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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


超能力世界 A World of Talent / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Galaxy(1954.10) 原稿到着1954 短編 第81作


「あの子には、才能がないわ」
ジェリーは、そう言った。

計画的に結婚した、カートとジェリーの子供なのに。ティムには才能がない。
カートとジェリーも、優れた予知能力者なのに。

ティムはまだ小さい。あと12年の猶予がある。しかし、それを過ぎたら...

ティムに予知能力がないのは、歴然ととしている。
父親なら、子供にプレゼントを買ってくるだろう。

ティムに言う。
「お前に、素敵なものを買って来たよ」
「なーに?」

「何だろうね?ほら、このおもちゃさ!」
箱を開けて、大好きなおもちゃを見て、心の底から湧き出るティムの笑み。幸福な一瞬!
「パパ、ありがとう!」

ダメだ。この子は!

この子は、全く予知が出来ていない。
未来が、全く見えていないのだ。
期待に胸躍らせ、それを見せると、満面の笑みを浮かべている。

クソッ!なんて事だ。俺とジェリーの息子なのに!


ティムは今、ソファーの下をゴソゴソと嗅ぎ変わっている。「右だ、左だ」と言いながら。

いつもの、ティムの遊びだ。

なんでも、ティムには大人には見えない不思議な精霊が見えて、それには右と左がいるらしい。
ほとんどは右で、左はまだ一人だけ。今は珍しい左を見つけたと言って、はしゃいで、
家中を探している。 あと12年なのに...

このプロキシマ第3惑星惑星は、植民地の一つ。
テラから独立し、従属状態から抜け出す事は、人間には自然な状態だ。
そのためには、我々は単なる物資の供給地以外の戦略を、取らなければならない。

その一つが超能力者の数である。超能力の発現者は、その能力によってクラス分けされ、
地位を与えられる。そして、いつまでも能力の発生しない者は、"断種"される。

予知能力者、読心能力者、蘇生能力者、思考移動能力者、物体変形能力者、
様々な超能力者の力により、我々は地球から独立を果たすのだ。

リーダーの読心能力者レナルズの計画で、カートとジェリーの結婚は勧められた。
しかし、彼らの生活は既に破綻していた。
「あの子は、私たち珍種同士から生まれた、別の珍種なのよ。能無しと言う名の」
ジェリーは、自分が、超能力の発現しないティムの母親とは、認められたくないのだった。

カートはティムを、超能力者向けの学校に連れて行く。ここで刺激を受けてくれれば
、 何かが変わるかも知れない。


自分の母校。
「君、サリーは何処にいるか知っているかい?」
サリー、この学校の最大の実力者。

「サリー?そんな事より、あんた奥さんと別れたがってるな。あんたの好みは、
   もっと若いのらしいや。髪は黒で..」
「うるさい、黙ってろ!」
この学校では読心能力者などゴロゴロしている。

「こんにちは、カート。あなたはティムね?」
サリーが出てきた。まだ13歳。
しかし、この学校、発足以来、最大の実力者。最強ではないが。

「相変わらず、君の活躍は素晴らしいね。君のおかげで、我が国は超能力者の宝庫だ」
「私は彼らの能力を、少し後押しをしてるだけよ」
「今日は、"でかぶつ"に会いに来たんだ。君にも同席して欲しい」
「そう。ひとりじゃ怖いもんね。彼、また太ったのよ。あれじゃ、先が長くないわ」

「食事の最中を、お邪魔したのかな?」
「食べてない時なんてないわ」
"でかぶつ"の部屋の床には、チョコやキャンディーが散乱していた。
"でかぶつ"。最強の能力者。しかし、その外見は、200kgもの肉の塊。

