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地図にない町 ディック幻想短編集(1976)-早川文庫
地図にない町


超能力者 Psi Man( Heal My Child!) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Imaginative Tales(1955.11) 原稿到着1954 短編 第76作

男はオンボロ車でゲートを通過しようとしていた。
監視兵が車を止めた。

「通行証を見せろ」
「これだ。子供が病気なんだ」

「病気なら第六階層に行け。設備は充実している」
「いや、あそこには行かない。あそこで戦争中に起きた事を、俺は知っている。
   息子を実験台にはさせない」

「なら、勝手にしろ。焼け跡に住む呪い師にでも頼んだらいいさ」


ゲートは通過した。しかし、この後は危険だらけだ。
肉食獣や奇形人間。自分の身は自分で守るしかない。
監視人の言葉の正しさが、証明されるかも知れないのだ。

「大丈夫かな?」
「心配したら切りが無いわ」
女と言うものは、常に楽観的だ。理性の末路など関係なしだ。

道端に積み上げられた骸骨の山。戦争後、どんなゴミでも集められた
。 再資源にするのだ。しかし、ただ一つ集められないものがあった、それが骸骨。
これだけは、腐るほどあるのに、何の役にも立たないのだ。

「あの丘よ」
「あそこに、お前の言う超能力を持った魔女がいるのか?」
未来を読む、病気を治す...そんな話は幾らもある。
この人は本物だ...と聞いたとか。

行列があった。シェルターの中に続いていた。
「全部で5人いるの。皆、別の超能力を持った組織よ」


ポーターが言った。
「うんざりするぜ。年寄りが、私はいつ死ぬか、と聞くから31日後、と答えた。
   そしたら、奴は俺に殴りかかった。結局、彼らが聞きたいのは真実じゃない。自分に
   都合の良い事だけさ」
「じゃあ、あなたは大金持ちになります、って言ったら」
「しかし俺は、イカサマ師じゃないんでね」

「だけど、あれはまいったな。こう聞くんだ。もう一度、惑星間宇宙船は来てくれるのか?
   ってね。仕方ないから、半年先までしか、俺にはわからない、と答えたよ」

セルマはコーヒーを注いだ。
「今日は疲れたよ。でも治療待ちが、まだ50人も残ってる。最近、骨ガンが多いね。
   赤ん坊さ。一人は助かるが、もう一人は手遅れ。来週、来なさいと言っておいた」

ジャックが現れた。
「交渉は成功したかい?」
「ダメだった。11回目だ。もっともアーネスト元帥にとっては、毎回が始めてだがね」
「ところで、ジャック、あんたは幾つだっけ。あんた一人だけ若いよね」
「いや1946年生まれ、71歳さ。2017年の実体が本物さ」


時空を操るジャックは、アーネスト元帥の前に現れた。
手にはアーネスト元帥のボロボロの死体を持って。

「お前は何者だ!どうも超能力者のようだな?」
「軍が俺達を育てたんだ。でも、あんたが始める戦争の結果がこれさ。自分の死体を拝みな。
   前回、お前が証拠を見せろ、と言うから持ってきてやったんだ」

物質の移動は、一定時間なら可能だった。

「これが、わしだと言うのか??しかし、戦争は私だけが決定するものではない。敵国の
   脅威と、国民の不安が...」
「ともかく、始めるのはあんただ」
「お前は超能力者だろう。なぜ、お前らがいて、戦争に勝たなかったのだ?」
「超能力者は中立の立場を取ったんだ」
「何だと、売国奴め、お前らが強力すれば、わしも死体にはならないはずだ。戦争に協力しろ!」


アーネスト元帥の考えを変える事は出来なかった。これで12回目だ。
このまま、戦争に突入するのか。

「ドリス!結局、俺達は、戦争で何百万もの人が殺されるのを、黙って見ていなくちゃならんのか!」
「ジャック、もう12回目。撤退するのよ。我々は中立を守るの」

「それで、小さな奇跡を起こして満足するのか。人が何人死んでも構わないのか?
   君のやっている、地面から泉を噴出し行為、それでは人は幸せになれない」
「政府が我々を信じないのは、嫉妬しているからよ。私たちが本当の行動を起こしたら、
   真っ先にいらなくなるのは政治家だからね」

「しかし、全体の決定権を持っているのは奴等だ」
「そうね。北のほうでは、労働者が政権を奪ったらしいわ。でも放射能には敵わなかったみたい」

「結局、俺達は彼等より優れているとは言っても、ご主人と言うわけじゃない。
   自由に操れる訳ではないんだ」
「でもスティーブンは人の心を読み、考えを植えつける事ができる。今、私がしゃべって
   いる事もスティーブンの代弁かも知れないわ。泉を出したのも、スティーブンが、私を動かしたの。
   でもスティーブンはまだ子供。あなたの様に成熟し、人の気持ちがわかる大人ではないわ」


「我々が本当に世界を支配したら、どうなるんだろう。完全な全体主義社会の完成だ。一般の
   人間には、職業政治家達の支配より、更に悪くなる」

(どうして、悪くなるんだ?)
他人の思考が、ジャックの頭に広がった。スティーブンだ。干渉しているのだ。
(絶滅する生物を僕達は保護しているんだ。動物園だと思えば良い。大陸一つ、丸ごとの。
   ただし、その他の大陸は、僕達のものにするんだ)


予知能力者のポーターはスティーブンの相談に困っていた。
スティーブンが言うには、ジャックはスティーブンを危険だと見なし、殺そうとしているらしい。
ジャックの心を読むと判るそうだ。

「僕だけじゃない!やがてはここにいる全員をだ!」
「おい、スティーブン、その事はわかっていても、口に出すべきじゃなかったな」
ジャックがスティーブンの喉を絞める。

「やめな、ジャック」
セルマはジャックの背後から、念を送る。
ジャックは心臓を押さえて、倒れた。

ポーターが言う。
「セルマ、それに、ドリス!お前も手伝ったな。セルマ、今、すぐジャックを助けないと手遅れになるぞ」

「ああ、でも、もう変えたいんだ。みんなジャックに連れられて、このギルドに入った。
   ジャックは超能力者を、ここに集めたんだ。そして彼はリーダーだった。彼は管理したかったんだ。
   でも、それは破綻した」

「これから、どうする?どうなるんだ」
「ここから出て行く者がいたら、私が許さないよ。でもジャックみたいに、
   うまく出来る自信はないけど」

「政府が我々に期待する事はないだろう。私達は、奇跡を起こし続けるだけさ」


翌週、男は、オンボロ車でゲートを通過しようとしていた。
監視兵が車を止めた。

「指紋を取る。全員だ。赤ん坊も。それから、ルールが変わった。このゲートを
   出る者は、戻ってくる事はできない。それを覚悟で、出て行くんだ」

「でも、この子の骨ガンは、治っていない。もう一度来いと言われたんだ。」
「第六階層に行くか、外に出るか判断しろ」

「どうしよう?」
「出て行くしか仕方ないさ。もう後戻りは出来ないんだ」
「そうよ、政府はあの人達を認めないけど、彼等は頼れるわ。私たちが共に
   暮らすのは、あの人達であって、政府じゃない」
「そのうち政府は、また戦争を始めるぞ。その時、俺達は生きてはいないかも知れないが」


..............

「失敗する超能力者」と言うテーマをディックは繰り返し描いています。それらは、面白い物が多い
のですが、この作品も、独特の緊張感があって、良い作品だと思います。

幾つかある、ドクロを運ぶと言う、タイムパラドックスの話の一つです。


記:2011.09.25


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三分 小説 備忘録

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