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ウォー ヴェテラン (1992)現代教養文庫
ウォー ヴェテラン


髑髏 The Skull / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 If(1952.9) 原稿到着1951 短編 第22作

囚人服を着た男、コンガーは評議会の会場に連れ出された。
「あと6年、お前は独房で過ごす訳だが、君の手腕を買って、君に頼みたい事がある。君は今では
   珍しいハンターだったね。夜になると、動物を狩るために、罠をしかけ、藪に隠れ、待ち伏せる...」
「どうせ、誰かを暗殺しろ!などと言うんだろう」

「そうだ。しかし、誰が相手か、探すのも君だ。どうだ君に、ぴったりの狩りだろう」


車は、ある建物の前で止まった。
「これは?統一教会じゃないか?」

古いビルは、統一教会の象徴である。彼らは、その中に忍び込んだ。無抵抗・非暴力が
教義の統一教会の象徴に、侵入する事など、たやすい事だった。

「急ぐぞ、やがて信者がやってくる。我々の情報では、この奥にあるんだ」

通りすがりの部屋には、書物、書類、記号、画像...どれも簡素で華美さはない。

「ところで、聞いていなかったな?お前は統一教会を信じているか?」
「いや、信じてはいない。彼らの教義は、死への諦観、無抵抗、非暴力...
   俺には合わない...しかし、悪い奴らとも、思ってはいない」

「いや、彼らは我々とは共存できない。我々は彼らの幹部を何人も殺した。
   しかし、その結果は信者が増えた、だけだった」
「話合いの余地はないのか?」
「ない!」


「ほれ!これだ」
議長は引き戸を開けた。
そこに、置いてあったのは、頭蓋骨。髑髏だった。

「これが、お前の殺す相手だ。二世紀前に死んだ男。統一教会の教祖だ。
   さあ、手に入れたら、さっさと、逃げるぞ!」


議長は、車のシートにもたれ話した。
「統一教会は20世紀に生まれ、戦争に嫌気のさした人々の間に、広まった。兵器さえなければ、
   戦争はない。科学や機械設備がなければ、軍備もない...そう、教会は説いた。工場や科学をなくせ!
   その教祖は、アメリカ中西部の出身の無名な男だ。非暴力、無抵抗、それに非闘争。兵器に税金を払うな。
   医薬以外の研究は止めろ。平和な生活。庭を作り、公務をせず、私事に励め。無名で清く貧しくあれ。
   財産を持つな。街を離れよ。
   彼はそう説いた。
   しかし、やがて暗殺され、そして復活する。そして、その復活した男は、信者達の前に現れる。
   その信者達は伝道者となって、教祖の教えを広めた。そして、二世紀が立ち、今の状態になった」

「悪い事ばかりじゃ、ないだろう。例えば、戦争はなくなった」
「ああ、それが良い事だと考えればね。しかし、今の我々は歴史に対しもっと、客観的だ。社会は
   少数の有能なリーダーに指導された時に、最も効率よく進歩する。また戦争には、ダーウィンやメンデルの
   思想と重なる部分がある。自然淘汰だ。進歩していない国、民族、人種、社会層民などが、戦争によって
   淘汰されるのだ。不適当なものを排除する。戦争の有用な側面を忘れてはいかん」

「俺には良くわからん。関係のない話だ」
「お前はハンターだからな。淘汰の頂点だ...ともかく、歴史に教祖が登場するのは、ただ一度だ。」


コンガーは、奇妙な服を着せられた。襟の形が変。獣皮の靴を履かされた。こんな、高級ななものを!
そして、これは現金だろう...たぶん、何世紀も前の、"紙"だ。そしてスレム銃。

「戦争で失われた資料を集めた結果、教祖が人の前で語ったのは、1961年頃だと、我々は考えている。
   探し出して、その説教の前に、殺すんだ」
「失敗したらどうなる?」
「たとえお前が成功しなくとも、ケージは自動回収できる。お前は、暗殺の事だけ考えろ」

コンガーが入ると、その”ケージ”のドアが閉まった。彼は聞かされた操作を行った。
やがて、部屋が消えた。時間が目の前で流れた。そして、町を見下ろす尾根に、コンガーは着いた。


ニューススタンドで新聞を売っている。聞いた通りだ。おちついて、金を渡す。どこで、失敗するか
判らない。注意に越した事はない。
新聞の日付は1961年4月5日だった。教祖は既に現れているのだろうか?

