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PKD博覧会 トーキング ヘッズ叢書(1996,12)アトリエサード編集発行
PKD博覧会


ちょっとした隠しごと The hood Maker / フィリップKディック 訳:橋本喜代太のあらすじ
初出 Imagination(1955.6) 原稿到着1953 短編 第39作

「フードをしてる奴がいるぞ!」
「あいつだ!捕まえろ!取っちまえ!」

老人に石が投げられた。投げたのは、青白い青年。コートを着たサラリーマン。疲れた女性事務員。

逃げる老人は追い詰められる。
「何を隠し事をしてるんだ!」
もみくちゃにされる老人。

老人の頭からフードが奪い取られる。
「ざまあみろ!」

人並みは急速に離れ、うずくまり、血を流した老人が取り残される。
ロボット警官が、やっと到着した。
「ケガハ、アリマセンカ?ココヲ、ハナレタホウガ、ヨイデス...」

整理局のロス局長は、政治家ピ−ターズに状況を説明していた。
「また、フードを付けていた者を捕まえました。二日間で10名です。
   早く反免除法を制定しないと!」
「彼らはどうやってフードを手に入れるのだ?」

「送られてくるのです。郵送で。ドアの隙間に差されていたり、
   路上でポケットに突っ込まれたり、方法は様々です」
「99%の者は、自ら自分の潔白性を認めて欲しがる。しかし、1%の人間は拒否する。
   それは奴らに、やましい心があるからだ」

「フードの中身は、おそろしく簡単だ。ただの合金板、幾らでも作れる。しかし、これの
   威力は絶大だ。ティープ達は、相手の思考が読めず混乱する!社会に対する脅威だ!」


ロス局長はアーネストを呼んだ。ティープの青年。
ティープが登場する前は、国家に対する、忠誠心検査は、お笑い草だった。
神の前で誓約させたり、盗聴したり、ペーパー試験をしたりした。幾らでも抜け道があった。
そんな者達が国家を運営していたのだ。

しかし2004年にマダガスカル大爆発が起きた。すさまじい量の放射能が、
マダガスカル駐在の兵士に降り注いだ。生き延びた兵士も殆どは不妊になった。
しかし、少数の産まれた子供達には、全く新しい能力が備わっていた。

人類は数千年ぶりに進化したのである!
 (管理者 注:数万年???じゃないかなあ??)


ティープは偶然に産まれ、自由連合の直面していた問題を解決した。政府へ忠誠でない者を発見し、
処罰する事を確実に行える様になったのである。


「奴の事は調べたか?」
「はい、フードを取り上げて直ぐに、スキャンしました。名前はフランクリン博士。67歳、
   親戚の家を訪れるのが目的でした。ティープが私に、スキャン出来ない者がいると、伝えてきたので、
   『フードをつけている奴がいる!』と騒ぎを起こして、奴からフードを取り上げたのです」

「彼はどうやって、フードを手に入れたんだ?」
「郵便ですね。例によって『フード製造者』が、市民に対しランダムに送り付けているんです」

「昨年だけは、5000件だ。なかなかしっぽを出さん!」
「我々の数が少な過ぎるんです。ティープの数が増えれば、簡単なのに」

「で、フランクリンの心の中に危険な要素は無いのか?」
「彼の人生の記憶は、洗いざらい取りました。結果は逮捕すべきでしょうね。彼は24歳の時に
   、今では違法の、本やレコードに心酔しています...」


フランクリンは、走っていた。隙を見て、逃げ出したのだ。
自分は、自由連合政府の下で、長らく働いて来た。それが今や、指名手配。

「この探査障壁は、製造者の好意であなたに送られます。お役に立てば幸いです」

今朝、届いた郵便が全ての発端だ。
連合に反する様な事は何もしていない。しかし、フードをすれば、誰にも頭の中を覗かれない!
それは魅惑的な考えだった。

そして、フードを被った...それが、指名手配の逃亡犯...

やがて、整理委員会に引きずり出される。そこで、身の潔白が証明できれば良い。しかし、出来なかったら...

いや!フードをしてはいけないと言う反面除法は、まだ議会を通過していない。それなのに、何故だ?

気がつくと、整理局とおぼしき奴らが後ろから追ってくる。
フランクリンは逃げる。道路を横切り、車にクラクションを鳴らされる。

しかし、渡り終わった道路の向こうにも整理局員が待ち構えていた!
必死に逃げ場を探すフランクリン!

「乗って!」
目の前に車が止まり、若い女が身を乗り出した。
「早く!」

フランクリンが車に乗り込むと、若い女はアクセルを踏み込んだ。
その前に、整理局の車が割り込む。もう一台が後ろに張り付く。

「しっかり座って!」
女がハンドルを引くと、車は垂直に飛び上がった。車はそのまま、弧を描きビルを
かすめて飛び越えた。整理局の車は、もう見えなくなった。
「君は誰だね?」
「いいから、これを着けて。追跡されるわ」

女はフードを渡した。
「これからフード製造者の所に行くのよ」


車はニューヨーク郊外の古い工場に着陸した。
そこの責任者はカッター、ティープの研究をしていた。

「そして、我々が偶然に発見したのが、フードに使っている合金です。そして、ここは避難地なのです」
「誰にとっての?」

「貴方の様に、陥れられた者にですよ。政府の関係の仕事をしながら、突然、ティープに糾弾
   される者がいる。優秀な人材を狙い、陥れる事で、実権を握ろうとしているのです。ティープ達は。
   ここは、そんな者達の救いの場です。彼らに対する研究も進んでいます」

「それで、反免除法を成立させ様としているのか」
「ええ、フードをしていなければ、その人間の過去を調べ、細かい事を突付いて、犯罪者とする。
   フードをしなければ、もちろん犯罪者。ティープにとって都合の良い世の中です。
   彼らが基準となり、世の中を支配して行く」