チョコやキャンディーは彼が、宇宙をスキャンして、テラにある御菓子工場を発見して、
念動力で、"取り寄せた"品々だ。

それを食べながら、ブクブク太る3歳児。
彼の才能は特別だ。
スキャン範囲は宇宙にまで及ぶし、そこからの念動力は一瞬にして、制限はない。

仮に、テラがこの惑星に、ミサイルを打ち込んでも、
"でかぶつ"は一瞬にして、テラへ戻す事ができる。奴らの心臓部へ。

"でかぶつ"は、分離独立運動の象徴であった。それ自身の異形な問題点と共に。

彼の圧倒的な特別な才能は、彼自身が"普通"の人間である事を許さなかった。

とほうもない能力は、彼の脳の機能の大部分を占めた。
その結果、彼には"平凡"な知能が育たなかった。

それが、三歳児並みの、知能と感情。食欲と幼稚な快楽、生存への動物的な本能が彼の全てだ。

彼が、サリーの言いなりなのも、その知能レベルのせいである。狡猾さを持ち合わせる
知恵がないのだ。それに、サリーがいなければ、まぬけな"でかぶつ"は、とっくに
テラのスパイに殺されていたはずだ。

カートは、"でかぶつ"がプロキシマ第6惑星から転送して来た女性、パットを紹介された。

「"でかぶつ"が興味を持つなんて、彼女は何者なんだ」
「彼女は特別なのよ。私たちとは別の意味で。あなたも、会えば判るわ」

パットは若く、黒い髪をした19歳の細い少女だった。
「君のクラスは何だい?」
「私は未発現クラスよ。才能はないの」
「今は19歳だろ。じゃあ、あと2年で...」 (断種されるはずだ)

しかし、カートは気がついた。この娘は、特別だ!

カートが念じても、彼女の未来は見えないのだ!
「そう、それに、テレパシー捜査も効かないのよ。彼女は特別。
   反能力者、とでも言えば良いのかしら。
   超能力が当たり前の世界に生まれた、更に進化した生物よ」

「しかし、今のままでは、彼女はやがて断種されてしまう。彼女の能力を認めさせないと」

カートは息子ティムも、この反能力者ではないかと、思う。そうであれば、殺されずに済む。
それに、超能力者でないからと言って、殺される我々の社会は正常なのか?


結局ジェリーは家を出て行った。カートはパットと暮らしを始める。
今日はティムを連れて3人で、海岸に来た。ティムはここが好きだ。
ここには"精霊"は、いないらしい。

「私には、何の取り柄もないわ」
「ちがう君は、超能力の世界に生まれた、更に進んだ生物なんだよ」
「でも、ひどくマイナスの才能ね。反能力なんて」

「プロキシマ第6惑星は田舎だけど、少しだけ超能力者はいたわ。
   おばあさんの蘇生者。みんな病気になると治してもらっていた」
「蘇生者と、未来の予測者。それだけでいいさ。後は危険だ。だから君が必要。
   今晩、大事な会議があるんだ。結論は判っているけど」

カートは、政府の要人と会っていた。
「テラの推し進める、非発現者の断種は誤りだ。その理由が、"反能力者"の存在だ」
「君の説は大変、面白い。君に協力しよう」

(うまく行った。これでパットは断種されない。しかし..今の行動の結果..新たな不安が..)

カートは喫茶店で待っているパットに会いに戻った。
「反応力者と言うクラスが、認められるの?」
「ああ、うまく行った。これで君は安全だ」

「そう、うれしいわ。これで3人で安全に暮らせる。
   たぶん、ティムも、反能力のような"別の力"を持っているわ」

その時、カートは見た。パットの座った椅子の後ろを通る人間が、
ポケットからスポイトのようなものを出し。一滴の水滴をパットに向けて、立ち去った。
それが、 彼女の髪に触れ、皮膚へ染み渡り..

3分後、パットは死んでいた!

予知はなかった。 パットを抱きしめたカートは、見知らぬ男達に囲まれていた。
「彼女は死んだ。あの男は反能力者。君には、あの男やパットの未来は、予測できない」
「!」

「カート、我々は既に14人の反能力を"無効化"して来た。よく考えてみろ。
   反能力などというものが、クラス化され、増えたらどれだけ、我々能力者のダメージになるのか。
   お前の行おうとした事は、他の予知能力者達にはお見通しだ。気がつかなかったのか。」

