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パーキーパットの日々 (1991)早川文庫
パーキーパットの日々


パーキーパットの日々 Days of Perky Pat / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Amazing(1963.12) 原稿到着1963 短編 第88作


今日はケア ボーイが来る日だ。ここはピノールの"まぐれ穴"。
「しかし、毎回同じものばかりだ。俺達を何だど思っているんだ?」
「でも、彼らがもし我々を見つけて、月基地から食料を送ってくれていなければ、
   我々はとっくに全滅していた。ありがたいじゃないか」
「だったら、もっと有り難がる物も欲しいもんだ」

サムは地上に出た。戦争後の残留放射能がまだ多い危険な地帯だ。
ケアボーイの空中機は、物資を落とした。パラシュートなしで...と言う事は、ただの食料だ。
つまらん。もっと"役に立つ"もの...

しかし、サムは食料品袋の隅にあったラジオを見つけた。
よし、これを改造すれば、パーキーパットに新しい道具を追加できるのぞ!


「俺はこれで車庫の自動開閉装置を造るんだ。これで、ポイントを稼いでやる!」
しかし、彼の息子、10歳のティモシーは父親の言葉を聞いていなかった、替わりに、ゆっくりと自分のナイフを研いでいた。

「だからね。ヘレン、違うわよ。スーパーのドアには電子アイが付いていて、自動的に開くのよ」
ティモシーはうんざりしていた。
母親は友人とパーキーパット ゲームの戦略考案に必死だ。彼らは一日中やっている、人形相手に。

「だから、パットは自分で品物なんて集めないの。店員にリストを渡して、自分は椅子に座っているのよ。
   それが戦争前の暮らしだったじゃない?」

スーパーって何だ?買い物?その何でも屋とやらは、どこにある。この地下住まいの中の何処に?


戦争が始まった。爆撃が続き、人々は地下へ潜った。爆弾は、地下壕も容赦なく潰した。しかし幾つかは残った。"まぐれ穴"。
ようやく、爆撃は終わったが、滅亡は時間の問題だった。地上は強い放射能で汚染されていて満足に活動できない。

しかし、ある時、空に飛行艇が飛んでいるのに気が付いた。手を振ったら、彼らも気が付いた。それが"ケア ボーイ"。彼らが
どんな奴らかは知らない。でも、我々の食料が切れない様に、せっせと食料を落としてくれる。とびきり不味い。栄養食を。


「ティモシー、準備は出来たか?ネコイヌを捕まえに行こうぜ」
「準備はできてるさ。でもネコイヌはもう飽きた。別の奴を探そう」


ケアボーイが落とした引き取り手のない食料をネコイヌが漁っていた。
時々思う、ケアボーイはどうして、毎日せっせと食料を落としてくれるのか。
大人たちは、何故、あの、つまらないパーキーパット ゲームに明け暮れているのか?

「でもケアボーイって。知っているのかな。大人達が、自分達が落とす食料のせいで、働かずに遊んでいる事を」
「知ったら怒るさ。それに、そもそもあいつら人間じゃないらしいいぜ。もう月基地なんか無いって言ってたのを聞いた。
   ケアボーイは滅び行く人間を助けるために志願した八本脚の火星人らしいぜ」
「わははは、そりゃイイやあ」

その時ウサギが飛び出した。ティモシーのナイフが見事に射止めた。
「よし!これなら高く売れるぞ!」


「もう君とはやっていられない!」
妻のフランは驚いた。夫のノーマンが自分のパーキーパットを摘み上げてしまったからだ。今はパーキーパットの
ゲーム中なのに!
慌てたフランは、対戦相手のモリソン夫妻を残して、ノーマンを部屋から出て、話をした。

「全く君のセンスは疑うね。精神科医の療法が一回20ドル?そんな馬鹿な事があるかい!大失敗だ。
   相手に点を取られる!治療費は一回10ドル!常識だよ」

「でもこれは集団療法じゃないわ!個人で治療を受けているのよ。絶対にもっと高いはずよ。誰か詳しい人に聞かないと」
「ああ、そうだな。すまん。カッとなった。まずは飯にしよう。それから続きだ...」


ノーマンは自分達のパーキーパット セットを見下ろした。大きな邸宅。車も2台、プール。それに商店街も街路樹もある。
これが人間の住まう場所だ!

