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マイノリティ レポート (1999)早川文庫
マイノリティ レポート


ジェイムズPクロウ James P.Crow / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Planet Stories(1954.5) 原稿到着1953 短編 第45作

「なんだ!お前なんか人間のくせに!」
Z型ロボットはドニーにそう言った。

ドニーは返事が出来なかった。
「人間の友達なんていらないや。第一お前達臭いぞ!」

ドニーはとぼとぼと家へ帰った。僕は人間だ。それは仕方ない。
でも、もしも僕が死んでしまったら、あいつだって、少しは悲しがるだろう。
僕の体は土に埋められ、脳みそを蛆虫に食われてしまうだろうけど...

「ドニーはやつらに、いじめられたらしい」
「それで夕食を食べなかったのね」

「まったく、いまいましい奴らだ。しかし、あいつらなしでは社会は何ともならない。しかし社会を動かしているのは
   あいつらだ。俺だってロボットの召使いをしている。楽で給料も高い。それはありがたいが、でもトニーはまだ子供だ。
   子供までいじめられて良いって事はない!」

「なあトニー。テレビをみないか?」
人間の数少ない表舞台の一つがコメディ番組。この面では、まだ人間は優秀だ。あとは、踊り、歌、小説、エンター
   テインメントの舞台では、まだまだ人間が優位だ。あとは、庭師、店員、建設作業員、便利屋...それ以外は、
   ロボットの方が適している。例えば、大都市の交通管制官、都市計画者、エネルギー管理官など...

「ねえ、パパ、『テスト』の事なんだけど?」
「ああ、お前もそろそろ『テスト』の勉強を始めないとな」

「ねえ、にんげんは『テスト』に、どのくらい受かっているの」
「『テスト』は、にんげんには、なかなか難しいんだ。ほんの少ししかいない。でも『テスト』は公平だ。受かれば誰
   でも、上にあがれる。300年前の事さ。それまで社会は反動的だった。にんげんとロボットが同じ『テスト』を受ける
   事が出来なかったんだ。でも今は違う。でも...ようするに、俺達にんげんは、あんまり頭が良くないのさ」
「でも、ドニー、そんなに酷い事ばかりじゃないのよ。うちだって、幸せな暮らしをしているでしょ。
   パパがロボット召使いをしているおかげなの」

「でも、そのうち、にんげんも『テスト』にパスするのかなあ」
「勿論、『テスト』なしでも参政権を認めるべきだと言う主張もある。しかし、そうしたものは、全部にんげん側からの
   もので、参政権を持っていない者の主張だ」

「でも、ひとりだけ、いるのよ。テストにパスして、どんどん偉くなっているヒトが。名前は『ジェイムスPクロウ』」
「変な名前だな。よくある伝説だろ?」
「いえ、実在よ。今は二級。彼はもうすぐ、最高評議員になるらしいわ」


地球の支配者はロボット。これは、どの歴史の教科書にも書いてある。ヒトは『第11ミリバール戦争』の中で兵器として
発明された。あの戦争では、ありとあらゆる兵器が発明されて使われた。ヒトもそのひとつ。その戦争で、世界の全ては
失われた。そして、社会は、元の形に復興された。ロボットの世界が、また戻ったのだ。


「ジェイムズPクロウ。彼は何者なんだ?」
「元は『修理屋』さ機械修理が専門。ただ最初の『テスト』に合格したんだ。そして、俺達と肩を並べた。勿論、社会は平等だ。
   例え、彼が臭くてもね。そして、我々の職場に入って来た。それからの彼は、全ての『テスト』にパスしている。今は二級だ」
「信じられん?ヒトが二級?何故、有名ではない?」
「彼は、他の人間と接触を持たない」
「なんだ。ロボットきどりの嫌な野郎だ!」
「ちがう。もっと大きな計画を持っているんだ...彼が一級になった時に、それは判る...」


ジェイムスPクロウは言った。
「殖民総監を呼んでくれ」

ジェイムスPクロウ。本名は違が、彼は太古の良くある黒人の名前、ジム クロウに倣って、この名前を使っている。
アイルランド系のドイツ人。小柄で痩せ型。垂れ下がった長い髪。神経質。コーヒーを常に飲み、煙草をふかす...
人間らしいもの。

「私に、何か御用ですか?」 やって来た殖民総監は不服そうだった。人間に呼ばれたのだ。それも自分より"上級"の...
高慢なよそよそしさ。押さえた感情。しかし、表情は隠せない。

「例の報告書がまだ届いていない」
「しかし、あの手の報告書には時間がかかるのが普通です」
「期限は二週間以内だ」
「では、二週間の内に...」

クロウはこうしたサボタージュと戦って来た。しかし、中には"仲間"もいる。
「やあ、クロウ。時間があるかい?」
車輪の付いた旧式ロボットが入って来た。
「L87Tじゃないか!もちろん、君ならいつでも大歓迎さ」

「しかし、凄いな。君を見ていると、人間の隠された才能に気が付くよ。二級の試験でも、君の解答は完璧だった。
   もう一級になるのも時間の問題だ」
「いや、人間は、君たちに劣るばかりじゃない。自動車と比べてさえ、劣る能力はたくさんある。これは事実だ」
「そりゃ、そうだが...」
「ロボットは計算が得意だ。人間が思い付かないほど沢山の事を同時に考え、うまく調整する。社会はそれなしでは
   動かない。しかし、唄を歌う。踊りを踊る。美味い料理を作る、そんな事に関しては、人間もまだまだ捨てた
   もんじゃない。でもロボットより劣るのは、紛れも無い事実だ」
「君の考えには納得しかねるな。人間を救いたいんじゃないのか?君は本当に人間の味方なのか?」


