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マイノリティ レポート (1999)早川文庫
マイノリティ レポート


安定社会 Stability / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 生前未発表(1987 The Collected Stories of P.K.D) 原稿到着1947 短編 第1作

ベントンは翼を広げた。そして羽ばたかせると、屋上から夜空へと舞い上がった。
そこに、レースに誘う様に、飛行物が近づいて来る。
彼は光の都からの上昇気流に乗り、上空へと逃げる。それから眼下の都市の明りへと急降下した。
目的のビルの屋上に着陸すると、誘導灯を目印にエレベータで階下に進む。

降りた部屋には誘導官がいた。
「羽を外して、かけたまえ」
「用件は何ですか?」

「我々の社会に最も大事なことは、君も知っている通り『安定』。しかし、我々は100年間、それを破り続けた。
   そして、ついに我々の進歩は止まった。ここ数年で真の発明と呼べるものは、たったの2件だ。人間の知恵は
   干上がったのだ。そして我々は決断した。社会を『安定化』させると」
「ええ、それで暴動・混乱・経済破綻・餓死・戦争...多くの不幸が起きました」
「しかし、それら全ては...」
「...安定化されました」

「そうだ。よく判かっとる。と言う訳で、君の発明の実用化許可は却下された」
「どう言う事ですか?」
「却下だよ」
「いえ、それじゃなくて、僕が何をしたと?発明の実用化申請?」
「ああ、君の実筆の申請書だ。これだがね」
「僕は発明も申請もしていません!いったい、どんな発明ですか?」

「お前は、何をたくらんでいるんだ?」

そこは巨大なオフィスだった。
ベントンはその地下へ降りて行った。
「申請を却下したいのです。申請物を持ち帰れますか?」
「所有者ならね」
ベントンは身分証明書を差し出した。

「ところでお客さん。その荷物は一体、何ですか?」
ロボットタクシー運転手が 、ベントンに話かけて来た。
「それを、僕は知りたいのさ」


設計図はベントンにはチンプンカンだった。そして模型の方も。できる事は、オンのスイッチを探す事くらいだった。

スイッチを押した。始めは何も起きなかったが。1分程で、急に部屋が変わった。
ベントンは暗いトンネルを、落ちていった。ゆっくりと長い時間落ちていた。そして、どこかに着地した。
到着したそこは、農地だった。広い何エーカーもある小麦畑。ベントンはそこを歩いた。

「現代の地球に、こんな大規模農地がある訳はない。どこの星だ?太陽は?」
しかし太陽には何の変哲もなかった。
そして、丘に登り、向こう側を見下ろし、驚いた。そこには何もなかった。その先は空虚だったのだ。
大地は完全な平面で、はるか彼方まで、何もなかった。
しかし、ベントンは歩いた。歩き続けた。足が痛くなる。そして、ふと何かを見つけ、拾い上げようとした。
『それに、触るな』
声がした。しかし彼が拾い上げた物は、ガラス球だった。

『おまえは安定を、くつがえそうとしている』
「『いかなる物もくつがえす事はできない』...お前らの標語だ」
『邪悪なものに心を操られるな』
「邪悪とは誰だ?」
ベントンはガラス球を胸ポケットに入れた。

『繰り返す。拾った物を置け。そして戻れ』
見上げると太陽の暑さは限界を超えていた。
ベントンは歩き出した。元の地点を目指した。

そこには『タイムマシン』があった。ガラス球が彼に使い方を教えてくれた。
ベントンは元の世界に戻るようにセットした。

その途中、『トマレ!』
突然ガラス球が言った。まだ何かやるべき事があるらしい。


「君がベントンか?」
目の前には誘導官がいた。
手を見ると、発明品を持っていた。

「これを登録したいのですが」
「現物と図面を預かろう」


「これがベントン持って来た装置か?」
「そうです」
「そして、一度目に見た時は、まるで既に一度来た事があるかの様に振る舞い、二度目に来た時には、
   まるで初めて来たかの様に振舞ったのだな...つまり、奴は...これを使ったのだ」
「そうだと、思います...そして、セントラルグラフの示している『変動要素』の上昇!」
「ああ、彼がその原因だ。何か、奴は持っていなかったか?」
「たしかに、胸ポケットに、何かを...」
「そうか。ともかく、これ以上、状況連鎖を続けさせてはいかん...」


