぜ」

「子供達に会える。あと一時間で」


宇宙船は地面にぶつかった。

激しい衝撃が船内を襲った。
パークハーストが、よろよろと立ち上がった。
「みんな、大丈夫か?」
「...ああ、やっと着いたな」
バートンが声を出した。ヴェッキとストーンも起き上がった。

「全員、無事だな?俺達は帰って来たんだ。ここは地球だ!」
「積荷の標本は大丈夫か?」
「そんなものは後回しだ。外に出るぞ!」

「ここはどこだ?」
6人の男達は丘を歩いた。
「サンフランシスコの南だ。すぐに町に出る」
「サンフランシスコと言えば、びっくり屋敷がある」
町にはすぐ出た。

「こんなに町に近いのに、俺達の着地は気づかれなかったんだな」
「しかし、英雄達の御帰還だ。すぐに大騒ぎになるさ。パレードが始まるぞ」

「おい、あそこに子供がいるぞ。みんなで、手を振ろう!『探検隊はおれたちだ!』」
子供達は、じっと彼らを見守っていた。
「何だ。あの子達は俺達の事を知らないのかな。火星探検隊の事を」
「ああ、出発はもう2年前だ。知らんのも無理はない」
「やあ!探検隊はおれたちだ!」

子供達は、いきなり逃げ出した。
「どうしたんだ?」
「お前の、その髭を見れば、誰でも逃げ出すさ」
「それにこの格好。2年間、同じ格好で服もよれよれ、まるで俺達は浮浪者だよ」


線路を補修していた鉄道工夫がいた。
「やあ!探検隊はおれたちだ!」
工夫達はシャベルを放り出し、何か叫びながら逃げて行った。

6人はぼんやりと、それを見つめた。
「おかしいぞ?いったい何が起きたんだ。俺達がいない2年間に!」

次に出会ったのはガソリンスタンド店員。6人を見ると、ホースを投げ出して、逃げて行った。
車に乗っていた客も、飛び出て走って逃げた。

「いったい、どうしたんだ?何が起きているんだ?」

彼らはビル街に着いた。ここなら役所もある。
「俺達は監視されていますよ」
人通りの消えた道路を6人だけが、歩く。
左右のビルからは、彼らを覗き見る人々の気配がした。
「何故、俺達を避けるんだ。まるで、俺達が何か危険なものを抱えてるみたいだ!」


前から、車が1台、やって来た。車は彼らの前方で止まると、男が出てきた。
「私はFBI局員、スキャランだ。君達は何名だ?」
「おれたち探検隊は6人だ」
「じゃあ、全員いるんだな。よし、配置に着け!」
スキャランは部下に手を振った。6人の前に、彼の部下が躍り出た。全員、火炎銃を構えている。

「いったい、どうしたと言うんだ?説明してくれ!」
「わかったぞ!君達は俺達を共産主義者と間違えているんだ。我々は火星探検隊だ。
   一昨年の10月に出発した。俺はレオン!」
「俺達は探検隊だ!」
「帰って来たんだ!」

「なるほど。確かに、もっともらしい話だ。しかし、我々の調査では、火星探検隊は火星に墜落し、
   爆発した。生存者はゼロだ。我々は火星にロボットチームを送り、遺体を回収した。
   6人全員をだよ。貴様ら何者だ?」

FBI局員は発砲した。火炎銃が浴びせられた。
6人の男達は、炎に包まれた。のた打ち回る、人間の姿を見続けるのは、
あまり気持ちの良いものではなかった。

スキャランの部下のウィルクスは、その場に立ち尽くしていた。彼はこの作戦に
始めて参加したのだ。今、見た光景が信じられず、震えていた。

スキャランは、6人の炭化した残りを確認していた。
「5人分しかないぞ。調べろ!」

ウィルクスは車に戻った。吐き気がしてきた。
「やった!宇宙スパイをやっつけたぞ!」
街路にははしゃぐ子供がいた。


スキャランがやって来た。
「おい、大丈夫か?」
「ええ、これは、一体、何なのですか?もう22回目でしょ?」
「21回目だ」
「人間を焼き殺した...みたいです」
「ニ、三ヶ月置きに、彼らはやって来る。同じ名前、同じ顔、同じ人物。反応も同じだ。
   もう21回目。しかし、慣れる事はないだろう」
「誰がやっているんです?彼らは自分達の事を人間だと思っている様でした」
「火星に着いた彼らは、そこで、何者かに模倣するに充分なデータを与えたんだ。やつらは、
   人間はみんな、レオン、メリウェザー、パークハースト、ストーンと言う名前だと思っているんだ。
   我々が個体である事が判らない。送ってくる奴らは、交渉が不能なほど、異質な生物なんだ」

「やはり、5人しかいません。それに一人、逃走するのが目撃されています」
「すぐに探せ。ウィルクス!君は、ここに残って、見張っていろ」

ウィルクスは思った。
擬態だ。人間そっくりに見えるが、全く異質の生物。我々の中に溶け込むスパイ。
奴が、もしここに来たら...ウィルクスは集まって来た群衆に眼をやった。
そして、スパイを見つけた。彼は三ヶ月間、訓練を受けていたのだ。

そいつは奇妙な格好をしていた。そして、靴を履いていない。シャツのボタンは正しく、掛けられて
   いなかった。靴や服と言うものが判っていないのだ。宇宙スパイだ!

男が近づいて来た。ウィルクスは覚悟を決めた。やるしかない!
そして、男に発砲した。男は、声も出さず。倒れた。
終わった!とウィルクスは思った。しかし...これは終わらない事に気がついた。


7月下旬の暑い季節だった。
宇宙船は谷間に着陸した。

パークハーストが、よろよろと立ち上がった。
「みんな、大丈夫か?」
「...ああ、やっと着いたな」
バートンが声を出した。ヴェッキとストーンも起き上がった。

「全員、無事だな?俺達は帰って来たんだ。ここは地球だ!」
「積荷の標本は大丈夫か?」
「そんなものは後回しだ。外に出るぞ!」

「俺達は戻ったんだ!やっと地球に帰って来た!」


..............

1958年の作品ですので、まだ海への着水と言う、"常識"はなかった様ですね、面白いものです。
しかし、この作品が、ディックの最高傑作だという人もいるのではないでしょうか。私も納得します。
この作品を始めて読んだのは、ディックがこの作品を書いてから、40年以上後ですが、何故、この様な
驚愕的な傑作が、有名ではないのか?の方に驚いたものです。オーヘンリーや、サキなどの落とし噺は、
子供向けのものであり、こちらは大人のためのものと言う感じがします。

この話だけ読むと、なぜ、こんな異常な事を思いつくのだ?と驚嘆しますが、ディックの作品を当って行くと、
この作品は、ある種、"必然"によって書かれている事にも気がつきます。
そして、これがあって、『フヌールとの戦い(第102作)』がある訳ですね。紹介が後先になりましたが。

P.S.2012.07.08
本日、予備知識なく「沈黙の惑星」という"B級"SF映画を見ました。
ま、安っぽく、つまらない映画とも言えますが、ディックファンの方は必見の映画とも言えます。
もしかすると、いままで映画になった中で、最もディック的な映画と言えるかもしれません(本気です!)。

記:2012.06.20


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三分 小説 備忘録

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