フランも思った。カシミアのジャケット、ツイードのスーツ、イギリス製の靴。これが女の娘の暮らし。

"三馬鹿大将"!あれは楽しかったわ。子供達はあれ見たさに日曜日は早く起きる。大人はゆっくりと起きて、
ホット シリアルを作る。あれは美味しかった。

テレビ...そうだ。家のパーキーパットには、まだテレビがない。早くノーマンがテレビ模型を作れると良いんだけど、
なかなか納得行くものが出来ない。ゲームの時には、テレビは今、修理に出していると言う事にしている。
しかし、何時までもそれでは、減点だ...

「さて、ゲームを再開しよう!」
「精神科医の治療費は1回20ドルだ。何か異議のある者は?」
「了解だ。じゃあゲームを続けよう...」

ゲームは続いた。ノーマンは回転盤を回した。
11。

「よし、レナードは修理工場からスポーツカーを出すぞ。これで競馬場に行けるぞ!」

「ところで、ノーマン。オークランドの事を聞いたか?」
「何の話だ?」
「あっちの、まぐれ穴の奴らは、パーキーパット人形遊びはしていないんだ?」
「じゃあ一体、何をしてるんだ?」
「コニー コンパニオンと言う人形を使うそうだ。もしかすると、俺達のパーキー パットの生活に加える要素があるかも
   知れない。これは危険を犯しても行く価値があるぜ」

そしてノーマンは市長の家に行った。無線を借りるのだ。そしてオークランドと話が付いた。彼らとゲームをするのだ。
対決場所は両者の中間地点バークリー。そして、勝利の品は...出会ってから決める。互いにとって重要な品に。

ノーマンはゲームに勝つために、ありったけの装備や工夫をつぎ込んだ。例えば火災報知器。こんなものは奴らのセットには
ないだろう。それから、ディスポーザだ。当時の人間だって持っている奴は少なかった。俺はこのゲームに勝つんだ!

そして、ノーマンは彼らとゲーム ルールを決めるために丸二日の旅に出る。
しかし戻ってきたノーマンは不機嫌だった。
「奴らの要求は何だと思う?食料や金、模型セットの部品じゃないんだ。勝ったらパーキー パットを貰う、と来た!」
「まあ、なんて恐ろしい事を!」
「でも勝てば、コニー コンパニオンが手に入る...」
「でも、もし私達のパーキー パットがいなくなったら...」

「いや、その時はまた作るさ。可塑性プラスチックと毛髪のストックはまだある...それに、賭けるのは人形
   そのものだ。もしも、これに勝てば、次の市長にだって成れるかもしれない」
「そうよ。素晴らしい事だわ!」
「ああ、俺には運も実力がある。水爆戦を生き残り、この穴の中では一番のプレイヤーだ」
そしてノーマンは妻フランと勝負に向かった。

模型セットを運ぶのは大変な仕事だった。途中で、バークリーで、コニー コンパニオンについての情報を入手した。
コニーはパーキー パットより年上、ボーイフレンドはポール。ただポ−ルは脇役だ。彼は自分の家を持っていない。


オークランドのまぐれ者達がやって来た。3人。プレイヤーのウォルターとチャーリー。そして道具係のピーター。ここ地元
バークリーでのゲームはパーキーパットだ。奴らにとってはアウェイ。しかし、奴らはそんな事には気を止めていなかった。

ゲームが始まった。取り出されたコニーを見て、ノーマンは驚いた。確かにパーキーパットと違い成熟した女性。それに
プラスチックじゃない。木が彫り上げた物、それに髪も人毛を使っている。

「どうだい?」
「...とても印象的だ...」

「さて、ゲームを始めよう」
「ちょっと待って!どうしてゲームの開始時点で、ポールはコニーの家にいるの?彼は自分アパートから始めないと!」

「二人は結婚しているんだよ」
「結婚!そ、そんな...ねえ、あなた。これはゲームを、自分達に有利にしようとする作り話じゃないの?そんな..」
「いや、本当だ。誰に聞いて貰っても良い。コニーとポールのラスロープ夫妻。結婚して一年になる」