「しかし、反免除法を提出しているウォルド議員は、その事を知っているのだろうか?」
「フランクリンさん。貴方はウォルド議員と面識がありますよね。一度、彼を説得して貰えませんか?」
「わかりました」
「しかし注意が必要です。向こうにはティープがいるかも知れません」


巡航機はロッキー山脈を越えた。
「ティープに加え、ロボット警備兵も沢山います」
「しかし、何故ティープは、こんな事をしたがるんだ」
「彼らは誰でも、自分は人間よりも優れた人種だと思っています。
   つまり人類を指導する立場だと言う事です」
「しかし、テレパシー能力の有無は、優越種であると言う事ではありません。しかし、
   変わった才能があるから優越的だと言う考えは、人間の方にも、昔からあるんですがね」

「では、誰が人類を指導すべきなんだ?」
「産まれながらに指導すべき存在など、いませんよ」
巡航機は着陸態勢に入った。


「フードはしっかりと付けて下さい。一人のティープに知られると、次から次へと
   知られてしまいます...さあ、ロボット警備兵ですよ」

「トマレ!アナタハ、ナニモノデスカ?」
「フランクリンだ。委員会のメンバー、ウォルド氏の知り合いだ」

委員会のパスを確認し、ロボット警備兵は道を開けた。
入り口を入ると、人影が近づいて来た。ウォルドか、それとも...

「おはよう、ございます。フランクリン博士」
男は、痩せて青白い青年だった。青年は、いきなりスレム銃を博士に向けて撃った!

驚くカッターは拘束された。
「どうして、博士を殺したんだ!」
「老人には、強制収容所の生活は無理ですよ」
青年はアバッド。もちろんティープだった。

「どうして我々が来るのが判ったんだ?」
「博士を助けた女は捕まえました。彼女は有益な情報を、沢山持っていましたよ。貴方の工場は、既に
   我々が押さえました。全員、逮捕しました。強制収容所は、大忙しですな。貴方が最後の一人です。
   スキャンしたら、貴方も行ってもらいます。貴方は最重要人物だ。随分と、面白い情報を持っていそうですからね」

「そうか。そんなに知りたいなら、勝手に調べれば良い。これで、おしまいだ」
カッターはフードを取った。

アバッドの顔が変化した。
「さあ、どうだい。何が判った?」

アバッドは驚愕し、崩れ落ちた。
「驚いたか?私も昨日知ったばかりだ。知っているのは私だけだがね。この情報は君達には知って
   欲しくなかった。しかし、フードを取れと言ったのは君だ。私じゃない。
   私は、君達が本当に優越種なのか、疑問があった、それで調べたんだ。そして判った。一部の人間の
   生殖機能が壊れ代りに得た才能が、テレパスなんだ。つまり進化の過程における、正常な進化ではないんだ。
   君達の仲間で結婚したものを、私は全て調べた。そして判ったんだ。誰も子供を産んでいない。
   君達は、マダカスカル大爆発を経て、生殖器官に異常を抱えた親から産まれた一代限りの奇形児なんだ。
   君達がどんなに力を持とうとも、すぐに廃れるのさ。君達の寿命と共にね」

「しかし、それを知っているのは、お前だけだ。お前を殺せば、何とかなる!」

「そうかな。君は『自分がフードをしていない』と言う事を忘れているんじゃないのかな。君の考えは、もう他の
   ティープに読まれているよ。ティープの中継システムを甘く見ん方が良いぞ。もう全てのティープが知っている頃だ」

「ちくしょう!」
アバットは混乱し、手のスレム銃を自分の頭に目がけて、引き金を引いた。


溶けたアバッドとカッターの所に、整理局員がやって来た。
「これはアバットじゃないか?一体、どうしたんだ?おい、ティープを連れて来い。こいつをスキャンさせろ!」
「いいですよ。隠し事などする気はありません。さあ、早くティープを呼んで下さい。まだ、まともな奴がいるならね」


..............

出ました、ティープ!ディックの名作長編の一つ、Solar Lottary(偶然世界 or 太陽クイズ)、を思い出します。

いやあ、あれは名作でしたねえ。あれと、ユービック、あと、火星とパーマー。ディックの長編は4つで、私にはOKです。

え?2つで充分ですよ??
そうか、じゃあ、Solar とユービック、って事で...


研究家と言う人の常だとは思いますが、ある文学者を対象とする時、その人の著作からのみ、その人の人なりを考察する。

これは、仕方のない事です。多くの作品を残している作家だと、『重要』である作品から、考察する。
長編と短編を書いている作家だと、長編の方から、考察する。
映画の原作を書いている作家だと、その映画の方も、考察の対象となる。

ディックの場合、書簡や散文的なものも、多く公表されていますので、そのような物も対象となる。
しかし、この様な、書簡や散文は、初期の物は残りづらく、有名になってからの物が、残りやすい。

ディックの場合『不幸』な事に、「ブレードランナー」と言う作品がモンスター映画となってしまった事により、
あの映画に引っ張られた評価をされる事も多いようですが、
散文を別として、彼が小説の中で描く、社会的な感覚としての整合性(=リアリティ)、が求められる
シーンでのロボットの立場は、「ニュートラル」の場合が多いです。鉄人28号的な感覚ですね。

この作品でも、冒頭のロボット警官の立場はニュートラルで、悪者は「ロボットの様に」
コントロールされた人間達です。

しかし、先程言った、多くの研究者は、「人でない」ものを一緒くたに、している人が多いような...


それにしても、フランクリン博士は犬死ですよね...何とかならんものですかね?


記:2011.10.26


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