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シビュラの目(2000)早川文庫
シビュラの目


ラグランドパークをどうする What'll we do with Ragland Park? / フィリップKディック 訳:大森望のあらすじ
初出 Amazing(1963.11) 原稿到着1963 短編 第100作

マスコミを牛耳る大物セバスチャンはテレビを見て思った。
ジムをうちのネットワークに取り込めれば...あの、頭がからっぽで、それでいて抜け目ないフィッシャー大統領の
支配から逃れられるのに!
ジムは今、投獄されている。彼のスポンサーは間抜けだ。ジムを投獄から救えなかった。でも私なら出来る。そして
フィッシャー大統領と対決させて、自由を勝ち取るのだ!

(管理者注:と言う訳で、この本の前作、『待機員』のパラレルワールドです。当然、あっちを先に読むべきでしょう)

「よし、ジムの釈放キャンペーンを始めよう。彼は不当に自由を奪われた悲劇の主人公だ!」
彼の配下のテレビネットワークCULTUREの、担当弁護士に連絡した。
「しかしセバスチャン。ジムは戦時下における煽動罪だ重罪だよ」
「どこが戦時下なんだ?」
「エイリアンの艦船を知らない訳ではあるまい?」
「あれはフィッシャーのでっち上げだ。我々は、まだたいした被害を受けている訳ではない。
   エイリアンは敵ではない」
こいつでは話にならないと、セバスチャンは東京の精神科医ヤスミに電話した。

「...なるほど、ではクーデターを起こしてフィッシャーを倒して見るかね」
「奴の裏には全軍がついている」
「では、フィッシャーの影響のないカリストに移ってはどうか?」
こいつもダメだ。
「ああ、ヤスミ博士。これから面接があるんで、失礼するよ。ラグランドパークと言う
   最近話題のフォークシンガーと合うんだ」
「ラグズパークか!彼は他人と違うな。見たところ精神疾患の可能性があるし、
   もしかするとテレパスかも知れない」


その前にセバスチャンはジムの収監されているニューヨーク刑務所に面会に行った。
「ジム、君の力が必要なんだ。君の解放に全力を注ぐ。釈放の後は、うちの局のニュースクラウンに!」
「早くしてくれ。あのユニセファロンDでさえ、活動停止の一週間後に"事故"にあったんだ。時期に俺にも!」


ラグズパークは口髭の伸びた、まるで聖者の様な姿だった。
持っているのはギターとバンジョー。

「一曲やりましょうか。ものすごく悲しい唄なんでさあ」
「いや曲は全て聞かせてもらった。もう充分だ」
セバスチャンは不思議だった。ラグズパーク確かに唄は下手ではないが、どうと言う事はないバラッドの歌い手。
それに、この古臭いスタイルに野暮な格好。およそ人気者とは...

「じゃあ、作ったばかりの曲を..」
ラグズはトム マクフェイルと言う男がバケツで川から水を汲み、火の付いた我が家を消火する唄だった。
「その唄は、初めて聴くな」
「いえ、一度、唄ったら、その番組に抗議が来まして、アイダホのトム マクフェイルと言う人が、何故、
   俺の不運を唄にする!と言われまして、聞いて見ると、全く同じ様子の家事が、彼の家に起こったそうです」
「ふ〜ん。そんな偶然は良くあるのかね?」
「ええ、先週作った歌なんですが、マーシャと言う女が、女房持ちのジャックと浮気するが、神のバチが当り、
   とあるモーテルで心臓発作で死ぬ...って奴なんですが、今日の新聞見ると、登場人物名が全く同じの、
   モーテルでの心臓発作の死亡記事が...この唄はお蔵入りにしようか迷っています」

なるほど、こいつは変わっている。未来を予知できるのか。それとも、唄った未来を作れるのか?
どちらにしろ、実に貴重な能力だ。

「バラッドを作るのにどのくらいかかる?」
「お題があれば、即座に作りますよ」
「じゃあ、フィッシャー大統領は間抜けで、不正にジムを捕まえた。セバスチャンはフィッシャーに
   大打撃を与えたって唄を作れるか?」
「お易い御用です」
とフィッシャーは、即席のバラッドを唄った。
「よし!早速、契約だ!」


