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ウォー ヴェテラン (1992)現代教養文庫
ウォー ヴェテラン


造物主 The Infinites / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Planet Stories(1953.5) 原稿到着1953 短編 第44作

「不思議だ?この小惑星は、水は豊富。気温も温暖。大気も地球に似て、
   生物環境には相応しい...しかし、何故か、生命体が見つからない...」

宇宙船X−43Yは新たな殖民星を探す旅の途中、奇妙な小惑星に出くわした。
「よし、着陸して、調査だ!しかし注意しろよ、こんな星には、何か、致死要素が、あるもんだ」


地表には、草木や地衣類すらない。
「よし、ハムスターを歩かせてみよう。シルヴィア、ケージを降ろせ!」

「さあ、ここの調査が終わったら、地球へ帰るぞ!ようやくだ、待ちどうしいなあ!」

「エラー!見て!ハムスターが動かないわ!何か危険があるのよ!」

エラーの顔は青ざめ、操縦士のブレイクに叫んだ。
「ブレイク!すぐに発進しろ!早く!」

「?一体、どうしたと言うんだ...」
ブレイクはそう言いながら、倒れた。

エラーは夢中で、操縦桿を握った。頭の中に、炎が貫いた様な衝撃があった。
エラーは夢中で、操縦桿を引いた。


エラーは目を開けた。頭はズキズキする。
「ブレイク!大丈夫か?シルヴィアの様子も見に行かないと」

「ああ、大丈夫よ。貴方と話していて、突然、意識がなくなったの。でも、もう大丈夫...」
「時計を見ろ。信じられない...あれから二日も経っている...俺達は、どうしたんだ...」

「でも、大丈夫そうよ。ほら、彼らも、走り回っているわ」
ハムスター達は、元気に車を回していた。


「さて、考えてみよう。今回の事件の原因だ」

「船内の計測器に残ったデータを見ると、放射能が一時的に多量に発生しています。宇宙に
   逃げなければ、第二波にやられていた。この宇宙船の遮蔽幕では避けられない量です。それに我々の
   体内組織も調べてみました。脈管系は完全に機能回復してますが、神経組織はまだ変化しています」

「どんな風に変わったんだ」
「さあ、その変化が、どのように発現するかは判りません...」

「でも、私は、どこも悪くないわ。むしろ、爽快よ」
「ああ、少なくとも、心臓も脳も動いている。気にしてもしょうがない」


「まあ、地球へ帰還するまで一週間はある。さて、ブレイク。カードをやろう。この前の続きだ!」

「地球かあ...広い海と豊かな大地を持つ惑星。そこには、数億のバカがひしめいて...
   おいブレイク!どうした!」

ブレイクは首を落とし、眠りこけていた。ゲーム好きの彼が、その最中、眠るなんて?
「ああ...すいません。つい...」
「二日も寝てたくせに、まだ眠いのか?まあ良い。疲れたんだろ。俺もだ。なんだか疲れた」


エラーは自分の部屋へ戻った。後は帰還するのみ。ほっとして疲れが出た様だ。

シャワーを浴びる。頭を洗い、顔、体を...すべてを終え、水を止めて、
ふと指を見ると、爪が消えていた。

下を見ると、髪が大量に抜けている。あわてて、髪を掴むと、ごっそりと抜けた。
放射能?!..放射能のせいだ!


鏡を見ると、髪は全て無くなっていた。頭はむくみ、上に伸び、耳は随分と小さくなっていた。
いや、耳だけではない、鼻も小さくなり、口の中では、歯が浮き出し、抜け落ち始めていた。

ブレイクは室外に出た。そして、同じ境遇のエラーと出会った!


「どうしよう」
「今は、まだ話せるが、時期に話せなくなるぞ」

「こんな姿で地球に帰ったら、”化け物”扱いだ!動物檻に閉じ込められるんだ!」
「シルヴィアは、どうなんだ?」


「エラー?」
部屋のインタホーン越しにシルヴィアの声が聞こえた。
「私、出られないの。それに、こんな姿で地球に帰るのも嫌よ」


「さて、ブレイク?どうしようか?...しかし、あんまり見られたもんじゃないなあ」
「お互い様ですよ!水頭症のモンスターさん」

「まあ、良い冷静に考えよう。我々が水頭症でない証拠に、論理的な分析はできる。
   俺達はあの惑星の放射能のせいで、別の生物に変わった。」

エラーが、今や細くなった指を、テーブルに擦ると、その凹凸や模様がはっきりと感じ取れた。
「どうしたの?」
「何か、変だ?.....うわあっ!大変だ!目が落ちた!」