カートはパットの遺体を連れて、超能力者学校に向かった。せめて、パットの遺体を故郷に。
また、パットはプロキシマ第6惑星には蘇生者が、いると言っていた。

うまく行けば、その超能力者が、彼女の蘇生してくれるかも知れない(パットの事はすべて不明だが...)。
でかぶつが、俺の願いを聞いてくれるはずだ。

カートは、学校に行く。そこでサリーが立ち塞がった。
「あんたが、何をしようとしたか知ってるわ。あんたは裏切り者よ」

「でかぶつ!俺とパットを、プロキシマ第6惑星に送ってくれ!」
「やめな!でかぶつ!こいつは裏切りものだよ」
「ああ、でもカートは良い奴だ。送ってあげるよ」
「やめないのかい?だったらどうなるか、想像してみな?」

一瞬、でかぶつの顔に恐怖の表情が浮かんだ。しかし、でかぶつは選んだ。自分の意思を。
サリーの表情は、更に酷い恐怖の表情を浮かべた。

しかし、それも彼女の頭上に運ばれた、テラの溶鉱炉からの溶鉄の雨にかき消された。
でかぶつは、カートとパットをプロキシマに送った。転送前の一瞬の猶予の間に、カートは見た。
サリーの最後の力が、でかぶつの体を変質させていた事を。

でかぶつの体は、いや、でかぶつのいた所は、黒いもじゃもじゃの塊りに、なっていた。
でかぶつの体は、数億匹の毒蜘蛛に変質していた。

カートの転送後、毒蜘蛛は一瞬にして散り去った。でかぶつは消えた。

サリーと、でかぶつ。惑星独立の象徴が、一瞬にして消え去った。
惑星はもう無力だ。テラからのミサイル防衛網はもうない。


プロキシマ第6惑星。
カートは蘇生者にパットの蘇生を依頼した。しかし答えはNOだった。
彼女の体は、蘇生できないほど、完全に破壊されていたのだ。

カートには、もうできる事はない。しかし彼はここで意外な人物に会う。
それは、ティムにそっくりな顔をした大人。男は8歳のティムに変わった。

彼は言う。「お父さん。貴方を待っていました」
ティムはいつの間にか30代の男。

「私は、当時のティムの右、つまり彼の未来です。
   我々は、中央が同意しないと、相互に入れ代われないのです。
   当時の彼は、なかなか理解を示してくれず、私達は苦労しました」

「君達は、過去や未来へ行き来できるのか。そうして、世の中に干渉して行く」
「それが、われわれの望む所です。自分の人生の間だけ、と言う制約はありますが。
   今、我々は父さんの活動を支援しています。反能力者により、超能力が中和される世界を」

「私を助けてくれるのか?それならパットを活き返らせてくれ!」
「我々の力は無限ではありません。世界を大きなチェス盤と例えれば、我々は、
   時々盤の上空へ行き、大局を眺め、最善になるように、駒の配置を変える、そんな所でしょうか」

「お前達は、偉大な事をしているから、俺とパットのような、つまらない事には構っていられないのか!」
ティムは、ちょっと困った顔をした。

それはカートにも覚えがある。

まだ小さいティムに、子供の理解を絶した事を説明しようとした時の、あのにが笑い。

「父さん、我々にとっては、パットは死んだとは言えないのです。
   つまり、こことは別の時間線では、彼女は生きているのです。
   でも残念ながら、そこでは、父さんの方が亡くなっています」

「そうか、俺はパットとは暮らせないのか」

その時、カートは、ティムの姿が、激しく、消え、戻り、消え、戻り、するのを見た。
多くの時間線を、洗いざらい、調べているらしい。

「やっと、見つけましたよ」
カートが気がつくと、彼の腕の中には、女性がいた。


..............


SFにはエクストラボレーションと言う言葉がありますが、つまり
将来を予測する時に、現状あるものから、その先を想像すると、言うものですが、 この話しは、正にその、お手本のような感じです。、

しかし、あらためて筋を書いて見ると、
予知能力者は"何を予測できるか"が、若干ブレていますね。

落とし噺と、未来が予測できるを両立させるのは、ちょっと難しいかも?

また、ここにある、超能力と反能力という考えは、
傑作長編の「ユービック」のドタバタとサスペンスにも活かされています。

しかし、溶鉄と毒蜘蛛の戦い、このイメージ大好きです!

記:2011.03.26


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三分 小説 備忘録

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