国民のジム釈放運動は、どんどん拡がって行った。大統領フィッシャーは部下に尋ねた。
「セバスチャンが糸を引いてるのは判っている。何か奴に付け入る隙はないか?」
「奴の4番目の妻は、今、生活費も貰えず、放り出されています」
「よし、彼女を呼べ!」


魅惑的な女性が呼ばれてきた。
「あんたこそ、本物のセバスチャンの夫人だよ。でも、奴がそれに気づくまで待っているんじゃダメだ。
   行動を起こす必要がある...」

ヤスミ博士がラグズパークを幾ら調べても、彼は予知能力者でも読心能力者でもなかった。
「ラグズ、唄を作ってくれないか。思いついた未来の唄じゃない。これから言う通りの未来の唄を作ってくれ。
   ジムは釈放されたって唄だ。あと、もうひとつ、そこにある花瓶が、空中をふわふわ浮いたって奴も...
   いや、冗談じゃないよ。君の能力を確認する実験さ」

「セバスチャン。手製爆弾を持って、あなたに面会しようとちた女性がいましたので、射殺しました。
   残念ながら貴方の奥様の一人です。ご確認を...」


「大統領!自爆は失敗しました」
「そうか、そうか。まあいい、俺は、もっと素晴らしいアイデアを思いついた。ジムを釈放するんだ。そうすれば、奴は俺に感謝する」
「はああ???どこからそんな突拍子も無いアイデアを思いついたんですか?」
「突然、湧いてきたのさ」


ジムは釈放された。その晩、フィッシャー大統領はテレビでラグズパークの唄う政治バラッドを聞いた。誰も知らないはずの、
ジムの釈放の有様を、正確に唄っていた。こいつはテレパスでなければ、唄で現実を変える
能力、大した"才能"だ。俺にだって、多少の才能はあるはずだが...こいつのは特別だ!


セバスチャンは尋ねた。
「ラグズバークは自分の力に気づいているのか?」
「まだ気づいていないかも知れませんが、早晩気づくでしょう」

「我々はフィッシャーと言う権力者から力を奪った。しかし、新たな、それも絶対的な力を世に出してしまったのだ」
「もしも、ラグズパークが俺達全員を宇宙の果てに飛ばすと言う唄を作ったら...すぐ手を打て!」


ラグズパークはジムが釈放された事を知った。ジムに関しては、よし、もうこれでお終いだ。
新たなテーマに取り組まなくては...社会の破滅はどうだろう?
彗星が地球に衝突する!
エイリアンが攻めてきて、人類は皆殺しにされる!

いやダメだ。俺のテーマはもっと政治的でないと...例えば...悲劇のヒーローの唄...
♪ラグズパークは権力への脅威
♪奴らはパークに狙いをつける
♪卑劣な奴らが、ラグズを狙撃
♪自由は沈黙した。しかし死んじゃいない

その唄は最後まで唄われる事はなかった。

「成功しました」
フィッシャー大統領の出した狙撃命令は成功した。奇跡の様であった。
フィッシャーは思った。これが俺の"能力"か?ラグズパークに自分が暗殺される様な唄を作らせる事、それはまんまと
成功した。それならば、次はジムを刑務所へ逆戻りさせよう。いや、あの抜け目ないセバスチャンの事、とっくにジムを
俺の影響を受けない辺境の星へ送っているのだろう。
奴との戦いは、長くなりそうだ。

..............

この話と前の話ですが、それぞれでは、どうと言う事はないのですが、合わせて二つ読むと、全然意味が違って来ます。
判りやすいメタ小説と言うのでしょうか?
つまり世界の支配者は、ユニセファロンDでも、フィッシャーでも、ジムでも、更にセバスチャンでもない。
それはディックですね。
二つ続けて読むと、物語に対する視点が、どうしても一歩引かざるを得なくなります。
しかし、読んでいると、また近視眼的に物語りに入って、また、気がついて引く...
そんな感じを味わえます。で、二度ある事は???


記:2012.03.25


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