『やつらが来るぞ』
ガラス球は教えてくれた。
「どうすれば良い?」
『じっと、していろ。すぐに帰る』
確かに訪問者は、ベルを数度鳴らしたが、やがて帰って行った。

「これから、どうすれば良い?」
『おまえに機械を渡すまで、何年もかかった。全ては上手く行っている。やがて、君は我々を解放してくれる...』
その時、突然、裏口が開いた。
「やあ、ベントンさん。いるんじゃないですか?」
評議員だった。
「そのガラス球のようなものは何です?」
「紙押さえですが...」

「今日、来たのは、君の持っている機械を渡してもらうためだ。しかし、それを強要は出来ない。
   しかし、いずれ手に入れる」
「(なるほど、それで俺は、あの機械を奴らの手の中へ保管したのか?)
   あいにく、僕は、その機械を持っていません。家を調べても結構ですよ」

 彼らは、部屋の隅々を調べた。壁の中さえも...しかし、機械は見つからなかった。

「...安定とはジャイロスコープのようなものだ。コースは滅多に変わらない。しかし、一度変わり
   始めると、今度は元に戻すのが難しくなる。我々は帰る。君には『自殺』を選ぶか、『駆除車』を待つかの
   自由が与えられた。逃げたら『即時抹殺』だ。安定は何よりも、大事な事だからな」

ベントンはガラス球を机の上に置いた。評議員達は、それを吸い込まれる様に見つめた。

「面白いでしょ?」
「実に精密だ!どこかの都市の模型かね?」
「伝説があります。その都市は邪悪でした。あまりにも邪悪なので、その都市は縮小されて、ガラスに封印されました」
「...これは、その都市かもしれんな...では帰ろう、まだ他の仕事がある」

「待て!何かおかしいと思わんか?『時間を渡る旅』、『ガラスの中の都市』?」
「そ、そうか?我々の夢は、やがて醒める...そうすると!」

評議員が球体を触った。球体は唸りを上げ始めた。
「こいつは、ガラスの中から逃げ出そうとしている!」
ベントンはその評議員に飛びつき、落としたガラス球を踏み潰した。

都市は拡がった。

歓喜が膨れ上がる。ずんぐりとした金属生物が振動している。鋼鉄の高炉、車輪、ギヤ、バルブ、轟音、汗をかく労働者。


太陽が登り、ベントンは目覚めた。 睡眠キューブから、彼は立ち上がった。仲間の列に入った。行進は続く。単調なメロディが口をついた。
次の休息日はいつか?ベントンは指を折って数えた。あと、3週間だ。もうすぐ!
ところで、この行列は、何の列だ?もしかすると、ボーナスを受け取る列かもしれない!
機械生物たちの気分が良ければ、良いのだが..だって、俺はあんなにも、機械生物に尽くして来たんだから。

..............

冒頭の、いきなりの浮遊には、"ちょっとした隠し事"(PKD博覧会)の光速艇のイメージにつながります。

しかし、その後の発明→ワープ→の感じは、まるでヴァンヴォウトですね。先の展開が読めない。ヴォウトが
このスタイルを"発明"してから、半世紀以上が経っていますが、未だに新鮮ですね。それとも、俺が古いのかあ!
裏口からガラス球破壊→夢からの覚醒も一騎ですね。訳の判らなさも、ヴォウトゆずり!

ともかく、『流れよ我が涙』とか『虚空の目』とか、あの手の作品が、ヴァリスやハイキャッスル系の作品と違う所は、
こう言った、ページを、次々とめくらせる、謎の連鎖だと思うのですが、この作品では、その連鎖があります。
また、妄想としか思えないガラス球は、幾つかの超能力ものや、黒い箱を思わせます。
...と、まあ、ディック書いてきた事の初期のイメージが判るという作品だと思います。
そう言う意味で☆


記:2012.03.02


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三分 小説 備忘録

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