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時間飛行士へのささやかな贈物(ディック傑作集2)-早川文庫
時間飛行士へのささやかな贈物


人間らしさ Human Is / フィリップKディック 訳:友枝康子 のあらすじ
初出 Starling Stories(1955.Winter) 原稿到着1953 短編 第40作

「あなたは酷い人ね」
ジルは、涙を流しながら夫に言った。

「酷いと言うのは、君の価値判断に過ぎんよ。客観的事実に基づいていない」
レスターはレクサーW星人に関する報告書をまとめながら言った。

「ちょっとの間でもダメなの??ガスが遊びに来るだけよ」
「子供に家のなかをかき混ぜられたくないんだ。仕事の邪魔になる」
兄の子供、丸々太ったガスの姿を思い浮かべ、ジルはくやしさに涙を流した。

しかし、ガスは二人が食事を終えた、頃やって来た。
「ガッシー!よく来たわね」

「うん。あ、それから僕の虎には、気を付けてね」
レスターが見ると、そこには灰色の子猫がいた。
「これは虎じゃない!猫だ。物の名前は正確に言え!虎は黄色!もっと大きい!」

「でも縞があるよ」
「こんな縞じゃない。動物が好きなら、幾らでも見せてやる。研究所に行けば、
   実験用の動物がたくさんいるぞ。ウサギ、モルモット、遺伝子改良した奴も」
「レスター!もう、やめて!」

その時、レスターに連絡が入った。内容を聞いたレスターは、ジルに言った。
「忙しくなりそうだ。レクサーWの生物も研究範囲に入った。早速、現地に行かなくちゃならない」

「レクサーW?あの古代遺跡がある惑星?素敵だわ!私も行ってみたい。
   最近、休暇旅行をしていないでしょ。わたしも連れて行って」

「俺は仕事で行くんだ。観光とは違う。レクサーWは古びた惑星だ。君の望むもの、なんてないよ。
   でも俺は家に居ないから、ガスにはゆっくりして貰え」

レスターは旅立った。ジルは兄に言った。
「私、レスターとは別れようと思う。あの人に、思いやりとか、人間らしさってものが無いのよ」

「しかし、彼は有能だろ。カリスト星との戦争で大きな効果を出した、硫酸銅トリモチは
   彼の発明だ。立派だよ。それに今は、仕事に必死かもしれないが、気が変わるかもしれないよ。
   俺だって昔は、バリバリの弁護士だったが、今や良き家庭人さ」


兄の言う通り、レクサーWから帰って来たレスターは別人だった。

帰りのロボットタクシーから降りると、反重力スーツケースを渡すロボット運転手に、
帽子(なんと帽子を被っている)をちょっと、上げて。

「ありがとう」
(あのレスターがロボットにアリガトウだって!)

家に入るなり、鼻をぴくぴくさせ、

「これは、これは、素晴らしく、美味しそうな、夕食の香りが部屋一杯だ!
   ジル!君がいなくて、とっても寂しかったよ。また無事に会えて、本当に嬉しい!」

「あ、あのお、レスター...あなた、ちょっと変わったわね...」
「そうかい。そうだとすれば、それはみんな過去の話さ。今の僕は、こんな感じさ」

口笛を吹きながらの夕食。おいしい、おいしいと喜んで食べるレスター。

「あなた、旅行に行く前は、食事なんて、面倒臭い!
   注射一本打つだけで、一日働ければ、どんなに楽か!なんて言ってたのに」
「いやあ、君の作ってくれる食事は、本当に美味しいよ。これは人生の楽しみだ」

「やっぱりレクサーWは、素晴らしい所なのね。貴方がこんなに変わるなんて。私も行ってみたい」
「いや、ダメだ。あそこは死んだ星だ。墓場だ。何もない。それに比べ、この地球は素晴らしい!」

ジルは、このレスターに満足していた。
そりゃあ、ちょっと言い回しが年寄り臭いけど、何と言っても、人間らしい。


三人の入国審査官が、話をしていた。
「間違いありません。レスターは汚染されています」

「つまり、彼はレクサーW星人に、精神を乗っ取られたと言う訳か」
「はい5人目です。きっと安全対策もせずに、遺跡でも掘っていたのでしょう。
   奴らの乗り移りは一瞬です。奴の精神は、どこかに捨てられましたんでしょう」
「じゃあ、処分しろ。早速だ」

「しかし、奴は既に地球にいます。おまけに奴の妻とも会っている。これは面倒ですよ。
   深宇宙の危険駆除法は適用できない。いきなりは処分できません」
「じゃあ、奴の妻に訴えさせろ。気がついてるかも知れん」

ジルとレスターは、会話を楽しんでいた。
レスターの会話は古臭い。レクサーW星人は活力ある地球に憧れを持っていて、地球の文化を
取り入れている。映画、本、唄。しかし辺境の地の悲しさ。それらは、200年ほど前の過去の文化だ。

男女が歌いながら、ストーリーが進む奇妙な映画。
ありえないほど強いヒーローと、これまたありえないほどバカな悪人の冒険小説。
ダミ声の女性が声を絞り出す、暗い唄。

山高帽をかぶり、ウィンクをし、うれしいとタップダンスを踊るレスター。さっきは歌でジルに愛を語りかけた。

入国審査官がやって来た。レスターは捕まり、ジルは説明を受けた。貴方のご主人は、おそるべき
精神寄生体に乗っ取られました。残念ながら、貴方のご主人の精神は殺されました。裁判所で証言を願います。


裁判が開かれた。ジルは主張した。私は何も気がつかない。レスターは何も変わっていないと。

裁判所からの帰り道、ジルは、レスターに聞いた。
「貴方の本当の名前は?」
「君には発音できないかもしれない。音にならないものも多いし」

「じゃあ、レスターで良いかしら。貴方が気にならなければ、だけれど」
「ぼくは構わないよ。君の望む事なら、なんでも」


..............


この話、何度も読むと、ある意味、自分勝手な女の話、でもありますね。

元祖レスターは、ちょっと、可愛そうではないですか???


それはともかく、あこがれて真似する方がより本物に近くなると言う話。

確かに、アメリカ人の尺八家
日本人のシャンソン歌手
イギリス白人のブルーズマン...よくいますよね。それに、その方が純粋だったりします。


記:2011.06.26


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三分 小説 備忘録

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