「そ、そんな...じゃあ、許しあっていると言うの?」
「そりゃ、そうさ」

「でもパーキーパットとレナードはまだ一度も...」
「そりゃそうだろ。君達のはデートをしているだけだ」

「ノーマン!こんな馬鹿なルールでゲームなんて出来ないわ!帰りましょ!」
「ゲームを抜けるんだったら、負けを認めるのか?だったら、パーキーパットを置いて行って貰おう!」
「...」
「フラン。彼の言うとおりだ。ゲームをしよう」
そして、フランは回転盤を回した。針は6で止まった。次にウォルターが回した。4だった。ゲームは始まった。


「おかえり!よくやったね。オークランドのまぐれものに勝ったんだって!」
「ああ、運が良かった...としか言いようが無い。大差を付けられていた時に、借金棒引きカードを引き当てたんだ。そして
   10マス前進カードを続けて引いて、止まった所が、大当たりのマスだ。でも、彼らから文句が出た。コニー コンパニオン
   ルールでは、そのマスは、ただの不動産税優遇なんだ。それで、回転盤で決着を付ける事にした。もちろん勝ったさ」

「で、賞品を見せて!」
「これだよ」
コニー コンパニオン人形。みんなは食い入る様に見つめた。
写実的。服装はパーキーパットの方が上だが、ビジネス スーツなどパーキーパットは持っていない。

「触らせてくれ!」
「注意して、取り扱って下さい」
「勿論さ」
「いや、もって、丁寧に。実は彼女...妊娠しているんです」

突然、冷水を浴びせられた様な沈黙が降りた。
「コニーとポールは結婚しているんだ。ゲームに勝って、コニーを渡す時に、彼らが教えてくれた。
   そして、一緒にくれたものもある。胎児一式のセット。今はコニーのお腹の中だ」

「わ、私達ショックで...」
「でも、考えが変わった。やがて、パーキーパットも」


「まて、ノーマン。君たちはもう、このまぐれ穴に相応しくない。オークランドに行ったらどうだ。そんな酷い事を言うなんて」
「そうよ!パーキーパットに赤ちゃ...そんな、恐ろしい事!」
「そうだ、そんな馬鹿な考えに染まるなんて!」


ノーマン夫妻は家財道具を集めて、オークランドを目指した。
息子のティモシーはこの旅に喜んでいた。

「成長しないパーキーパットからは学ぶ事はない。でもオークランドの連中は気が付いたんだ。
   俺達も成長する必要がある」

ティモシーは思った。
(親達の言う人形遊びには興味は無い。しかし、この先には楽しい事が待っていそうだ)

..............

この作品が傑作であるのに、間違いはないと思いますが、改めて読むと幻視者(プレコグ)ディックと言えども、
現在の状況は見えていなかったと思われます。
もちろん閉塞した状況の中で、人々はオタク的なトリビアに埋没していくと言う予測の素晴らしさは、他の作者にはない画期的かつ本質的な
部分です。この様な小説を1963年、今から50年近く前、フラワー ムーブメント以前に描いていた事には驚嘆を致します。

しかし、これは発表当時、誰もこのストーリーの本質は理解できなかったでしょうね。ディック自身すらミューズが
降りて来ちゃった状態だったんじゃないでしょうか。

真の傑作とは、そう言う物でしょう。書いた本人にすら、その価値が判らない程に斬新。そして、作品としては未完成。
この作品の場合も、ぶち壊しているのは、ミューズからのものでなく、ディック自身が考えた部分ですね。例えば、子供達の存在や、彼らに
肯定的なストーリーの終末部です。
現在の視点から描いたら、ここは、こうならず、誰もがパーキー パットのパラダイスは、長く続いていると言う、展開にすると思います。

つまり、ここでは"落ち=逆転"を求めるディックの卓越したストーリーテラーの部分が、この作品をダメにしている訳ですが、
それすらも乗り越える発想の素晴らしさ(SFの美点と言える外挿=エクストラボレーション)が、この作品を、一級の作品にしています。

記:2012.02.08


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三分 小説 備忘録

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