指の感覚増強は、視覚の欠落に対する補償だったのか?
「我々の変化は、単なる奇形じゃない。ある方向に変化してるんだ。俺の体をX線で調べてくれ!」


「大脳皮質の感覚部が肥大化しているわ。成長と言った方が良いかしら?」

ブレイクは言った。
「これは仮説だが、あの惑星の放射能は、進化を促進するんじゃないのかな?そうなると、俺達は、
   フリークじゃない。未来の人間なんだ!知覚機能は変化し、概念形成力も、格段に進歩した。
   やがて、この格好も気にならなくなるさ」
そして、ブレイクは、自分の部屋へと帰って行った。


「ねえ、ブレイクは私達は、新しい人間だと、思っている様だけど」
「ああ、しかし、例え進化したと言っても、地球では動物扱いされる。帰るのは危険だ」

「でもブレイクが大人しく、しているかしら?」
「ああ、戦いになる事も、考えなくちゃいかん。とりあえず、船内のボリス銃は破壊しておこう」

エラーがボリス銃を破壊していると、ブレイクがやって来た。
「ボリス銃など、私の武器に比べたら、子供のおもちゃだ!」

エラーの体の周りから立ち上った雲が、エラーの周りを取り囲み、また戻った。
エラーは自分の体が分解されそうな、恐怖を味わった。

「私が君達よりも、早く放射能を浴びた事を忘れるな。
   私は、君達よりも進化している。行く先は地球だ。変更はさせん」

「ブレイク!地球に帰るのは、危険だ!」
「いや、君達の進化が、私に追いつけばわかる、我々は、人類を指導し、
   銀河系に飛び立たせるんだ。人類による宇宙征服が始まるんだ!」

「地球人が嫌だと言ったらどうする?」
「それはありうる。しかし、奴らは、そうしなければならないのだ!」


シルヴィアは、ブレイクの方に突進した。
「止めろ!」
ブレイクの体から出た雲は、シルヴィアの体を包み、シルヴィアは倒れた。

「馬鹿め!さあ、エラー。私とお前だけになった。さあ、協力しろ!」
「ふざけるな!誰が貴様なんかに協力するか?」

「残念だなエラー。君の協力は得られないようだ。では、私一人で行う必要があるよう...」

ブレイクは驚愕した。エラーにも、感じ取れた。何か、強いエネルギー体が、ここに居るのだ!

「誰だ!お前達は!」
ブレイクは叫んだ。

(始めは、女だった)
「何者だ!」

(武器を放せ)
「近寄るな!近寄るな!」

ブレイクは通路へ逃げたが、青い炎に包まれ、消えてしまった。


エラーが尋ねる。
「お前達は誰なんだ?」
(私達は進化したものだ。ここには始めからいた。君達を観察していたのだ)

「どこから、来たのだ?」
(始めからいたのさ。君達がハムスターと呼んでいるものさ。我々が、一番初めに放射能を浴びた。
   最も進化しているのは、我々だ。ブレイクは消えた。女は無事だ。君達は地球へ帰るが良い)

「地球へ...しかし...」
「我々が去る前に、君達に処置を施そう....では、さようなら」

5つの光の玉は、宇宙船の壁を抜け、宇宙の彼方に飛んで行った。

エラーは、生き返ったシルヴィアの体を抱き寄せた。
そして、元に戻った豊かな黒髪に、指を入れた。

「シルヴィア、君の髪は、宇宙で一番、美しいよ」


..............

途中から、会話がモゴモゴしているはずなんですが、ちょっと上手く表現出来ていませんね。
そもそも、目が見えないのに、どうやって、X線の結果を知ったの???
この辺、視覚を無くす順番を、入れ替えた方が、良いんじゃないの??

ま、ディックはバリントン ベイリーの様に、「インテリ」ではありませんので、
進化は偶然と淘汰が為せる技だ、と言う、セントラル ドグマを気軽に乗り越えてしまっています
(これを、乗り越えるために、ベイリーは、傑作『ドミヌスの惑星』を書いたのですが...
   こちら、興味をお持ちの方は、このHPの『シティ5からの脱出』で紹介しています)。

ま、ともかく、水頭症と言えば、『フリークス』を思い出しますねえ。トッド ブラウニングでしたか?
あと、フランク ザッパかなあ、コーンヘッド!

ザッパ、トッド ブラウニング、ディック...ある意味で、みんな、『純粋』な人ですね。
昨今の、お銭(=おぜぜ、と読んでね)の香りのする村上さんとか言うゲイジュツ家とは、反対側の人かな。

記:2011.10.08


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三分 小説 備忘録

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