コンガーは図書館に急いだ。
図書館に入ると、受付に女性がいた。
「こんにちわ」
こちらを、見て微笑んだ。

(どうすれば良いのだろう、何かをするのだろうか。こいつは何故、俺に声をかけた??)
コンガーはぎこちなく、女性から顔を隠し、ゆっくりと、入った。

その女性は、こちらの事を見ている。
(何か、ヘマをしたに違いない。しかし、どこか間違っていたのだろうか?)

受付で、一週間分の新聞を出して貰った。
頼む間に、係員は何度か変な顔をした。
(俺は、やはり、この世界になれていない。彼らから見ると、随分、変わった奴なのだ。
   しかし、ハンターが目だってはいけない)


そして、お目当ての記事を見つけた。
『囚人死亡。犯罪的サンディカリズム(共産主義的労働運動)容疑の男、留置場で死体で発見される』
(しかし、これでは、逮捕日がわからない)


新聞社に行き、一年分の新聞を調べた。

そして、昨年の12月3日の新聞に、
『無届デモの男、逮捕』の記事を見つける。

教祖の出現日と場所は判った。時間移動だ!
新聞社から出ると、荷物を抱えた女性がいた。やり過ごそうと脇に退いていると、彼女は、コンガーの
顔を不審そうに覗いた。コンガーは無視し、逃げた。それが悪かったのか、女は、別の男を呼んだ。
振り返ると、数人になっている。コンガーは走る。丘の”ケージ”まで。


危うく、捕まる所だった。この時代は危険だ。この時代の人間は、何を恐れているのか?

出現日の1ケ月前に着いたコンガーは、ふもとの農家の前に立った。そこでは、夫婦が農仕事をしていた。

「...どなた?寒いでしょ?とりあえず、家に入ったら?」
招き入れられた家にはストーブが焚いてあった。

「私は、ミセス アップルトン。あなたは?」
「コンガーです」

「変わった服を着ているけど、外国人じゃなさそうね?」
「オレゴンです」

「あなた、オレゴンって何処?」
「中西部さ。米国市民だよ。大丈夫だよ、この人は。いや、最近、アカが多くてね。よそ者を見ると、
   みんなアカだと、思っちまう。でも、あんたは違いそうだ」
「この家に、下宿できないですかね」


コンガーは住まいを見つけ、町の中を歩いた。ある店に入る。

「もしもし、お買い物ですか?」
「いや、見るだけだ」
「散らかさないで下さいよ!」

(なあに、あの人!ひげだらけよ。あの、なんて言ったかしら、カール、カール...そうマルクス。まるで、あいつね)
(いや、違うマルクスはあんなに痩せていない...)

コンガーは、店を逃げ出す。後ろから、声を掛けられた。
「おーい。そこの人!車に乗らないかい?」
若い連れに声をかけられた。コンガーの乗った車は走った。

「あんた、他所の町から来たんだろう。どこだい?」
「オレゴンだ」

「オレゴンじゃあ、みんな、あんたみたいに喋るのかい?」
「私の話し方は変かい?」

「うん。なんとなくね。なあローラ?」
「そうね。でも嫌じゃないわ」

「私は、長い間、人とは会話をせずに暮らして来たんだ」
「あら、そうなの?ごめんなさいね」

「君達は、私以外の余所者を知らないかな?もう一人いるはずなんだ。彼に会いたいんだけど」
「わからないけど、小さな町だからね。すぐに、見つかるさ」


二人と別れたコンガーは町を散策していた。そこで、偶然、先ほどの少女ローラに会う。
コーヒー ショップに入り、話をする。

「あなたは、変わっているのね。何に興味があるの?」
「俺のいた所には、何もない。芸術とかとは無縁だ。あるのは教会だけ」
「教会って、何教会?」
「どう言う意味だ?教会は一つだ。一つしかない」

