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顔のない博物館-北宋社
顔のない博物館


フォスター、お前は死んでいるところだぞ Foster,you're dead / フィリップKディック 訳:仁賀克雄 のあらすじ
初出 Star Science Fiction Stories 3(1955) 原稿到着1953 短編 第35作

フォスターは、学校が嫌いだった。

今日はナイフ作り。ピカピカに仕上げたが、カミングス先生が、
「これではダメね。骨を切ったら、刃が欠けてしまうわ。作り直しなさい」
「明日で良いですか?」

「明日は、緊急時穴掘り訓練です。大事な訓練です。今日中に仕上げなさい」
「穴を掘ってどうするんですか」

「外にいる時、爆撃警報が鳴ったら、どうするの。一番大事なのは、穴を掘って身を隠す事。
   出来ないと死んでしまうわ」

フォスターは思った。
(どうせ、爆弾が落ちれば、穴を掘ったってダメだ。それに細菌爆弾の可能性もある)
「先生、僕はすぐ帰りたいんです!」

「フォスター?ダメです。ちゃんとナイフを直しなさい」

「先生、フォスターはナイフなんて作りたくないんだ。こいつの家は、反戦主義者だから」

「?そうなの?」
「だから、町の防衛組織にも入っていないし、核攻撃監視資金だって、出した事ないんだ。
   それに、家にはシェルターもないんだよ」

カミングス先生は驚いた。
学校にはシェルターがある。しかしそれは学校の物ではない。核攻撃監視資金団体の物だ。

防衛組織員でないと言う事は、あの中に入る権利は無い。

「フォスターは、怖いんだよ。学校にいると、爆弾が落ちた時に、自分だけ置いてきぼりだから」


フォスターは、町をぶらぶらしていた。
ここには、一般用のシェルターがある。50セントあれば、入る事のできる一般用シェルター。

フォスターは、新型のシェルターが展示されている、販売店にやって来た。

「あのガキまた来た。追い返せ!」
店主は若い店員に、フォスターを任せた。

「ねえ君。これは、子供の遊び場じゃないんだ。お父さんを呼んできなさい」
「でも、パパが買ってくれるわけはない」

「買ってくれないって?でも古いのがあるんだろ。え?ないのか?もしかすると、反戦主義者?
   ..そうなのか。まあ、君、これはいざと言う場合の、安全のためのものだから。大丈夫だよ、戦争は起きないよ」

フォスターは、昼間の事を思い出した。

フォスターは走っていた。
呼吸を止めて、全力疾走、
対ガス兵器訓練。シェルターまで一目散。

仲間が、どんどん前へ行く。

フォスターは力尽き、ぜいぜいと息をする。

先生が、近寄って言う。
「フォスター!お前は死んでいるところだぞ!」


家に帰る。
「どこを、ほっつき歩いてるんだ」
「ダウンタウンで、シェルターを見てた」

「シェルター?くだらん! 次から次へと新製品。ころころ機能を変えて、商品を買わせる」
「新品じゃなくても良いんだ。古い奴でも」

「危険だ危険だと脅して、買わせるんだ。テレビや冷蔵庫より、奴らには都合が良い。
   なけりゃ死んでしまうだからな、奴らに言わせると。 でも俺は騙されない!」
「でも...」

「景気が良いのは奴らだけだ」
「ちょっと待って、あなた。わたしもフォスターに賛成だわ。なんでうちだけシェルターを、買わないの?
   あなたは本当に反戦主義者なの?核攻撃監視資金だった出すべきよ。
   うちが回りから、何て言われてるか知っているの?」

「いや、不景気で金がないんだよ。あれば..わかったよ。次の日曜日に買いに行こう。監視資金も払ってやる」

そして、フォスターの家に、最新のシェルターがやって来た。

近所の人達が、みんな見に来た。
最新式!この中で1年間、安全に暮らせる!

旧型(たったの半年しか暮らせない奴)を持っている人が、羨ましがっていた。
父さんは、照れて説明していた。
「いやあ、本当は、半年で充分なんですが、最新式は1年なんで...」

翌日、学校の友達は、フォスターの家に、最新式のシェルターが来た事を知っていた。
フォスターの手首には、核攻撃監視団体の、シェルター入場許可シールもある。彼は幸せだった。


「ちくしょう!これは陰謀だ!」
父さんは、家のテレビを見て怒っていた。
テレビは、ソビエトが開発した、新しい爆弾の話をしていた。

穿孔弾 !

地下まで潜り、シェルターを破壊する、特別兵器。
これが、量産されたら、シェルターなど意味がない!

しかし、これを予期した、新たな防御装置のCMも流れた。

強力防護ネット。

この新製品を シェルターの上に張れば、貴方のご家族は安全です!発売はもうすぐ!

「これが、無ければシェルターなど無意味だ!仕方ない。買おう。次のクリスマスだ」

父のやっている。手作り家具店は不振だった。今月で、また一人、職人に辞めてもらった。
景気は悪くなるばかり。
どこかに、誰か、儲けている奴は、いるのか?

でも、フォスターは幸せだった。毎日、学校から帰るとシェルターに入って過ごす。
ここは、彼の楽園だった。

今日もシェルターに入ろうと、フォスターが裏庭に行くと、そこには、大きな穴が
ぽっかりと空いていた。

シェルターは?

呆然としているフォスターに、父親が言った。
「すまん。会社が潰れそうで、ローンが払えなかったんだ。シェルターは返した。

   でも、あいつらは良い奴だ。支払い金の半分は返してくれたよ。
   それから、監視団体への募金は続けるからな...おい、フォスター!どこへ行く!」

フォスターは、シェルターに入って幸せだった。彼は眠っていた。

それを発見したのは、販売店の男性。売り物の中に、男の子がいたのだ。
先日、売ったシェルターの家の子だと、すぐ気が付いた。
そして、それが返品になった事も。

起こされたフォスターは、とぼとぼと、歩いて行った。

「あの子の家には、特別に卸値で売ってやれば良いのに」
「それじゃあ、こっちが干上がっちまう。慈善事業じゃないんだ」

とぼとぼ家へ帰るフォスターが見上げると、一般用シェルターの看板があった。
「地には平和。全体安全!緊急用シェルター、入場料50セント」


..............


商品の売買に物語性(=神話性と言った方がより良い?)を持たせる人々。
そんな人は、必ず笑顔で良い人。知的で、流行に敏感で、スマート。格好が良いもんです。

いや、イヤミじゃないですよ。

あと、進歩的で、エコロジカルって言うのも、付け足しときます。
だから、イヤミじゃ、ないって!

記:2011.06.20


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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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