地球保安部ビルからジェイムスPクロウは出た。腕には、腕章。二級だ。彼は、人間の居住地へ帰る。
ロボット達の居住地と異なり、人間の居住地は不衛生で、不潔、獣の臭いもする。

自分の部屋の中で、ジェイムスPクロウは"ウィンドウ"を開けた。キーを調整し、"時間"と"場所"を合わせた。
"ウィンドウ"は、テストを採点しているロボットを映した。彼は、映像を止め、拡大した。テスト問題と回答が見えた。

ジェイムスPクロウはこの作業をもう10年繰り返していた。
そして、今の地位につき、最後の試験、1級のテストまで上り詰めた。

すべて、写し取ると、彼はいつもの"時代"に時間を合わせた。まだロボットが登場する前の、人間が人間だけで
やっていた時代。しかし、その文明は、見る間に消えていく。放射能雲の下へと...

悲しくなったジェイムスPクロウは、時代を少し戻す。お気に入りの瞬間へ。
ロボットが始めて生まれた瞬間。戦争の初期だ。その愛嬌のあるロボットは、まだ車輪で移動していた。


「ごめんねパパ。テストはダメだったね」
「ドニー気にするな。テストなんてロボットのためのものだ。俺達とは別の...」

「おおい!エド!すごいニュースだ!ジェイムスPクロウが一級になった!奴は何かをやってくれるぞ!」


「君が新任の評議員かね?我々と上手くやって行けるかね?」
高位のロボット達が座る評議会室の中。ジェイムスPクロウは口を開いた。
「わたしの知る所では、君たちの中で完全正解をして、この部屋にいる者はいない。私だけだ。それなら、
   規定により、私は君たちの上司と言う事になる」
「...し、しかし...」
ロボット達は、沈黙した。


「さて、本題に入ろう。人間とロボットの将来に関する大きな提案だ。これを実行して貰う。すべてのロボットは、
   火星、金星、ガニメデなど植民惑星へと移住する。この地球は人間だけが住める世界とする」
「何をバカな?地球は元々ロボットの惑星だ。我々にこそ、住む権利がある」

「君たちに見て貰いたい映像がある。歴史の映像だ」
ジェイムスPクロウは、スクリーンに映像を映した。そこに移っていたのは太古のロボットA型を人間が造っている映像。
そしてA型が戦闘に投入され、地下工場で大量生産される。それからB型、ついには現在のD型まで。

「この映像が捏造であるのに疑いはない。どう言うつもりだ」
「捏造ではない、事実だ。これは、現実の姿を映像にしたもの。私はタイムマシンを作ったのだ。
   この設計図通りに造れば、君たちにもその事実が確認出来る」

「タイムマシンだと?そうか、お前は、そのタイムマシンを使って、逆に未来を覗いたんだろ。テストの結果が
   公表された未来を。そしてテストの回答を見て覚え、それからテストに挑戦したのだ。そうだろ」

「その通りだ。それを公表し、私を失脚させるなら、このタイムマシンも一緒に公表する必要がある。これが、
   出来れば、誰もが過去を覗ける。そして、人間達は、気づくのだ。自分達が、地球の本来の主人であった事を。
   そうなると、この地球は、人間対ロボットの内戦の嵐となるぞ」

「我々は人間を力で押さえ込む自信はある!」
「なら、ロボット自信は、どうだろう。タイムマシンを使えるのはロボットも同じだ。君達は確認する。自分達が人間から
   作って貰った、ただの道具であった事を。それでも君達は人間に対し、精神的な優位性を保てるかね?」

「しかし、地球を出て、植民惑星に移住しろなど、受け入れられる訳がない,...」
「こう、言ったらどうだ。『地球はせまい。これ以上の発展の余地は無い。広大な宇宙こそが、我々偉大なロボットには
   相応しい。有能とは言えない人間達には、その権利は与えられない』と」


最高協議会の声明が発表された。
大量の輸送ロケットの、発射準備が急ピッチで整えられていた。

「L87T!君と別れるのは辛いが...」
「ああ、君達、人間の成功を祈っているよ。しかし、この社会をロボットなしに、進めて行く指導者は人間にいるのかね。
   当てはあるのかい?」
ジェイムスPクロウは微笑んだ。彼に答えはなく、机の上の仕事に戻るのだった。

..............

ここでも、感じるのは、ロボット(=人間ならざるもの)の『愚直さ』です。自分の作ったルールに縛られる。そして破滅へ進む。
人間なら、このルールを守るでしょうか?周りはロボット=味方ばかり、単身の彼は、丸腰と言っても良い状態。人間なら...
殺しますよね。ねえ、あなたもそう思うでしょ?...ともかく、ここでロボット達は、クロウを殺さないのです。
そう言えば、以前、紹介した報酬(PayCheckのレスリック)も...

 この愚直さ、つまりピューリタニズムの発露、これがここにも現われていると思うのですね。私は...

記:2012.02.12


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三分 小説 備忘録

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