そこに、先ほどの少年がやって来た。
「ローラ!ここにいたのか!」

コンガーには、少年の憎しみが感じたられた。
「さあ、こい!車に乗るんだ!」
「何よ!妬いてるの?」

いきなり少年が、コンガーに殴りかかった。
コンガーはベルトに手を当てた。彼の周囲に圧力の壁が出来た。少年はふっ飛ばされた。


コンガーは、店から急いで出た。
その後ろから、声をかける者がいた。

「ちょっと待て!話を聞かせろ」
コンガーは止まった。男は警察だった。

「私はダブ保安官だ。先ほどの店の中の事を説明して貰おう」
「何をだ?」

「閃光を見た。そして、みな一時的に動けなくなった。何を使った?新型の爆弾か?」
「いや、ライターを点けたら、ガスが漏れて爆発しただけさ」

「それなら良い。あんたが相手にしてた奴は札付きの不良だ。あんたは幸運だった」


コンガーは下宿に帰った。
「今日は何日でしたっけ?12月(ディセンバー)の1日よ」

「ディセンバー?どうして?だって、昨日まで11月(ノーベンバー)だったじゃないですか?...あ!」
コンガーは勘違いをしていた。この20世紀では、まだ昔の暦を使っているのだ。クォテンバーはないのだ。
ノーベンバーの後は、すぐにディセンバー!

教祖が出現するのは、明日なのだ。まだ、それが誰か、判っていないのに!


翌日、コンガーの所に、昨日のローラがやって来た。

「警察が来るわ。あなたを捕まえると言ってるの、警察無線によると、
   60人もの大部隊よ。あなたを武装した共産主義者だと言っているそうよ」
コンガーは”ケージ”へ行き、スレム銃を取って来た。これを最大出力にすれば、警官60人を相手に出来る。

そして傍らにあった教祖の髑髏を持った。ふと、それを自分の顔に押し当ててみる。

有り得ないほど、彼の顔の骨格と瓜二つだった。

コンガーはスレム銃やベルトを置き、外へ出た。あの髑髏は、自分の物ではないのか?不安が大きくなる。
警官の部隊が近づいて来る。ローラとその仲間達も集まって来た。

「この前の武器はないの?」
「あれより、もっと強い武器もあるが、使おうとは思わない」

それを尋ねた女には見覚えがあった。一年後、新聞社の帰りに、コンガーを追って来た女だった。その隣の男にも...

コンガーは、これが避けられぬ運命である事を悟った。

俺は、ここで死ぬ。しかし一年後、復活する。それを目撃され、ここにいる者たちは、それを伝える。
そして。200年後、彼は火星の田舎で生まれる。そして、この20世紀で...


「君達に、言葉を送ろう。生ある者は、いつか死す。殺す者も、死から逃れる事はできない。
   しかし、自ら命を捨てる者は、再び蘇るのだ」

聞いている者達は、訳がわからない、と言う顔をしていた。
(今は判らないだろう。しかし1ケ月後には...)
近づいて来る警官。コンガーには死を避けるすべがなかった。


..............

う〜ん、ちょっと長かったなああ...あ、すいません。ぼけっとしてました( 『あてのない船』かい! )

さて、この作品は、第22作ですから、意外に早い時期に書かれた作品です。
ターミネータの原作の一つと言っても良い「ジョンの世界」のようなタイムスリップと、
宗教(統一教会と言っても文鮮明とは関係ありませんが...)、そして赤狩り、と言う
ディックの基本要素が詰まっている作品だと思います。

ちょっと、つじつまが合わない所は、勝手に修正しました(例えば、死んだ後になんで、未来の兵器が見つからないの?
   とかです。こう言う所の整合性って、文章をコンパクトにしてしまうと、粗がモロに見えてしまうので...)

それから、クォテンバーですが、ディック ファンなら、12月1日に
「今日は何月何日?...えええ???クォテンバーはどうしたの???」の、お約束ギャグを、お忘れなく!


記:2011.11.03


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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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