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地図にない町 ディック幻想短編集(1976)-早川文庫
地図にない町


地図にない町 The Commuter (1953) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Amazing(1953.8-9) 原稿到着1952 短編 第6作

その男の番になった。男は言った。
「メイコンハイツ行き回数券一冊」
男は5ドルを出した。

窓口係のエドは、ちょっと考えた。
(メイコンハイツ?メイコンハイツ?そんな駅あったっけ?)

「お客さん、メイコンハイツって言うのは、どの路線ですか?」
「馬鹿な事を言うな。この路線だよ。わしは、もう6年、そこに住んでいる」
「いいですか?これが路線図です。この中に、メイコンハイツはありますか?」

男は、路線図を調べて、言った。
「おかしい?ずっと住んでいるんだよ。嘘じゃない」

路線図がポトリと落ちた。
男は突然、消えたのだった。
「聖カエサルの幽霊か?」


「つまり、こう言う訳だ。切符を買いに来た男は突然、消えてしまった」
「ええ、ほんの5分前の事です」
「で、その駅の名前は、何だっけ?」
「メイコンハイツですよ」
「メイコンハイツ...聞き覚えがあるな...」
ペイン助役は思った。

「次のお客さん、どうぞ」
「ルイスバーグ往復二枚」

「はい、どうぞ。次の方!」
「メイコンハイツまでの回数券一冊」

「!!!!」
あの男だった!

「すいません。回数券の方は、こちらに入って下さい」
「どうして、そんな手間がかかるんだ」
「ともかく、どうぞ」


ペイン助役は聞いた。
「メイコンハイツは本当に当社の駅ですか?」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ。わしは6ケ月間、10日に一度、回数券を買っているぞ」

「ここから、何分くらいの距離ですか。人口は?」
「人口は知らんが、時間は49分ぴったりだ」

(49分、約30マイルだ)
ペイン助役は、地図でその辺りを調べ出した。

「あああ、地図も結構だが、回数券を早く売って欲しいもんだ」
「残念ながら、お売りできません。そもそもメイコンハイツなどと言う場所は、
  当社の路線図にも、地図にもないのですから...???」
ペイン助役の目の前で、男は消えてしまった。

とんでもない事だ!とんでもない事が起きている!

ペインは翌日、妻に図書館に行って調べてくれと頼んだ。メイコンハイツとやらの事を。
そして、3マイル離れたメイコンハイツがあると言う駅まで行ってみた。

30マイルの所に駅はない。しかし、そろそろ、その地点を通る。
ペインは窓から外を眺めた。幻の駅。メイコンハイツ。

電車は突然止まった。事故か?信号機故障?
扉まで開いた。外は霧がかかって居た。扉脇にいた乗客は降りて行った。
(どう、言う訳だ)

電車は走り出した。
ペイン助役は、車掌を探した。

「今の停車は何だ?」
「メイコンハイツですよ。B電車はメイコンハイツに、停車するんです」

窓から首を出すと、線路のかなたは黒い雲に覆われていた。


帰って妻に聞いた。
「メイコンハイツの事は判ったか?」
「ええ、あの線路を作る七年前に、あの地域に三つの住宅地を造る計画があったの。その一つが
   メイコンハイツ。でも計画は修正されて二つになったの、メイコンハイツは敗れたのよ。
   たったの1票差だったけど、否決されたわ」

そうか。七年前の開発計画。そこで計画は修正された。1票差で。
しかし、別の可能性もあった。それが現実化した世界。それがメイコンハイツなんだ。

たったの1票。過去に不安定な所があったのだ。その不安定さが、既に終わった過去を
変えているのだ。


ペインはB電車に乗った。そしてメイコンハイツに停車するのを待つ。
はたして...

30マイル地点で、電車は止まった。
ペインは降りた。電車は駅を出て、消えた。

ペインは街を歩く。
きらきら輝くメイコンハイツ。街の中央には劇場があった。
駐車場にデパート。安売店、ドラッグストア。
どこにでも、ありそうな変哲のない街。

街路樹。スーパーの果物は本物だった。
立ち寄った喫茶店でコーヒーを頼む。

「ここは良い町だね。ここで働いているの?どのくらい?」
「もう2年になります」
この世界。黒い雲に囲まれた世界。しかし、まるで現実だ。

そこで、彼は不安になる。
相容れない二つの現実。雲のような存在が、現実の様に振舞うのだったら、
本当の現実は、どうなっているのだろう?

ペインは家へと帰る。駅に急ぎ、電車に乗る。
メイコンハイツから溢れた現実は、本来の現実に影響を与えないのか?

自分の街に着く。駅を出ると、看板が。

「ノリス家具店」

記憶にない。これは、あのメイコンハイツを造った新しい現実に侵食されたのだ。

妻は?家は? 大丈夫か?変わってしまったのではないか?

飛び込んだ我が家の中では、妻がびっくりしていた。
「あなた?こんなに早く、どうしたの?」

(よかった!妻は大丈夫だ)
「世の中が少し変化してしまったようだが、君も家も変化が無い。本当に良かった!」
「何、言ってるの?何も変わりはしないわよ。あら、ジミーが泣いてるわ」

赤ん坊の声がした。
「ジミーって誰だ?」
「???あなた、自分の息子の事を忘れたの???」

「い、いや、なんか熱かったからボケっとしてしまった」
「そうね、太陽のせいよ」


..............


この落ちは切れがあってなかなか良いですね。
小品で、ありきたりなテーマながら、丁寧な描写が話の骨格を支えていると思います。

記:2011.10.01


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三分 小説 備忘録

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