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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


少数報告 Minority report / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Fantastic Universe(1956.1) 原稿到着1954 短編 第72作


アンダートンは、政府から送られてきた新任補佐官のウィットワーに、システムの説明をしていた。

「これによる我々の社会の恩恵は、システム開始以来5年間で、殺人事件、わずか1件と言う実績だ。
   その1件も、システムは予知していたのにも拘わらず、拘束部隊が犯人を取り逃した事が、最大の原因だ」

「素晴らしい実績ですね。このシステムの管理者は、貴方以外にはいるのですか?」
「犯罪の事前予知拘束のシステム構築、法律整備、運用管理、全て私が行ってきた。管理者は私だ」

「運用は私が行っているが、悪用はできない。ここで報告される犯罪予告は、すべて、軍部へも
   同時に報告される。私が、ある犯罪をもみ消そうとすれば、直ちに彼らの知るところとなる」

「一部では、貴方が拘束しているのは犯罪者ではない、と言う意見もありますが」
「確かに、厳密に言えば、彼らはまだ犯罪者ではない。そこで彼らは主張する。私は無罪だと。
   しかし、行為が実際に為されたか為されないかは、形而上の問題だ。彼らが犯罪者であるのは明確で、
   我々は、社会の損害がまだ発生しない時点での、拘束を行っている過ぎない」

(この男を、なぜ政府は送ってきたのだ?この方面のエキスパートでもなさそうだ?
   まさか、政府と軍が結託したのか?)

そして、彼らはこのシステムの中核、分析棟にやって来た。

「彼らが、プレコグ:予知能力者だ」
部屋の中では、3人が特製の寝椅子に横たわっている。
彼らの全身には、各種の金属バンドがはめられ、そこから夥しい数の導線が出ている。

口には栄養チューブ。鼻へは酸素強化空気。
彼らは、ここに横たわったまま、一日中、浮わ言を言い続ける。

彼らには、動物的な反射行動はない。
頭や心は、予知能力の強大な力に支配され、感情は消えてしまっている。

彼らの浮わ言は未来を見た描写だ。その殆どは無意味なものである。
しかし、言葉や、イメージは分析器にかけられ、抽出される。

そして、重大事件に関わる事が抽出され、分析された結果が報告される。

「私は、世の中の金儲け主義が、彼らプレコグを、自分の利益のために使おうとしている時に
   世の中に取って、最善の方法を考え出したのだ」

その時、ひとつの事件をシステムが通知し、紙が出てきた。

アンダートンは、それをちらっと見て、ポケットにしまった。
「さて、説明は終りだ。戻るとしよう」

アンダートンは、汗を流しながら、考えていた。
(俺を陥れようとしているのは、誰だ?このウィットワーなのか?)

実は、先ほど、アンダートンが取り上げた、犯罪予知書には、こう書かれていたのだ。

− 1週間後、アンダートンが殺人を犯す。被害者はレオポルド カプラン −

(カプラン?誰だそいつは?これがでっち上げだ!)

しかし、あと1時間も経つと、報告書のコピーが出回り、アンダートンの予知犯罪は知れてしまう。

アンダートンは、ここで秘書をしている妻のリサにこの事を説明し、とりあえず、予告の1週間の間を
逃げ切る事にする。予定時刻を自由の身で過ぎれば、彼の無罪は証明されるのだ。

しかし、妻の部屋に行くと、妻はウィットワーと、話しをしている最中だった。
まさか、妻と若いウィットワーが仕組んだのか?

アンダートンは、逃げ出した。しかし、予防局を出たところで、男達に捕まってしまった。
アンダートンは車に乗らされた。

「こんにちわ、アンダートン君。私の名前はレオポルド カプラン」
「!」

「軍から、聞かされたよ。君が私を殺すって」
「いえ、これはでっち上げです。私は誰かに陥れられたのです」

「そうだろうねえ。私達はお互いに面識ないからね。しかし、君達の内部の抗争には興味があるんだ。とりあえず、
   君は予防局に帰って貰おう。君がぶちこんだ、犯罪未遂者がたくさんいる収容所に、入ってもらおうか」

車のラジオは、アンダートンが指名手配された事を、伝えていた。

また、今回の犯罪予知が、通常の3人のプレコグの共通予知ではなく、2対1の予知であった事を伝えていた。
3人の予知が分かれた場合は、2人の方がが多数報告、1人は少数報告と呼ばれる。
アンダートンは、この少数報告の内容を知りたかった。そこにこそ、真実があるに違いない。

しかし今は、収容所へと近づいている。

その時、アンダートン達を乗せた車の側面へ、別の車が突っ込んで来た。
横転した車から、アンダートンは救い出され、別の車に乗せられた。

「我々は、警察を監視する、君のような人間にとっては保護団体だ」
男はアンダートンに、偽造IDや当座の逃走資金をくれた。

全市に、警戒線が張られている。偽造IDは持っているが、安全と言う事はない。
しばらくは、大人しくしていないと。

しかし、彼は気になった。
このままにして、システムが正しいとすれば、アンダートンは殺人者だ。

また、システムが正しくないとすれば、アンダートンは、これまで無罪の者に罪を与えた犯罪者だ。
どちらも、収容所送りが相応しい犯罪だ。

少数報告。
(私がカプランを殺したとしない、少数報告にこそ、真実があるはずだ。
   そこにこそ、システムが誤りはでなく、かつ、私が犯罪者ではないと証明できる何かが...

彼は予防局の同僚、親友のペイジに電話をかける。

「え?アンダートンか!今、どうしてる?」
「転職したんだ。今は電気修理士さ。予防局に修理の仕事はないかな」

「はああ??、ああ、そうか、何か仕事がしたいのか。よし!今日の4時に来い。俺が直接会う」

これは、罠かも知れない。しかし、今はこれにかけるしかない。

4時。
面会したペイジは言った。
「どうかしてますよ!何故、戻って来たんですか。ここほど危険な所はない」
「ああ、しかし、ここほど、勝手知ったる所もないさ。それに調べたい事がある」

アンダートンは、少数報告の主、ジェリーの報告を調べた。

ジェリーは24才。水頭症の痴呆だが、そのくすんだ眼の奥には、未来を読む力がある。

ジェリーの報告は、他のものとは位相がずれていた。
つまり、別の可能性を見たのだ。ジェリーの方が新しい。

きっとこうだろう。他の二人は、アンダートンの殺人の未来を見た。
しかしこうなった挙句、自分の未来を知ったアンダートンは、自分の未来を変えた。
つまり、3人は正しいが、この件を知ったアンダートンは、自分の未来を変えた、

少数報告ではあるが、それは、多数報告を無効にするものである。
だから今、彼は無罪なのだ!

しかし、この証拠をウィットワーが素直に受け入れるだろうか。
いや、もみ消して、自分が代理の長官から、本物の長官になるのではないか。

振り返ると、妻のリサが居た。
彼女は、捜索班の責任者になっているそうだ。

彼は彼女に、少数報告の件を説明した。
リサは逃走用の高速艇を、準備してくれた。
彼は時間稼ぎのために、それでリサと逃走した。

リサとアンダートンは話す。
予測を知る事によって、未来が変わるのであれば、これめでの殺人予備者は、本当に犯罪者なのか?

アンダートンの行っている事は、利己的な欲望のために、組織を破壊する事ではないか。
また、カプランは表立ってはいないが、極めて大きな組織を動かしている重要人物である事..など

その時。
高速艇は急遽、拿捕される。

乗り込んで来たのはカプランの手配の者達。

「アンダートン!この船は罠だ。予防局のパトロール艇に尾行されている。この女を殺して、君を逃がす」
カプランの配下は、少数報告の証拠テープを受け取ると、リサの首を絞め、空中の船から、落下させようとした。

しかし、落下したのは、アンダートンの打つ銃を食らった配下の方だった。

アンダートンとリサは逃げた。
リサの言う、カプランが大きな組織を動かしていると言うのは、本当のようだ。
それに、彼らの迅速な行動!予防局内部に、カプランのスパイがいると言う事だ。

アンダートンはリサに銃を向け、ウィットワーとの交渉を行うために、予防局へ戻る。

「アンダートン。少数報告の件は理解した。システムにも誤りはないし、私の操作もない。これが事実だ」
「ああ、しかし多数報告は既に公開されてしまったし、また、少数報告が真実を語っている、
   と言う証拠をカプランに握られてしまった」

「軍は、この予防局の存在が気に入らない。この組織がある以上、
   戦争前のように、完全に自分達が、権力を掌握する事ができないからだ」

「もう一度、全員の予測を詳しくしらべよう」

ドナの資料。
カプランは帰宅中のアンダートンを拉致し、自発的な予防局解散を命じられる。
アンダートンは上院の支持を求めるが、上院は内戦を避けるために、予防局解体を命じる。
アンダートンは警察の一部隊を引き連れ、カプランの指令部を襲う。作戦は成功し、カプランは死ぬ!

これが初めの多数報告だ。

もうひとつ。マイクの報告。時間はドナと同じだ。

アンダートンは、マイクの予知を調べ終えた。
ウィットワーが聞く。
「どうだった。同じだったか?それとも、何かまずい事が?」

「...いや、まずい、と言う事ではない...第一級謀殺の罰則は何か知っているか」
「?たしか、無期懲役...」
「ああ、最高がそれだ。しかし君があちこちに工作すれば、殖民惑星の流刑にまで減刑できるだろう。
   たのんだぞ。俺はカプランの元へ行く!」

軍の巨大の式典が、行われていた。
発表の準備をしていたカプランは、思わぬ来客に会う。

「アンダートン!逃げて来たのか。よし、式典に二人で出よう。殺人の被害者と加害者が手を取り合って、
あのまやかしのシステムを糾弾するんだ。これで君はもう安全だ」

式が始まった。カプランとアンダートンは、共に台上に登った。

「彼はアンダートン。みなさん、ご存知の殺人手配者です。そして、その被害者は私。
   彼は本当に加害者なのでしょうか?犯罪防止システムの予言は、本当に常に正しいのでしょうか?
   彼が殺人者でないとすると、システムは今まで、どれだけ無実の人間を罪に陥れて来たのでしょうか?」

カプランはアンドートンの予知にあった、少数報告の件を説明した。

説明の途中で、カプランは口ごもった。声がでないのだ。
代わりに、彼の胸からは、血しぶきが飛び散った。アンダートンが打ったのだ。

観客の絶叫の中、アンダートンは会場から逃げた。そして、外で待っていた、予防局の拘束員に捕まった。

アンダートンは、流刑となった。
ウィトワーは予防局長官となり、見送りに来た。

「ウィットワー。結局、多数報告はなかったのだ、時間線の違う3つの少数報告があっただけだ。
   ドナの報告が初め。それを聞いた私の反応がジェリー。そして、その事態に対するカプランの動きに、
   私が考えを変えた時点の報告がマイク。すべては正しい、しかし前の2つは、変わる前のものだ」

「また、こんな事が起こるんじゃないですか。いや、何度も起こっているかも」
「いや、これは情報を事前にしる事ができる者にしか起きない。つまり、次に起きるのは君だよ」

..............


おなじみスピルバーグのマイノリティ レポートの原作
でも、ディックの話にしては、謀略性がないんですよね。意外です

記:2011.03.31


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三分 小説 備忘録

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